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「やっとランドかぁーー!!」

 猿渡が両手を上げて、伸びをする。


「恭弥はダンジョンに行ってみたいんだよね」


「あたぼうよ!男なら冒険だぜ、光彦」


「強い魔物は僕たちにしか倒せないから、もちろん行くけどね」


 腰ぐらいの高さの石垣が街を覆っている。街自体は冒険者ギルドや、武器防具屋、奴隷商など、王都の施設と遜色ない規模だが、入口は跳ね上げ式の木の棒という、簡素なものだ。

 王都の立派な街並みや城壁と比べると見劣りするけど、地方都市のような街は、それはそれで過ごしやすそうな印象だ。


 魔物が湧き出るダンジョンと呼ばれる場所を攻略するのが、僕たち勇者に期待されていることだ。

 魔物を殺せば殺すほど、笑顔が増えて行く夢の施設だ。僕の勇者の力でみんなを救ってあげないとね。


「聖夜、行かないの?」

 牡丹が振り返って聞いてくる。


「いや、いい街だと思ってね」


 本当にいい街だ。魔物が沸いて出てくるダンジョンのすぐ近くにあるなんて、しかも、たくさんの人が住み、働き、子どもたちも走り回っている。なんて、素晴らしいことだろうか。笑顔が僕を待ち受けている。


 僕は待ってくれているクラスメイトたちの下へ、笑顔で歩いて行った。



 噴水が特徴的な大広場に、ルーカスはみんなを連れてきた。


「あっ、領主様だ!」


「ルーカス様ーー!!」


 道行く住民がルーカスに気づいて声をかけてくる。


「やあ!みんな、元気にしてるかい?

 勇者のみんなを連れてきたよ!」


 そういって、手を伸ばして聖野たちを住民たちに紹介するルーカス。


「ぜひとも顔を覚えていってね。ダンジョンを攻略してくれる勇者たちだからね!」


「なんか、ひょろい兄ちゃんと姉ちゃんだなぁ」

 武器屋の親父が腕を組み、ため息をつく。


「まあまあ、親父さんも仲良くして下さいね!」


 今度は宿屋が立ち並ぶ一画に案内するルーカス。


「結構な人数だからね、この辺の宿に適当に泊まってくれたらいいよ!宿代は国が持ってくれるから、その辺は気にしなくていいよ。でも、セイヤ君やツキミ君みたいに強いステータス以外の人は、高い宿には泊まらないでね。予算も無限じゃないからね」


 大人数なので、分散して泊まって欲しいとのことで、三人ほどに分かれて泊まることになった。もちろん、男女別室の形で。


「桜、彩莉朱(ありす)、私たちは一緒に泊まりましょうね」

 ランドへの道中で仲良くなった善光彩莉朱(ぜんこう ありす)を牡丹は勇者パーティーに加えようとしていた。


「桜はね、彩莉朱ちゃんとも仲良くできて嬉しいよ」

 にこにこと笑う桜に、彩莉朱も牡丹も笑顔になる。


「わっ、私も二人が仲良くしてくれて嬉しいです」

 日焼けサロンで焼いた肌や、もとは黒色の髪を金髪に染めていたせいで、今までクラスメイトに怖がられて誰にも話しかけられなかった善光彩莉朱(ぜんこう ありす)は、今では牡丹と桜という友達ができていた。


「あっちの宿に泊まりましょ」

 牡丹は二人を連れて白塗りの高級そうな宿にやってきた。


「いらっしゃいませ!お泊りですか?」

 ベージュ色の髪を三つ編みにした中年のきれいな女性が受付に立っていた。


「はい、三人なんですが泊まれますか」


「三人ですね……。お嬢さんたちなら一泊、銀貨九枚で食事付きがオススメだよ」


 安宿であれば銅貨五枚で泊まれるが、本当に寝るだけの施設だ。白い大理石のような床に、高級感のある模様が入った壁紙の白亜(はくあ)亭の立派な施設であれば、一人当たり銀貨三枚は妥当だと牡丹は判断した。


「しばらくは泊まる予定なので、それでお願いします。支払いはこれでお願いできますか」

 牡丹は首から王家の紋章が描かれた、魔法の金属板を取り出す。


「あら、召喚された勇者様なのね!キュートだから全然わからなかったじゃない、早くいってよ~もぅ」

 おばさんは嬉しそうに笑って、帳簿に手早くなにかを書いて部屋の鍵を渡してくれた。


「二階の角部屋だからね」


 ありがとうございますと会釈をして、三人は部屋に向かった。


「わー、ふかふかのベットだーー」

 ベットにポフンと倒れ込む桜に、牡丹と彩莉朱(ありす)が笑う。


「桜さんって、子どもっぽくて可愛らしいですね」


「そうね、でも癒されるでしょ」


 二人の笑い声に頬っぺたを膨らませる桜。


「もー二人で内緒話したら、だめなんだよ。桜もいっしょだよ!」


 桜が二人に抱き着いて、ベットに沈み込む三人。


「やんっ、牡丹ちゃん、まだお昼だよぉ……」


「ふふっ……。彩莉朱にも教えてあげるわ」


「えぇ!?女の子同士なのに……?」


 牡丹が舌なめずりをして、二人を布団に引きずり込んだ。



 白亜亭の一室で、聖野は京極、大馬(おおま)と話していた。


「いやー京極と同室になるとはね。よろしくね!」


「……黙ってろ」

 赤い髪をかき上げて聖野を睨みつけると、京極は早々に部屋を出て行った。


「京極さんは悪い人じゃないんですよ聖野君」


「今までの行いで、そう思う人は居ないと思うけどね」


「そうですか?まあ、そんなこともあるかも知れませんね。そんなことよりも、私は用事があるので失礼しますね」

 フフッと大馬は不気味に笑って部屋を出て行った。


「やれやれ、京極君とは上手くいきそうにないね」


 部屋の中で一人、聖野の目は笑っていた。

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