1.異世界
◇
「異世界転移キターーーーーー!!」
誰ともなしにそんな言葉が出てきた。騒いでいるのはデブオタク男子の砂沸琢磨。
なんか知らんが、ここは教師としてガキどもを黙らせなくてはならない。しかし、なんかローブを被った魔術師みたいな人に取り囲まれてるし、白髪の王様みたいなおじさんと、その隣には色黒で体のデカい厳ついおっさんが騎士の恰好をしている。なんだここ、コスプレ会場かなにかか。そんなこと思いながら言葉を絞り出した。
「あのー突然こんな場所にいまして、あのーあなた方はどちら様でしょうか」
権力者っぽい奴には低姿勢が大切だ。ゴマすりの鬱憤は生徒にぶつければ済む。
一瞬、色黒の大男に睨まれた気がしたがよく見るとそうでもなかった。
王様みたいな人が答えた。
「混乱するのも無理はないな。ワシはこのアルクレイヘルの王、クレイヘルじゃ。お主たちは魔王アトラスを倒すために召喚された選ばれし勇者じゃ」
「なんなんだよ」
「ふざけんな!」
と、口々にクレイヘルに抗議の声を上げる生徒たち。
そこにクラスのリーダー。茶髪に爽やかイケメンフェイスな聖野光彦が声高かにいう。
「みんな!落ち着いてくれ!!クレイヘルさん、僕たちはただの高校生です。魔王と戦えなんていわれても無理ですよ!」
クレイヘルが口を開くより早く隣に控えている色黒の騎士が怒りの形相で聖野を睨みつけて怒鳴る。
「王に対して何たる口の利き方をする。貴様ッ!!」
怖い、怖すぎる……。
それをクレイヘルが制止する。
「よい。いきなり召喚して無礼なのはワシらの方じゃ。お主らは勇者として召喚したといったが、その際に強大な力を授かっておるのじゃ。水晶玉を持って来い」
魔術師みたいな人が大きな水晶玉を両手に抱えて持ってきた。
「この水晶に手を翳すと職業とステータスが見れるのじゃ。ほれ、こちらへ参れ」
そういって聖野を呼び寄せるクレイヘル。聖野は自信に満ち溢れた顔で姿勢よくクレイヘルの元まで歩くと手を翳した。
名前 聖野 光彦
職業 勇者
体力 10000
魔力 10000
攻撃力 10000
防御力 10000
素早さ 10000
「見てみよ。勇者と書いてあろう」
「はい」
といった聖野の顔には自信が滲んでいた。
「お主が今代の勇者じゃ。しかもステータスがオール一万の歴代最強の勇者じゃ」
「僕が最強の勇者……」
聖野は周りにバレないようにほくそ笑んだ。
騒めき立つクラスメイトたち。
「ええっ!光彦が勇者かよ!やるなー」
と、栗頭のムードメーカー、猿渡恭弥が囃し立てる。
「召喚されたお主たちは勇者と共に戦い、勇者を支える役目を担う者たちじゃ。つまりミツヒコ、お主が魔王討伐の主役。勇者ということじゃ」
今度は全員向かって話す。
「お主らは勇者ミツヒコと共に魔王アトラスを倒すのじゃ。いきなり召喚しておいてなんだが、元の世界に戻るには魔王アトラスの心臓がなければ戻れないのじゃ」
聖野は納得いったように頷く。
「みんな、聞いてくれ。僕が勇者としてみんなを守ってみせる!一緒に頑張ろう!」
「俺は光彦に賛成だぜ!」
と猿渡が威勢よくいう。それにクラスの二代美人、聖野の幼馴染の黒髪ロングなスレンダー美人、月見牡丹と、桃色ショートのロリ巨乳な姫城桜が
「仕方ないわね」
「仕方ないね」
と頷く。聖野の言葉にクラスの雰囲気がなんとなく纏まった。
「では、皆の者水晶にて己の職業とステータスを確認するのじゃ」
月見と姫城も順に水晶に手を翳す。
「私は魔導士で、桜は?」
「桜は僧侶みたいです。なんかお坊さんみたいで可愛くないよ~」
名前 月見 牡丹
職業 魔導士
体力 3500
魔力 9800
攻撃力 8000
防御力 1200
素早さ 980
名前 姫城 桜
職業 僧侶
体力 9900
魔力 6000
攻撃力 1000
防御力 6800
素早さ 500
「オレ様は格闘家か……、ゲェヘヘェ。また雑魚を殴り殺すのが楽しみだなぁ」
そういったのはクラスの喧嘩番長、燃えるような赤髪の京極紅蓮蛇。今朝自殺した番柄鹿路いじめの主犯格だが、親が夫婦揃って政治家なので表沙汰になってはいない。
名前 京極 紅蓮蛇
職業 格闘家
体力 6900
魔力 1000
攻撃力 4649
防御力 3200
素早さ 8000
「京極さん、俺はタンクって職業みたいです。なんで俺はカタカナなんすか?てか、タンクってマジイミフなんだけど」
河原は京極の腰巾着だ。
名前 河原 颯介
職業 タンク
体力 500
魔力 250
攻撃力 300
防御力 1234
素早さ 150
そして、クラス全員が水晶に手を翳して最後に教師である鵠沼耕海が訝し気に手を翳した。
「なんでクソガキ共が俺より良い職についてんだよ……クソが」
水晶には詐欺師と出ていた。