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「アインさん、そろそろ帰りませんか?」

 僕ら勇者パーティーはダンジョンの十三層まで来たけど、そろそろ疲れてきた。初めてのダンジョン攻略だし、桜も牡丹も疲れて来ている。このぐらいで帰った方がいいだろう。


「そうだね。まだまだ余力がありそうだけど、一度戦力を整えようか」


 僕らはこの階層に来た時の、階段のようなスロープのような洞窟に入っていく。


「うわー!眩しいんだよ」

 桜が腕を太陽に向けて、目に影を作った。


「みんなも戻ってきているな」


 行きは下っていく必要があったのに、帰りは一瞬で外とつながっていた。

 行きは怖くて、帰りはよいよいだね。つくづく物理法則を無視した存在だよ、ダンジョンってやつは。


「今日の探索で魔物の強さや、実戦の怖さも少しは理解出来たと思う。明日からの攻略に向けて、今日はよく休むこと!」


 ダンジョンから街に帰って、アインが解散の挨拶をした頃には夕方だった。


「こんばんはー!」

 僕は約束通り、パン屋にやって来た。彼女を笑顔にするために。


「あっ、昨日のお客さん…………」

 赤毛の三つ編みが今日も揺れていた。


「夕食に君のパンを食べたくてね」

 にっこりと僕が微笑むと、彼女はぎこちなく笑った。


「銅貨二枚です……」

 昨日と同じやり取りでお金を支払う。でも、今日は楽しい日になる。


「もし、よかったら。僕と付き合ってくれませんか?」

 これは告白ではない。一般的に勘違いさせる言動だけど、それが狙いだ。彼女は胸がときめき、恥ずかしそうに目を伏せた。

 これで彼女は笑顔になる。もうすぐね。


「あのっ……私、勇者様には不釣り合いですから……。その……、あの……」

 断ろうとする彼女い笑いかける。


「そんなことないよ。お店を閉じたら、僕と食事に行きましょう!」

 これだけいって、僕は店の外で待つ。入口ドアについたガラスからは、僕がいることが見えていることだろう。


 彼女の作ったパンを食べながら待つ。おいしいね。


「えっと……、店の前に居られると迷惑なので行きましょうか」

 しばらくして、店から出てきた彼女が仕方なく付き合ってあげているといった風にいうので、僕は申し訳なさそうにしておく。


「わー!ミツヒコ兄ちゃんとアンナ姉ちゃんとイチャイチャしてるーー」

 近所で仲良くなった子どもたちが、ワイワイと騒いでいる。


「ほら、もう帰らないといけないぞー」

 恥ずかしそうにしている彼女の代わりに、僕は手をシッシッと振って子どもたちを帰す。


「また遊ぼうねーー」

 ぶんぶんと大きく手を振る子どもたちに、僕も大きく手を振って応える。夕日も沈んで、夜に差し掛かった街を僕らは歩く。


「アンナっていうんだね。かわいいね」

 僕はアンナの肩を抱き寄せる。


「強引なのは好きじゃないです……」


「ははっ、大丈夫だよ。あそこはおいしいお店だからね」

 僕は昨日見つけた酒場に入る。料理だけを出すお店がないので、座って食べられる外食となると酒場しかない。でも、もちろんお酒は飲まない。


「あの。なんで私にこんなに構ってくるんですか」

 私みたいな地味な女に、魔王を倒す勇者様がよくしてくれるのかわからなかった。

 強引だし、話が通じていない感じもするけど、彼の笑顔を見ているとなんだか惹かれてしまう。


「いったじゃないか。君の笑顔が見たいんだ」

 彼女のパン屋には多くの客が来る。そこで彼女が笑っていたらどうだろう、おいしいパンが愛情のこもったパンに変わり、街の人も笑顔になる。……なんて素晴らしいんだ。


「もう帰るので、ついて来ないでくださいね」

 ニコニコと笑う彼にいって、席を立つ。もうお腹は膨れたし、胸の高鳴りを沈めないといけない。


「また明日会おうね」

 僕は肉をナイフで切り分け、口に運んだ。



「月見氏ーー!これを見て欲しいでござる!」

 早朝からハイテンションの砂沸が部屋に押しかけてきていた。


「朝から、うざいんだけど」

 低血圧気味で朝はだるいのに、おしゃべりデブが変な筒を押し付けてきてうざい。


「おやおや?元気がないでござるなー。この魔法式銃(仮)の威力を見たら、たまげるでござるよ」

 外に来いと手招きする砂沸に、桜と彩莉朱に引っ張っていってもらって街の外に出ていく。


「で?この筒がなに」

 金属製の黒くて重い筒の中は空洞だ。


「この魔法式銃(仮)に弾を入れるでござる。そして、火魔法を使うとボン!!火縄銃みたいなものでござるよ」


「なんで私がやらなきゃいけないのよ、自分で使いなさいよ」


「拙者は火魔法を使えないでござるし、一番強い魔法使いは月見氏でござる。実験が成功すれば魔物討伐が楽になるやもしれませぬぞ」


「はいはい」

 筒を空に向けて、火魔法で爆発させる。


 ドガーンと筒が破裂して、粉々になった。


「なんてことをするでござるかーー!!」


「こんなのゴミよ。もっと剣とか実用的なものでも作ってなさい」

 がっくりと膝をつく砂沸にイラつきながら、私は宿に戻る。


「砂沸くん、また頑張ろうね」

 桜が慰めの言葉を優しく投げかける。


「うぅ……頑張るでござるぅ!諦めないでござるぅ……」

 粉々になった魔法式銃(仮)をかき集める砂沸。


「哀れね」

 それを彩莉朱が蔑んだ目で見下ろしていた。

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