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3章【ループって···?】

3章【ループって···?】


 豊穣祭に向けた準備期間の1日目は、あっという間に終わってしまった。

 茜色の光が教室に差し込む中、純也は1人で委員長席に腰掛けながら、スマホの画面をスライドさせる。実行委員の連絡網はスマホのアプリを使って連携している。委員のメッセージを確認していたら、新たな新着のメッセージに、映像研のものが表示される。


(映像研のリハ、一週間後かぁ)


 純也は映像研に所属しているが、なかなか委員と兼部だと顔を出せない。一応作品を上映する予定ではいるが、完成には至っていない。


(皆は良い作品を作っているのになぁ···)


 純也はちくりと焦りの気持ちを感じ取り、小さく息を吐く。委員の仕事は色んな作品を観ることができるので、楽しくはあるのだが、畑違いとはいえ自分と比べてしまい、嫌な気持ちになることもある。皆我こそはと身を乗り出すような輝くものを持っており、無意識に比べてしまうというものだ。 


(映画監督になるのが僕の夢だけど、なりたいって言ってるだけで、行動もできてないもなぁ···)


 楽し気に作品を完成させる皆と、作品を完成できない自分。

 才能があるなしに関わらず、そもそも「作品」を作れない自分は、夢に足を踏み入れてもいないのではなかろうか。


(···ネガティブは良くないな――夕暮れも綺麗だし、録っておくか)


 負の感情を振り払いたくて、豊穣祭のパンフレットを閉じ、純也は一眼レフを取り出す。カメラを起動させ、部屋の中を撮影する。

 茜色の光が、教室の中を照らしている。茜色の空には陰りが含まれ、これから夜がくることがわかった。夕方と夜の間というべきだろうか。学校の1 日が終わろうとしていることを明確に示しているようで、寂し気な雰囲気すら醸し出しているようだった。1080pのフレームレートで教室中を撮影していると、扉から彼女が入ってきた。


「夏恋」


 純也は撮影を止めた。


(ああ、そっか。放課後話があると言っていたもんね)


 彼女が委員部屋に来るのはわかっていたことだ。カメラを机の上に置く。彼女が微笑を口元に湛えつつも、自分に近づいてきた。


「じゅんちゃん先輩、今日はどうしたんですか?」

「え?何が?」

「だって先輩、真面目に裁縫部の企画書に目を通したりなんかして」

「うん?」

「あんなの毎回一緒じゃないですか。何を確認することがあるんですか?」


 からかうように、夏恋は言ってくるがーーー純也は首を傾げる。


(毎回、一緒?去年の裁縫部のファッションショーとは、違ったけどなぁ)


 そもそも夏恋は今年の1年生である。去年の裁縫部の企画書は見たことがないと思ったが、過去のものでも閲覧したのだろうか?委員には過去に提出された企画書も保存してはいるがーー。


「あら、菅井さんもう来てたのね」


 部屋に入ってきたのは、椿だった。彼女が部屋を訪れたことで、純也は「あ」と思い出したかのように声をあげた。


「ごめん、椿。僕まだ夏恋と···」


 彼女もまた放課後に用事があると言っていたが、先に後輩との用事を済ませたほうがいいだろう。委員会周りかもしれない。


「ええ、大丈夫。わかっていると思うけど、いつもと同じ用事だから」

「え、いつもの?」


(一緒に帰宅するってこと?何だか噛み合わないなぁ)


 夏恋とも、椿とも、話が通じ合っていない気がする。2人は共通の用事でもあるのだろうかーーいやでも、夏恋と椿ではクラスも部活も違う。考えられるのは、委員周りのことか。


「あ、揃ってる揃ってるぅ〜」

「いつもあなたは遅れてくるのね。ルーズだわ」

「この日はいつもそうじゃん〜。椿ちゃんは厳しいな〜」


 遅れて現れたのは、雪である。彼女も自分と用事があるとは言っていたがーー3人が集まるのは、何なのか。


(この日はいつもそう···?)


 引っかかる言葉だ。


「君たち、何の用なの?3人が集まるってことは、豊穣祭のことなのかな」

 頭で考えていてもわからないため、純也は単刀直入に訊いた。集まった3人は、怪訝な目で自分を見つめる。


「何なの?お前、わかってるんでしょう?」

「何が?」

「···何よ、わざわざ口に出させようと言うの?鬼畜なの、お前」

「え?ごめん、全然話が見えないんだけど」


 何故か椿は自分から目を背け、不機嫌そうに顔を顰めている――と思えば、ほのかに顔を赤らめている。やはり、話が見えてこない。


「純也ぁ、すっとぼけるのもいい加減にしなよ~。もう6回目なんだから、決断できたでしょう~?」

「6回目?何が?」

「うん~?」


 自分が首を傾げると、雪もまた首を傾げてきた。3人の怪訝な視線が、自分に向けられている。


「やはり、変です。じゅんちゃん先輩」

「お前は何か企んででもいるの?恥じらうワタクシ達を見て楽しみたいだけ?やはり鬼畜ね」

「え、そんなじゅんちゃん先輩···新しい趣向を試みようとしているのですか?そうなのですか?」


 椿と夏恋は好き勝手なことを言っている訳だが、未だ純也には検討がつかない。雪は自分の顔を覗き込むように近づいた。


「純也さぁ~覚えてないの?」

「だから、何を?委員のことで用があるんだろう?」

「私達全員と付き合ったこと」

「···えっ?」


 純也は目を見開き、雪の呑気そうな言葉を訊き返した。この空間の中で、自分だけが驚いていることに――重複するが、更に驚いた。

 何と自分以外、雪の言葉を訊き返すことなく、受け入れていた。


「純也はぁ、私達全員と付き合ったでしょう~?覚えてないの~?」

「や···ちょ、ちょっと待って!お前三股してるだろって言ってるの?僕誰とも付き合ってないんだけど···誰とも付き合ったこともないんだけど!?」


 鷺沼純也、17歳。

 生まれてこの方、女子とは付き合ったことはない。

 三股しているだろとクラスメイトや幼馴染、後輩からも言われる覚えは全くない。交際経験がないことを誰にも言いたくはなかったが、三股しているだろうと難癖をつけられるのよりはマシである。


「な、何を言ってるの?ワタクシとお前は付き合ったでしょう?」

「えっ?何それ、昔のおままごとの話?」

「違うわよ!わ、ワタクシ達、お前に言ったわ。す···好きと···」


 消え入りそうな声音だったが、椿は確かにそう言った。



(好き?この3人が、僕のことを?)



 信じられない。

 言ったというが、いつのことなのか純也にはまるで記憶がない。しかし、椿の言ったことを夏恋も雪も肯定にするように頷いている。


(椿には、昔言われたことがある。随分小さい頃、5歳くらいの話だ。夏恋や雪は、いつ···?)


 夏恋や雪からは、嫌われていないという自負はあるが、異性として好きだとは思わなかった。雪に関してはどの男子とも親しい印象があり、わざわざ自分に好意を持つとは思えない。


「···Loveじゃなく、Like的な···?」

「ちがうよ〜ん。私達はちゃぁんと純也のことが男として好きなんだよ〜」


 純也が疑うように言えば、雪はしっかりと自分を見つめて言った。にたりと微笑まれ、純也は何も言えなくなる。


(告白なんてされたの、初めてだ···)


 3人の少女から好意を示されるのは嬉しい。嬉しいがーーこれは、女子独自の合同で告白しちゃおう的なノリで3人は集まったのだろうか。


 えー、恥ずかしく1人で告白できなーい、と。

 じゃあ3人で一緒に告白しよーよー、恨みっこなしだよー的な。


 女子が集まれば何故か一緒にトイレに行く現象と、同じものなのか。


「じゅんちゃん先輩、この世界が何巡目かわかってますか?」


 夏恋の言葉を聞き、純也は思考を止めた、


「な、何巡目って?」

「···私達、何度も世界をループしてるんですよ?」


 ーー純也はこの時、ようやくこの意味不明な出来事の正体を突き止めたような気がした。ピンときたという表現が正しいだろう。


 これはーーあれだな。



「君たち、集団中二病か何か?」



 三股だの言い出した後には、なるほどそういうことかと純也はピンときた。3人が訳のわからないことを言い出した理由。


(夏恋は漫研だし、雪も軽音で歌詞作ってるし、椿もまぁ中二病患う可能性あるよなぁ)


 勝手な理由で純也は納得するが···。



「――はぁ?!ちっがうわよ!!!何言ってるの!?」



 間をあけて、椿が怒鳴ってきた。

 何を言っているのと怒られる謂れはない。


「いや、椿は中学生の時そうだったよね。高校生になってもまだ患ってたのか···」

「な、何で今そんなこと言うの!?言う必要ないじゃない!」


 椿はばしばしと純也の肩を叩いてくる。恥ずかしいのか、遠慮なく叩いてくるが、痛い。


「本当に、覚えていないのですか?先輩···」

「え、何こわい。君達このまま、異世界転生とか言い出すんじゃないの」

「そんっなファンタジーなことは言いませんよ」


 夏恋は否定してくるが、純也は懐疑的に3人の少女達を見るほかなかった。


(ループってあれだよね?主人公だけが同じ1日をひたすら繰り返すっていう···H・Gウェルズの『タイムマシン』やアメリカ映画の『恋はデジャブ』みたいな···)


 『タイムマシン』では、亡くなった恋人の死を防ぐために主人公はタイムマシンを使って同じ時を何度も繰り返す。『恋はデジャブ』という映画では、ある1日をひたすら繰り返し、主人公がどのようにしてその1日を抜け出すかが主題の作品である。日本の漫画・アニメでも同様に、一定の時間をひたすら繰り返す作品というものがあることを純也は知っていた。


「これはさ、会ってもらうしかないんじゃない~?」

「会う?誰に?」

「ファンタジーの塊みたいな存在にさ~」


 雪は自分の手を取り、純也の身体を引っ張った。彼女の柔らかい手の感触にどきりとする。自然な流れで彼女は自分の腕に身体を寄せてくる。


「富塚神社、行こっかぁ~?」


次回の話は、5月9日(土)の19時予定です。

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