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24.できることは知れている

「ちょっと待って、この床は落とし穴になってる」

 先頭を歩く僕、浜和優多はスキル『当たらぬ棒の三歩先』で罠を見破った。三歩先の未来が見える僕の目には、奈落の底に落ちる自分の姿が見えていた。


「浜和君って頼りになるね」

 桜さんは僕に惚れたのか、僕がスキルを使う度に褒めてくる。やれやれ、僕の本命は大栄小町さんなのにモテる男は辛いってやつかな?


「へへへ、そうかな?そうでもないよ。僕のスキルはこういう時こそ役立つからね」


 ぼそぼそと早口で浜和は喋る。


「少数精鋭だからこそ、周りの変化に気をつけてくれ」

 三層に置いてきた非戦闘職と普通の戦闘スキル持ちが安全に倒せる層の限界を探すため、五層まで来ているアインは松明で辺りを照らした。


「暗れぇ暗れぇ」

 京極は手から炎を出して足元を照らす。


「あ?」

 足元ばかりに注意が行っていた京極は気づかなかった。暗い洞窟が続く五層の天井にはイソギンチャクのような魔物が張りつき、触手を伸ばしていることに。


「うぐぅ!!」

 毒々しい紫色の太い触手が京極の首を締め上げて、頭を丸ごと捕食するギザギザの歯がびっしりと生えた口に運ぶ。


「京極君!」

 後ろを歩いていた聖野が触手を切り飛ばす。ドサッと地面に落ちた京極に細く長い幾つもの触手が迫っていた。


「しゃがめ!!」

 アインの刀身から延びた炎の刃が触手を焼き切った。


「あれはドクムラサキだ。細い方の触手には棘があって、捕まると棘から毒を出して激痛を与えてくる。近づかずに、魔法で倒そう」


「クッソたれ、ムカつく奴だ!おい、出番だぞ女」

 京極は壁を殴って、顎で牡丹に指図する。


「嫌な奴……」

 小声で聞こえないように嫌味をいって、風魔法でドクムラサキを細切れにする牡丹。


「仲良くしろとはいわないけど、戦う時だけは協力してくれよ」

 仲の悪いクラスメイトたちにアインはため息をついた。


「コウモリが来るよ」

 僕には飛んでくるコウモリ型の魔物の軌道が見えているので、余裕で叩き切る。


「ユウタ、前進するぞ」


 アインさんに背中を押されて僕は進む。まったく、クラスメイトたちは協調性ってものがないんだよね。僕はみんなのために罠を見破ってるのに。

 それにしてもダンジョンは不思議な場所なんだ。山もあれば沼地もあって、今度は洞窟の中だ。環境がころころ変わって冒険のしがいがあって面白い反面、急な変化で思うように攻略できなくてしんどいところもある。


「止まって」

 三歩先で、壁に空いた縦の隙間からドクムラサキの細い触手が大量に絡みついてくるのが見えた。もはや未来予知と化した僕のスキルの前に、雑魚敵の小賢しい罠は無意味だ。


「ふっ……ふふふふふ」

 僕の適正魔法は火の魔法だ。剣に火魔法を付与!そう、インフェルノダークネスブレイバーだ。

 ズバズバとドクムラサキの触手を切り裂く僕の勇ましい姿は、後ろを歩く大栄さんにはさぞやカッコよく写っていることだろう。役立たずな聖野とか京極も僕を見習って欲しいね。


 大きな空洞に出て、洞窟の続く先は二手に分かれた道だった。


「ここからは勇者パーティーで行く。残りの者は上層のみんなにも魔物を倒す方法を教えてくれ」

 聖野、桜、牡丹、京極の四人がアインとともに洞窟の先に進む。


「雑魚はお留守番だ!!ヒャハッハッハッハ!!」



 ウルの街を出て次の街への荷台で、俺はロゼッタと話していた。


「あのギガストロールを倒した魔法ってどうやったの?」

 俺は自身の無力さを改めて認識した。そもそも、あんなデカい生物に剣で切りかかるなんて正気じゃない。それでもこの世界で生きていく以上、戦いは避けられない。


「なんというか、あの時は守りたいという気持ちで胸がいっぱいだったので、あんまり覚えてないです」

 ロゼッタの言葉に俺はうなだれる。強くなるヒントが隠されていたと思ったのに……。


 そういえば魔導書があったことを思い出した。俺は久しぶりに【魔法使い中級】と【魔法使い上級】を取り出す。


「これを見てくれよ。中級の水魔法のページ」


「アクアブラスト?」


『中級上位魔法、アクアブラスト。

 水塊を飛ばすウォーターボールとの違いは、その威力にある。アクアブラストに閉じ込めた水流がぶつかる衝撃は岩をも砕く衝撃がある。小型から大型の魔物にまで幅広く攻撃が有効な魔法なので、使えるようになると魔物抹消ライフが捗るよ!ただし、物理攻撃が有効ではない魔物には効かないので注意すること』


 これまた魔物に対する憎しみが半端じゃない文章だ。この世界の人は魔物を殺すことに全力を挙げている。身近に自分や家族や友人を殺そうと襲ってくる怪物がいたら排除するのは当然のことだけど、逃げることしかできなかった俺的には少し羨ましく感じた。


「あの時の魔法がアクアブラスト……」

 ロゼッタはなにかを考えているようだ。


「もしかしてロゼッタって、水魔法以外の魔法が使えたりする?」


「アクアブラストがまた使えるかわからないですが、魔力譲渡は、あの……」

 なんだか、暗い顔だった。


「それって、あの時の…………?」

 ハッキリいって聞きづらい内容だ。でも、この先一緒に居るには聞いておかなければならない。大量の獣人を虐殺していた現場に彼女が居た意味は、今いった魔力譲渡しかない。


「でも、使いませんよ」

 ロゼッタにしてはキッパリとした口調だった。


「もしかして、死ぬのか」

 俺の脳裏には青い炎を囲んだフードたちの、苦しそうな顔が思い出されていた。


「魔力譲渡は穢れを取り込む行為です。その代償は死です」


 もう言葉はいらなかった。俺はロゼッタを抱きしめた。


「な、なんですか!?」

 ロゼッタは、突然のロクロの奇行に半音上ずった声を上げた。


「ロゼッタのせいじゃない」

 魔力に呪われ、魔力で独りで、魔力で人を殺した。その事実は間違いなくロゼッタの心に負担をかけている。その心労は想像に余りある。俺にできるのは抱きしめることだけだ。


「私は大丈夫です」

 それは優しい声だった。抱きしめたはずの俺が、逆に抱きしめられた。


「俺なりの、励ましのつもりだったんだけどな……」

 なんだか気まずかった。


「わかっていますよ」

 そういってロゼッタは微笑んだ。

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