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19.茶太郎とシュネールツシルト

「ふにゃー……、お昼寝って素晴らしいですね」

 牡丹によって、お昼寝の素晴らしさを体に教え込まれた彩莉朱(ありす)と桜。三人はベットを出て、明日のダンジョン攻略のために聖野の泊まっている部屋に行った。


「やあ、善光(ぜんこう)さんも一緒なんだね」


「光彦は一人なの?」


「いや、京極君と大馬君との相部屋だよ。友好的じゃなくて困っちゃうよね」


「京極君はやっぱり、あれだし……」

 桜が言葉を濁す。


「聖野君も気をつけてくださいよ」


「大馬君がいうには悪い人じゃないらしいけど、学校での態度を見ているとね……。

 念には念を入れておくから大丈夫だよ、善光さん」


 聖野のイケメンスマイルに彩莉朱の心が乱れる。


「べっ、べつに聖野君の心配なんてしてないんだからね!牡丹さんと桜さんのためなんだからね!」


「僕の心配をしてくれてありがとう。じゃあ行こうか、みんな」

 聖野とともに三人は街を見て回ることにした。


「こんにちはー!」


 僕は、ボール蹴って遊んでいる子どもに声をかける。


「こんにちは。お兄ちゃん遊んでくれるの?」


「もちろん、僕がすごい技を見せてあげるよ」

 ボールを引いて上げて、太ももと足を使ってリフティングを披露する。


「わーすごーい!!」


「お兄ちゃん、かっこいい!!」


 僕は子どもたちの笑顔を見れて幸せな気持ちだ。


「光彦って、昔っから面倒見がいいのよね」


「そうなんですか」


「光彦君はねぇ、子どもが大好きなんだよ。いいお父さんになりそうだね!」


「聖野君が私のお婿さんに!?桜さんったらなにいってるんですか!」

 彩莉朱が顔を真っ赤にして、桜の背中をバシバシと叩く。


「痛いよぉ、彩莉朱ちゃん」


「楽しそうだね、みんな。なに話してるの?」


 僕は子どもたちにボールを返して、三人の下に戻った。


「彩莉朱ちゃんが結婚、んぶっ!」


「わーー!!桜さん、なにいってるんですか!!」

 彩莉朱が桜の口を手を塞ぐ。


「街を見て回るんでしょ、光彦」


「そうだったね。守るべき人たちをこの目で確かめることで、魔物を倒す力になるよ。……きっとね」


 僕たちは武器屋にやってきた。


「こんにちは。勇者のミツヒコです」

 僕は広場に居た武器屋のおじさんに挨拶をする。


「おお、ご丁寧にどうも。俺はジミーだ、後ろの三人もよろしくな!

 で、武器でも買って行くかい?」


 青いエプロンを首にかけた店主のジミーが剣を渡してくる。


「僕たちは専用の武器を持っているので、また今度買いに来ますね」

 剣をジミーさんに返す。


「そうかい。解魔(かいま)鉱石のマントに白地魔銀(はくちまぎん)の剣がありゃ、しばらく俺の武器は売れそうにないな!」


 ジミーはガハハと豪快に笑って、僕たちは店を出た。


 今は昼も過ぎて、二時か三時頃だ。昼寝していた牡丹たちのためにパン屋にでも行こう。


「みんな、お昼寝してお腹空いてるだろ、パン屋に行こうよ」


「なんで寝てたってわかるのよ」


「簡単なことだよ、牡丹」

 僕は頬っぺたを触るジェスチャーをする。


「あ、マクラの跡がついてるじゃない!いってよー」

 牡丹がぷんすかと怒る。


「そんな牡丹も可愛いよ」


「もー」

 牡丹は照れて口を閉じた。


 パン屋のドアを開けると、カランコロンとベルが鳴った。


「いらっしゃーい」

 僕と同じぐらいの歳の女の子が、店番をしている。三つ編みのおさげにそばかす顔の冴えない感じだ。オレンジ色のシャツとスカートに白いフリフリエプロンが、愛らしくも家庭的な雰囲気を醸し出している。


 お昼も過ぎているからか、パンはあまりない。


「僕はこのパンを貰おうかな」

 コッペパンのようなパンにする。


「銅貨二枚です」


 僕は銅貨二枚を渡しつつ、彼女の手を握る。


「えっ……」


 固まったままの彼女に笑いかける。


「勇者ミツヒコと申します。僕は君を笑顔にしたいんです。

 笑顔って素晴らしいですよね」


「あの……」


 困惑しているみたいだ。もう一押しかな?


「明日からダンジョン攻略を始めるんです。……君のパンを食べるために生きて必ず帰ってきます。必ずね」

 僕は精一杯頑張るという顔を作る、これで落ちない女はいない。そして颯爽と店を後にする。


 今から彼女は笑顔になる。もうすぐね。


「光彦、行かないの?」


 おっと、牡丹が呼んでいる。街を回って行かないとね、笑顔のために。



「よしよーし」

 俺は夜通し走ってくれた馬たちにブラッシングをする。長毛の馬を見たことはないけど、アルパカとかがそうなんだろうか。ブラシで撫でる度に、毛並みがツヤツヤになっていく。目を細めて気持ちよさそうにしているのを見ると可愛く思えてくる。


「そういえば、名前とかついてないの?」

 エルザに聞いてみる。


「ん?そういえばあったような、なかったよな……」


「私、名前をつけたいです!」

 ロゼッタがクリーム色の馬を撫でる。


「じゃあ俺はこいつに名前をつけようかな」

 俺は茶色の馬の名前を考える。


「次郎……太郎……は、無難すぎるな。

 特別足が速いのかもわからないし……」


 うーんと唸り、閃いた。


「こいつは茶太郎だ」


「チャタロウですか。どういう意味があるんですか?」


「茶色いから茶太郎だ。シンプルだろ」


「はぁ、そうですか」

 ロゼッタにはいまいち伝わっていない。


「私はシュネールツシルト、略してシュネちゃんと命名します!」


「勇者の物語りからですか?」


「エルザも知っているのね」

 ロゼッタがにっこりと笑みを浮かべる。


「有名ですから」

 干し草を束ねながら返事を返すエルザ。


「それってどんな話しなの?」

 勇者の物語りってタイトルからして童話なのかな。


「昔に実在した悪のドラゴンを勇者が倒す話しだ。勇者はドラゴンの猛攻に力尽きてしまうも、最後の力を勇者の(つるぎ)に込めて、ついに討伐。勇者は戦いで亡くなってしまうも、意思を継いだ勇者の仲間が世界を平和にする、実話を元にしたおとぎ話だ」


「その勇者の馬の名前がシュバちゃんか」


「シュネちゃんです!」

 ロゼッタがぷんすかと怒ってくる。


「よーしよし、お前は今日からシュネールツシルトだ」

 クリーム色の馬をブラッシングしてやると、茶太郎がもっと撫でるように背中を小突いてくる。


「よーしよし、茶太郎も撫でてやる!」


「ずるいですよ、私も撫でます!」


 俺は新しく名付けた二頭の馬と友達になった。

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