21.ギガストロール
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翌日になり、今日は物資調達と情報収集だ。
「今日はトッドが居ないといいな」
昨日、買い物が出来なかった道具屋にロゼッタと二人でやってきた。
「なにを買うのですか?」
黒いレースの目隠しをした、ロゼッタと目が合った。
「ポーションと、油だろ。後は……」
適当に必要なものと、この世界特有のものを買って道具屋を出た。
「なにやら街が騒がしいですね……」
ロゼッタのいう通り、街の外側から騒めきが聞こえてくる。
「た、助けてくれぇーーー!!」
人混みをかき分けて、トッドが半狂乱で喚きながら走ってくる。
「おい!どうしたんだ」
軽薄そうな男からは早々にでない鬼気迫った表情だ。
「お前は昨日の……。すまねぇ、助けてくれ!」
「落ち着け、なにがあったんだ」
トッドは乱れていた息を整えて話し出した。
「アイアン装備を新調しただろ。それで金欠でよぉ、ダンジョンの深い層まで魔物から隠れながら潜ったんだよ。んで、金になりそうなアイテムを回収したから帰ろうとしたんだよ。そしたらギガストロールにバレて追いかけて来たんだよぉ!そのアイテムは取っちゃいけんかったんだ。……それで俺は捨てて逃げたんだけど、ギガストロールは怒っちまってダンジョンの外まで追いかけて来てるんだよ!」
「つまり、この街にその魔物が来るってことだな?」
「ロクロ、民が」
焦ったようにロゼッタがいう。
「そうだよ!もうそろそろ外壁の当たりかもしれねぇ。
俺はギルドで助けを呼んでくる。街に入らないように時間稼ぎを頼む!」
トッドはいい終わるなり、走って冒険者ギルドの方へ走っていった。
「ロゼッタ、エルザを呼んできてくれ」
「無理はしないでくださいね」
ロゼッタの心配を受け取って、俺は走り出す。
街の出口方向に向かうに連れて、大きな何かが見えてきた。
「結構早いな」
独り言を口ずさむ。遠目に見える青い巨体がギガストロールか。
街の衛兵や冒険者たちが走る後ろを俺もついて行く。
「グオオオオオオオオオ!!……ノホ、オ、オオ……、モ……グオオオオオオ!!」
一つ目のボロ布を腰に巻いた青い巨体が、右手に持った馬鹿でかい棍棒を振り回しながら走ってくる。
ダメだ、これは勝てない。そう直観した。それでも街には逃げられない人も居るはずだ。
逃げてはダメだ。
「オラオラ!!光の牙が相手だぜ、デカブツ!!」
前を走る冒険者パーティが先陣を切る。
「ラッセル!」
「おうよ!」
女魔法使いの掛け声で、ハルバードを持った軽装の男がギガストロールに切りかかる。
「我が意にて、その理を滅す。『ファイアフレイム!』」
巨大な炎の塊が女魔法使いの杖から放たれ、ギガストロールの体に命中した。そこにラッセルがハルバードで突きを放つ。
「オオォオオオオオオオ!!」
傷口から紫色の血が流れ、ギガストロールの咆哮に大気が震える。
「ロベルト、一度距離をとるぞ!」
剣と盾を持ったロベルトともに、ラッセルは後退する。
「突撃してくるぞ!散開しろ!!」
衛兵の男が叫ぶ。
「グオオオオオォオオオオオ!!」
ズガン、ズガンと棍棒を盾にしながら街に向かって走りだす。その足取りを止めるために、魔法と槍の攻撃が横合いから繰り出される。
「止まれってんだよ!『サンダーイグニッション』」
足に突き刺した槍から紫電が迸る。槍を突き刺した衛兵が、全体重を掛けて更に深く突き刺す。
「オォオオオオオ!!」
攻撃に怒るギガストロールは足元の衛兵を掴むと、握り潰すために腕の筋肉を引き絞る。
「た、助けてくれ……」
苦悶の表情で衛兵の男は叫ぶ。
俺は咄嗟に持っていた剣を、ギガストロールの一つ目に向かって投げつける。
「グオオオォオオオオオオ!!」
掴んでいた衛兵を投げ捨てて、目に突き刺さった剣を引き抜くギガストロール。
「今だ!」
ラッセルとロベルトが両サイドから攻撃を仕掛ける。
「『ウォールハンマー!!』」「『ウォーターソード!』」
ラッセルのハルバードが尖った岩石のハンマーになり、ギガストロールの腹に突き刺さる。
さらにロベルトがウォールハンマーの上に乗り、水の刃を胸に突き刺す。
「オォォオオオオォオオオオォオオオ!!」
苦し紛れに棍棒を地面に叩きつけるギガストロール。
「近づけねえ……」
ラッセルとロベルトは攻めあぐねる。
「我が覇道は魔を滅す『ウィンドカッター!』」「我が覇道は魔を滅す『エアースラッシュ!』」
街の石壁後方から風魔法がギガーストロールの体表を切り裂き、紫色の血が辺りに飛び散る。
「ノ……オオオオオオ……マ、オオオオオオオォオオオオオ!!」
潰れた目が再生し、ギロリと後方の魔法使いを視線が射貫く。
「おい、まずいぞ……」
ロベルトが盾を構える。
ブオンッ!!……と、右手に持った巨大な棍棒を街に向かって投げつけるギガストロール。
とてつもなく速い投擲に俺は為す術がない。無慈悲にも巨大な棍棒は街を破壊するために飛翔する。
俺にはどうすることも出来ない。