31.無法街道
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エバンスの街を出て、無法街道を進む。もうそろそろお昼か。
「今日はロゼッタのご飯か……」
ロゼッタの作る料理は、なんというか人の食べるものじゃない。
「はい、ロクロ~~」
上機嫌にフレンチトーストを大盛にしてくれるロゼッタ。フレンチトーストって紫色だったっけな?
「あんまり食欲がないかな」
「ダメですよ!男の子なんだから、いっぱい食べないと」
「そうだぞ、男なんだからいっぱい食え。私の分も食っていいぞ」
しめたという顔で、ロゼッタ特性フレンチトーストを俺の皿に追加するエルザ。
「おいしいですか、ロクロ?」
白いフリフリエプロンを身につけたロゼッタが、上目遣いで聞いてくる。
「おいしいよ、うん。おいしい」
冷や汗が止まらない。死ぬのかな俺。
「よお、うまそうじゃねぇか」
背後から野太い男の声が聞こえて、振り返る。
「獣風情が何用だ」
既に剣を抜き放ったエルザが、紺色の巨体の狼男と対峙する。
「なにも取って食おうって腹積もりじゃねえ。命が惜しけりゃ、金目のものを置いていきな」
鋭い爪をチラつかせて狼男が脅す。
「ロゼッタ、下がってろ」
俺も剣を抜き、ロゼッタを下がらせる。
「私は獣人差別容認派ではないぞ」
新しいワードだ、獣人奴隷のことか。
「そんなこと関係なねえよ。追い剥ぎに信条なんざ無意味ってことだ」
じりじりと距離を詰めて来る狼男。
「エルザ、平和的な解決は無理そうか」
戦ってもいいが、ロゼッタに怪我をさせる訳にはいかない。
「無理だな、根こそぎ奪っていくのが盗賊だ。それに、こいつは手練れだ」
「目がいいよだな」
巨体に似合わぬ素早さでエルザに接近する狼男。
「獣の爪など、効かん!」
鋭い爪を大盾で受け止めるエルザ。
「それはどうかな」
「電撃、付与」
俺から注意が逸れている狼男の脇腹目がけて、剣を突き刺す。
「おっと。殺気が駄々洩れだぜ、小僧」
軽い身のこなしで、後方宙返りで避ける狼男。
「風魔法か」
エルザの大盾には、狼男の爪痕がくっきりと残っていた。
「あん?じゃあな、運がよかったぜお前ら」
狼男の耳が動くと、唐突に走り去って行った。
「どういうことだ?」
なぜ、盗賊が逃げるんだ。なにかの罠か?
その時、エバンスの街方面から一台の馬車が走って来た。
「お前たち、怪我は無いか?」
馬車の中には複数の兵士が乗っている。
「あなた方は」
ロゼッタが俺の後ろに隠れて、おずおずと尋ねる。
「街道警備隊だ。まあ、助けるのは人族だけだがな」
ガハハと男たちは笑うと、そのまま街道を走って行った。
「嫌味な奴らだけど、助かったな」
軽装の俺だったら、狼男の爪で引き裂かれていた。
「エルザ、先ほどの獣人差別とは……」
「そうか、姫もロクロも世俗には疎いのでしたね。アルクレイヘルでは獣人奴隷は一般的ですが、今から行くフーリダ王国や他の国では獣人の扱いは異なります」
「エルザは差別反対派っていってなかった?」
「容認派ではないといったのだ。反対派でもないがな」
「この世界も大変なんだな」
楽しいお昼も、狼男のせいで終わってしまった。
茶太郎とシュネールを走らせる。フーリダ王国は、まだ遠い。




