33.二体のギガス
「くそっ!僕の作戦は完璧なはずなんだ……」
雑魚でも盾ぐらいにはなる。
「早く治してよ、姫城さん」
「山田君……」
桜がスカ―ナイトに胸を貫かれて死んだ、男子生徒の前で祈る。
緑色の光の粒が体を覆うと、男子生徒の傷は瞬く間に治り息を吹き返した。
「…………はっ!あれ、僕は死んだはずじゃ……」
「ぅ……」
胸が、心臓が、締め付けられてるみたいに痛い。けど、みんなの怪我を治さないと。
「なんだ?この揺れは」
僕は逆転の秘策を考えないといけないのに、鬱陶しい揺れが思考を邪魔する。
ドシン、ドシンと規則的な揺れが近づいてくる。
「ギガストロールとギガスジャイアントだ!!」
高台に登った、見張り台の兵士が叫ぶ。
ギガスなんだって?敵を知れば勝てるって諺もあるし、僕も見張り台に登る。
「5……10mぐらいか?あの黄色いのと青いのが、ギガスなんとかか?」
「ギガストロールとギガスジャイアントです」
隣の兵士が訂正する。
「おい、どうすんだよ!門が破られそうだぞ!!」
下からはクラスメイトの怒号が聞こえてくる。魔物の激しい攻撃で、正門が軋んできている。
僕は足早に高台から降りると命令する。
「ボスクラスの魔物が二体来る、聖野君と月見さんはこれを攻撃。他のみんなは雑魚敵を街に引き込んで倒す」
「魔物を街に入れるだと?本当に未来が見えてるんだろな!!山田が死んだのも知ってたってことかよ!!」
負傷したクラスメイトが僕に文句をいってくる。
「姫城さんがいるんだ。一番いい作戦だったから仕方なかったんだよ」
この僕の考えた作戦が気に食わないのか?お前らが雑魚なのが問題なんだろうが、自分の実力のなさを人のせいにするしか出来ないなら黙ってろ。
「浜和君、魔物を入れると街の人が心配だよ……」
くそっ、聖野はいい奴ぶりやがって!お前がやってた悪事を僕は知っているんだぞ。
「大丈夫だよ、僕の未来予知が今まで外れたことなんてなかっただろ」
「ユウタ、気張りな!」
マイル姉さんが背中を押してくれる。
「メイシーも戦うからねっ!」
ロリっ子なのに雑魚クラスメイトより頼もしい。
「ユウタ様、頑張って!」
アマンダも応援してくれている。
僕のスキルで勝利を勝ち取る……!!
「…………来る!」
クラスメイトたちが門を囲み、魔法を撃つ準備を完了した。
「グッゲゲ!!」
「ピュギーーー!!」
ドゴーン!!と正門に何かがぶつかると、遂に門が壊れて土煙が立ち上がり魔物の軍勢が流れ混んで来た。
「今だ!!」
僕の合図で一斉に攻撃する。
「『ファイアボール!!』」「『サンドストーム!!』」
「『ウォーターカッター!!』」「『エアースラッシュ!!』」
無数の魔法が、土煙に出来た魔物の陰に撃ち込まれる。
「やったか!?」
これだけ魔法で攻撃したんだ、半分ぐらいは倒しただろう。
「…………ゲゲゲ!!」
屈折した虹色の壁の向こう側で、ゴブリンたちが笑ったように見えた。
「マジックスライム…………だと……」
虹色の壁が不定形の巨大なスライムに変形する。物理攻撃に弱い代わりに、魔法が効かない特種な魔物だ。
「どうするんだ、浜和!!」
急かすようにクラスメイトたちが僕の方を向く。
「…………後退する」
苦渋の決断だけど、これしかない。今の攻撃でみんなは魔力を使い切っている。
魔物の数が多い以上、囲まれて各個撃破されるのがオチだ。街の人には悪いが、建物を利用して倒すしかない。
「浜和君、あなた本気?」
「月見さんも早く下がって」
二人には大役があるんだ、こんなところで魔力を無駄遣いされたら困る。
「ピュギーーー!!」
猪の魔物か、雑魚に構ってる時間はない。
◇
「大丈夫かい、アンナ」
浜和君の作戦では被害は広がるばかりだ。
「ええ、私はいいから、子どもたちを守ってあげて」
普段から子どもと接する機会の多いアンナらしい。
「ははっ、アンナもみんなも、僕が守るよ」
「ゲゲゲ!!」
街に入り込んだゴブリンを切り捨てる。衛兵さんもいるし、浜和君の作戦通りにボスを倒すとしようか。
「オオオオオオオオオオ!!」
「グオオオオオオオオオオオ!!」
青い巨体ギガストロールと、四本腕の黄色い巨体ギガスジャイアントが噴水の広場で暴れて回っていた。
「牡丹、いくよ」
「任せなさい!」
スキル勇者の剣技・コマンド《一閃》
僕の体が自動で動き、ギガーストロールに切り掛かる。ギガーストロールの棍棒の振り下ろしを自動で回避、胴体に向かって斜め上に上昇しながらスライドし、《一閃》
「オオオオオオオオ!!」
ギガストロールの腹部から紫色の血が飛び散る。
「グオオオオオオオオオオオオ!!」
ギガスジャイアントの左二本の豪腕から繰り出される殴打を、コマンド・《残影》で躱す。
「なにっ!」
避けた先に右腕の攻撃、避けられない!