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「お、またセンセイの勝ちだ」


 夜の城下町の酒場で鵠沼(くげ)は、博打に精を出していた。


「ピンころがしは順番にサイコロを振って、出目の数だけチップを積んでいくだろ。

 先に一の出目を出した奴が総取りなんだから、勝つ確率は平等だぜ」


「さすが、センセイだな。田舎で教師だった割に博識だぜ!

 学がねぇ俺らにはよくわからんが、カクリツロンってやつだもんな!」


 むさ苦しい男たちがエール片手に盛り上がっていた。


「確率論なんて中学生でも知ってるぜ?」

 中年太りでさらに腹の出た鵠沼は、得意げな顔をする。


「チュウガクゼイ?なんだか知らんが、流石センセイだぜ!よっ!」

 パンパンパンと、豪快に拍手を送る男たち。


 サイコロも知らない馬鹿(れっとうせい)どもが。

 実際は、このピンごろがしの勝率が平等なんてのは嘘だ。ある程度周りのバカどもに勝たせてから、チップが積みあがったタイミングで特製のサイコロを使うのだ。

 わざわざ、金属製のサイコロを鍛冶屋で作って貰ったのには理由がある。特製サイコロは一の裏、つまり六の出目に比重の重い金属を使っているのだ。これを丁度いいタイミングで、すり替えて投げりゃ絶対に勝てるって寸法よ。

 職業の詐欺師ってやつも、この俺を崇めるゲームに一役買っていそうだ。


「おおっと!また勝っちまったよ」

 獣人ウェイトレスの肩を抱きながら、胸を鷲掴みにする。


「グヘヘェ……。まったく、お前たちは馬鹿だなぁ」


 騒がしい酒場で、鵠沼の言葉を聞き取れた者はいなかった。



 朝早く城門の前には白馬が牽く、白い豪奢なパレード用の馬車が待ち受けていた。


「これから僕たちの冒険が始まるよ」

 聖野の言葉にクラスメイト一同は、自信を胸に一歩踏み出した。


 四頭立ての馬車、五台に分かれて乗り込み、パレードに向けて走り出す。

 先頭のクレイヘルが立つ馬車は、聖野たちが乗る馬車よりいっそう豪華だ。


 城門が開き、馬車が列を成して動き出す。陽気な笛や太鼓の音色で賑やかな街では、勇者を一目見ようと人でごった返していた。


「国民よ!!召喚されし勇者たちの雄姿を見届けよ!」

 クレイヘルの言葉に湧き立つ国民。


「勇者様だーー!」


「魔王を倒してくれ!!」


「我々の希望だーー!!」


 沿道からは歓声が沸き上がり、それに手を振って応える。

「光彦ー!やべーな、俺たち勇者になったんだなぁ」


 猿渡が手を振りながら聖野に話しかける。


「そうだね!これだけ期待されているんだ、頑張らないとね」

 聖野が手を振ると、さらに歓声が大きくなった。


 歓声が続く王都から勇者一行は進み、王都の外に出る門をくぐりパレード用の馬車から降りる。


「あれ?ルーカスさんに、サマリさんじゃないですか。それにアインさんも」

 猿渡が疑問を口にした。


「いってなかったかな?僕らも一緒に行くよ!ランドは僕とサマリが治める街だからね」

 ルーカスがとぼけた顔をする。


「えー!!そうなんすか。ルーカスさん、ヤベーな!」


「自分はブロン団長の代わりですが、みんなが怪我をしないようお供します」

 アインは聖野たちと過ごす内に、堅苦しさが少し抜けてきたようだった。


「こっからは、この馬車に乗り換えて行くんだな」

 猿渡が茶色い毛並みの馬が牽く、馬車の荷台に足を掛ける。


「では、気を引き締めて行ってくるのじゃぞ」


 クレイヘルは城へ引き返して行った。



 夜の闇に紛れて城を抜け出す。王都を囲う城壁を、あらかじめ隠しておいた梯子(はしご)を使って外に出る。

 大きな街道から離れた林に囲まれた旧道で、エルザに手配して貰った馬車に乗り込む。

 長距離を移動しても不審に思われないように、行商人がよく使う二頭立ての馬車だ。荷台には(ほろ)が張ってあり、雨風を防ぐだけでなく目隠しにもなる優れもので、エルザが逃亡生活には打ってつけだといっていた。


「姫、ロクロ行くぞ!」

 エルザが手綱を握り、馬が走り出す。


「上手くいってよかったよ」

 俺は力が抜けて荷台の椅子にへたり込む。


「これからどこへ行くのですか」

 ランタンの明かりが一つ。薄ぼんやりとした悪路で揺れる中、ロゼッタの声は明るかった。


「勇者たちが北のランドに行くから、俺たちは南の街サンスロウに行く。そこで準備を整えてフーリダ王国に行く予定だよ」


 エルザに聞いた話しだが、アルクレイヘル王国は人族至上主義の国で、人族以外の人種は捕まえて奴隷にしているそうだ。

 目的地のフーリダ王国は、あらゆる種族を受け入れる多人種国家と呼ばれる国で、俺にはそっちのほうが性分にあっている気がしていた。


「あっ!」

 ロゼッタが急に思い出したかのような声を上げた。


(わたくし)、貴方の名前を聞いていません」


「なんだ、そんなことか。急に大声をだすからビックリしたよ。

 俺は番柄鹿路(ばんがら ろくろ)だ。名前のほうがロクロな」


「ロクロ様ですね。絶対に忘れません!」

 嬉しそうに体を寄せてくるロゼッタ。


「ロクロでいいよ。俺もロゼッタっていってるし」


「そうですか?じゃあ……、ロクロ」

 照れたような声で呼んでくる。


「なに?」


「呼んでみたかっただけです!」

 両手で顔を隠して照れているようだ。


「姫、ロクロ!街道に出るぞ」

 

 王都から離れたことで、旧道から出て踏み慣らされた街道に出る。明日にはロゼッタが居なくなったことがバレて、捜索が始まることだろう。なんとしても王都から離れる必要がある。


 月に照らされた夜道を走り続ける。


「エルザ、交代するよ」

 ロゼッタを起こさないように小声で話す。


「有り難いが、馬を扱えるのか?」


 馬も馬車も、この世界に来て初めて本物を見た。馬を走らすことも初めてやることになるが、やるかやらないか、ではなく。この先の旅程(りょてい)を考えれば、やらなくてはならないのだ。

 俺に今、必要な必須スキルは御者の技術だ。エルザは軍人で夜通し馬を走らせることに慣れているだろうけど、俺はそうじゃない。目の前に馬が居て、馬車に乗っている。今すぐにでも手綱を握るのが上達への最短経路だ。


「初めてだから、少し教えてくれないか」

 俺は二頭の手綱を握る。茶色い馬とクリーム色の馬だ。


「少しは、男らしい顔になったな」

 エルザが俺の横顔を見て、そういう。


 エルザには寝てもらい、俺は馬を走らせる。

 夏のような季節だからなのか、暖かい夜風を感じながら目指すは南の街サンスロウ。


 俺は手綱を握り直した。

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