プロローグと呼ぶには遅すぎた
誰も息のしない教室で教師の鵠沼は死と直面していた。
「人は死ぬと、どこへ行くと思う?」
鵠沼は、
「わからない」
というしかなかった。
「ーーへ、行くんだよ」
聞き取った言葉を理解する前に、絶命したので鵠沼は何もわからなかった。
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クラスメイトに殴られ足蹴にされ、ドブを飲んだ。腕には無数の根性焼きの痕、体は痣だらけ。それでも学校に行かないと両親にも殴られる。だから俺は高校二年の夏に自殺した。
「おはようございます。モーニングワイドニュースです。今朝は各社一面が××県立高校での大量殺人事件を報じています。凄惨な殺人現場××高校では何があったのか、現場から中継です。花内リポーター」
「はい、現場の花内です。ここは××高校前です。ここ、現場××高校前は騒然としていて、救急と警察の車列ができていて、辺りは本当に物々しい雰囲気です。正門には警察のバリケードテープが張られています。今も学内は騒然としていて、警察の捜査によると、××高校2年1組の一名を除くクラス全員と、担任教師の死亡が確認されているとのことです。残りの一名は行方不明とのことで、依然捜索が続けられているとのことです。学内では過呼吸になった女子生徒やショックで嘔吐した生徒もいるようで現場の凄惨さが伺い知れます。引き続き最新の情報が入り次第いち早くお届けします。こちらからは以上です」
「花内さんありがとうございました。いやーそれにしても酷いですね~。一クラスっていうと30人くらいですよね」
「最近は若者の凶悪事件もよく聞きますよね~。本当に早く犯人には捕まって欲しいですね~」
「えーでは、次は芸能WOWです……」
◇
「ホームルーム始めっぞ。みんな席に着けよ」
夏の暑さにバカ共の騒々しさ。教師って奴も楽じゃあない。40歳にもなるこの俺に、最近の若い奴らと来たら目上への態度がなっちゃいない。
「あいつ自殺したってマジウケる」
「だよねーマジやば」
うちのクラスの生徒が自殺したことで朝から大騒ぎだ。
「てかぁ俺らマジヤバくね」
「それな。ゴミ掃除しちゃう俺らマジ神じゃん」
減給されるからいじめを見過ごしてたらあいつが自殺しやがって。まったく、今時この手も問題はネットで炎上からのテレビで謝罪コース確定じゃないか。死んでまで迷惑を掛けるなんてまったくとんでもない問題児だったな。薄くなった頭を撫でながら教卓に生徒名簿を叩きつけて黙らせる。
「さーて授業始めっぞー」
あくびを一つしていたら、目の前が真っ白になった。なんだなんだと思っていたら、そこはもう見慣れた教室じゃなかった。