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6章【幼馴染の椿】

幼馴染の椿さんのターンです('ω')ノ

6章【幼馴染の椿】


 翌朝、純也はスマートフォンのアラームで6時ぴったりに起床し、ベッドの上で半身を起き上がらせたまま、暫く動かなかった。


 バイトで疲れたせいもあるかもしれないが、それよりも昨日起こったことを、純也は未だ悩んでいたからだ。

 本当に、今自分はループ世界にいるのだろうか。


(変なことを言い出したのは、あの3人と富塚姫とかいう女の子だけだ。バイトでも、ループだなんて変なことを言う奴はいなかった)


 瑠璃も普通であったし、他の仲間も、彼女等のようなことを口走った者はいない。


(あー···今朝富塚神社に行ったら、あの子いるのかな)


 純也は朝の準備をこなした後、すぐに家から学校へ出発することにした。ぐるぐると頭で考えていても、わからないことだらけだ。

 まだ6時30分を過ぎたばかりの時間帯では、準備期間中と言えど、登校中の生徒は少ない。朝早い清潔な空気は冷たく、心地よさを覚える。


(あれ、メッセージが···)


 尻のポケットに入れていたスマートフォンが、振動した。確認すると、椿からだった。


『美術室にて、待つ』


 簡潔、かつ、情緒も何もない文章である。

 椿らしいと言えば椿らしい。彼女はメッセージの中に顔文字も打たないし、スタンプも絶対に使わない。


(椿って、僕の父さんと似た感じでメッセージ打ってくるよな···)


 中年男性と変わらないメッセージに苦笑しつつ、純也はいつものように富塚神社に着くと、賽銭箱の前で二礼二拍手一礼を行う。


(富塚姫は、いないんだな···)


 周りを見ても、赤い着物の少女の姿はない。姿が見えないということに不信感を覚えつつも、純也は校舎に向かった。すぐさま委員部屋に向かおうと思っていたが、椿のメッセージに従い、美術室へ向かう。

 騒然と賑わう廊下を歩き、純也は美術室の扉を開いた。


「あら、来たのね」

「君が呼んだんだろう?」


 美術室の中に、1人、椿はいた。豊穣祭の際、この美術室は美術部の展示室として使われる予定になっている。すでに整然と美術部の油絵、水彩画が並べられていた。油絵の独特の匂いが、鼻につく。


「どうだった?昨日のバイトで、ワタクシ達の話を信じることができたんじゃないかしら」

「···昨日の話は、まぁ···君達が当てた通りではあった。でもさ、さっき富塚神社に寄ったけど、富塚姫とかいうのはいなかったよ」

「あの子だって、いない時だってあるわよ。きっと豊穣祭を見て回ってるんじゃない?」


 そんなことがあるのだろうか。純也は訝しげな目を椿に向けた。


「本当に、君は神様がいて、この世界がループしているって言うの?」

「ええ、本当よ」


 椿はきっぱりと言った。

 嘘をついている感じはしないのだが、純也は未だ信じられない。


(椿は、僕のことをからかう時がある。今回もその線ってこと、ありえる···よね)


 椿は自分をからかうような時があった。今回も例にもれず、神様やループなんて話を出し、からかっているだけかもしれない。


「ワタクシはループを繰り返してる。おかげで、何度も同じ作品を作ることになったわ」

「同じ作品を?椿の作品って、これか」


 椿が目を向けているのは、彼女の油絵だった。赤や黄色の花弁が、水の上に散っている。幻想的か雰囲気がある絵であり、繊細さすら感じた。


「そう。この絵は校長賞も頂くものだから、ちゃんと展示しなきゃね。もう決まった未来だから」


 豊穣祭では、展示した生徒たちの作品に教師が賞を授けることになっている。校長賞とは、豊穣祭では1番の賞であった。

 確かに彼女の作品は美しい。つい純也も見惚れるほど繊細に描かれた絵画は、校長賞を取るに相応しい。


「ループ世界では、ほとんどの未来が決まってる。決まっていないのは···生意気にもお前のことだけよ」

「僕?もしかして、僕の作品とか···?」

「お前の作品はいつも同じよ。決まっていないのは、お前の相手だけ」


 自分の作品がいつも同じということに、純也は気になっていた。


(僕は未来、何を完成させたんだ)


 自分が悩んでいる作品を、はたして自分はどう完成させているのだろうか。


「お前とワタクシは一度しか付き合っていないの」

「···僕、1人ずつと付き合ったんだよね?」

「ええ、生意気にもお前は順番に付き合ったのよ。本当、純也のくせに生意気」


 椿が自分を鋭く睨んでくる。


「幼馴染のワタクシしか、お前と付き合うに相応しい女はいないわ。一度のループでわからないなんて、何てお前は愚鈍なのかしら」


 ーー純也は息を呑んだ。


 華やかに美しい彼女が、自分を選んだことが信じられなかった。


 一応彼女とは幼馴染という関係にはあるが、美人な彼女が選ぶのは自分ではないと、純也は考えていたからだ。


「な、何で僕なの?椿は美人だし、僕じゃなくても、良いじゃないか。男子から告白されることだって、椿なら多いだろ?」

「そんなカスはどうでもいいもの」

「···君、口悪いよね」

「ワタクシの見た目などに寄ってくる輩のことなどは関係ない。お前は···幼稚園の頃、ワタクシの絵を好きと言ってくれた。その頃から、ずっと···」


 幼稚園の頃の記憶など、曖昧である。

 いつのことを指しているのか純也にはわからない。それだけ椿との記憶は古く、自分たちは長い年月を共に過ごしてきているのだ。


(絵を褒めたのって、いつのことだろ。椿は昔から絵が上手くて···)


 彼女は喜々として、いつも絵を描いていた。彼女の絵を見て、純也が褒めたことなど、100回以上はあるはずだ。


「これが言いたくて呼び出したのよ。純也、今回が最後のループよ」


 椿は、自分を指さした。


「だったら、王道を貫くべきでしょう?ワタクシがお前を選んだのだから、お前はワタクシを選びなさい」


 いいわね?と念を押すように彼女は言った。大きく、とても美しい花が咲き誇るような笑みに、純也は見惚れてしまった。


個人的に椿は超お気に入りのキャラです。高慢幼馴染キャラ、良いですよね。

次のお話しは本日の21時更新予定です!


続きが気になる方は、ぜひブックマーク下さい(*'ω'*)

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