31章【雪の寂しさ】
31章【雪の寂しさ】
『もし今日死ぬのなら、自分が最高だと思う作品を作って死にたいと思った』
雪は彼の言葉を聞き、純也の言葉の真意にきらめきを感じた。
(何それ)
椿は憤怒し、夏恋は悲しんでいるようだったがーー雪は1人、彼に対して強くこう思った。
(何それ。超、格好良いじゃん)
純也の熱い想いに、雪は動揺を隠せなかったが、ほのかな憧れすらも抱いた。
世の中には、多くの歌がある。愛を題材にした歌詞など、それこそ星の数ほどあるだろう。それでも自分は、歌詞を書き、音楽を作ってきた。
星の数ほど歌が存在し、最早必要とされていなかったとしても、雪は作りたかったから、今まで曲を作ってきたのだ。
(でも、私は、純也の言う通りだ)
何故純也に言われるまで、気づかなかったのだろう。
自分が作品作りに”妥協”しているだなんて、微塵も考えなかった。
ループ世界で、軽音の他のメンバーも自分の曲を気に入っていたから、今まで何も疑問に思わなかった。
(純也を助けることに注力していたかったから、作品作りを怠っていたというのは、甘えなんだろうなぁ~)
校舎内で雪は純也を探しながら、考える。
豊穣祭で、彼は自分のライブを聞き終え、微笑して言った。
『良い歌詞だったと思うよ、雪』
自分は彼の言葉に、何も違和感も感じなかった。
--何も違和感を感じていないことが、問題だということにも、雪は気づくことができなかったのだ。
(そっか。純也は、私の作品を最高だとは思っていなかったんだ)
良い曲というのは、最高の曲ではないということである。
自分の作った歌詞も、曲も、純也の心には響いていなかった。雪の心には、激しい怒りも、大きな悲しみも、存在しなかった。
(少し、寂しいなぁ)
どうしようもなく、雪は寂寥感を感じた。
純也に選ばれなかったことよりも、自分の分身とも言える作品が、彼の心に「最高」と評されるほど響かなかったことに対し、虚しさを覚える。
(人の心を響かせる曲を作りたいと思っていたのに)
自分が、初めて音楽を作りたいと思った時のことを、雪は思い出す。
愛を歌う曲で高揚し、前向きになる曲でポジティブに生きたいと心が躍るはずの、音楽の世界。
例え、世界に数多の歌があり、自分が作る必要がなくても――自分は、音楽を作りたいのだ。
自分が、音楽を作る必要を持っているのだ。
(誰かの心に響かせる音楽を、私は作りたい)
純也に、もう妥協をしているだなんて言わせることがない曲を作りたい。
自身の頭の中に音楽が奏でられる。自身の寂しさを、前向きにさせようとする音楽が。
(こんな曲はどうだろう?歌詞は――)
雪は頭の中にひらめいた音楽を、何気なく口すざみ始めた。
続きは、27日(土)の19時予定です(^^♪




