28章【変わらない】
28章【変わらない】
「瑠璃先輩――っ!」
瑠璃が飛び出した後、追いかけようとする純也を紫苑が止めた。純也の腕を握り、紫苑は決して離そうとしなかった。
「離してくれっ!紫苑!」
「馬鹿だろおめぇ!先輩の気持ちも考えろよっ!」
「考えてる!だから先輩に告白したんだろ!!」
純也が怒鳴る。紫苑は一瞬彼の気迫に息を呑んだが、それでも純也の腕を離そうとはしなかった。
「ま、当然の反応なのよねぇ」
富塚姫は、くすくすと笑った。
--富塚姫は、瑠璃は人間にしては賢いと思った。
「貴公は、月島瑠璃に、僕と死んでくれませんか?って言ってるのと同じなのよ?普通の人間なら願い下げなのが普通じゃないかしら」
今の時代ではあまり見られないが、富塚姫が見てきた歴史の中では、身分の差で結ばれない恋人が心中をするなどといったことも存在した。身分というものが形式上はない昨今では、確実に死ぬとわかっている恋人同士が結ばれるなど、賢い選択とは思えない。
「違うよ。僕だって、進んで死ぬ気はない」
「え」
純也の言葉に、視聴覚室に残された4人が驚いた。富塚姫は、またか、と思った。
「でもそれじゃ、前回と同じですよ?じゅんちゃん先輩、前回も」
「抗っていたのよねぇ。結果、死んじゃったけれどね」
運命に抗っても、結果は同じ――いくら純也が生き方を説いたところで、何かが変わるということはない。
(発表した映像作品は違うみたいだけど、たかだかそれだけのことなのよ)
人間が作る作品が違っているくらいで、運命は変わることはないだろう。台風が迫り、制作物が壊されることが変わらなかったように。
抗えば抗うほど、辛くなるだけとは思わないのだろうか。
「先輩となら死んでも良いとは思っているよ。それほどに僕はあの人が好きなんだ。だから、死から逃げはしないよ。逆に僕は、死に挑んでみようとは思ってる」
「死に――挑む?」
富塚姫は、挑戦的な純也の顔を見て、すぐに思った。
(できるわけがない)
前回とは彼の顔つきこそ違う。何かを企んでいるようで――何かを楽しむようでもあった。
「おいおい、そもそも瑠璃先輩がおめぇとは付き合わねえだろ?」
紫苑が言った。
「おめぇと付き合ったら死ぬってわかってんだぜ?瑠璃先輩が、そんな馬鹿なことはしねぇよ」
「そ、そうよ。今だって無理と言われたじゃない」
椿が同調するように言った。
瑠璃が、純也に「無理」と言い、逃げたということは、1つの意味しかない。
純也は拒絶されたのだ。
「瑠璃先輩の性格を考えると、そうなるだろうなとは思っていたよ。あの人らしい」
「えぇ?何それ~?惚れられてるって自負なの?今までのループで告白はされてたけど、あの人は純也と一緒に死んでるんだよ?普通無理~ってなるでしょ」
雪が言い、夏恋も「そうですよ」と頷く。しかし純也は首を横に振った。
「違う。あの人が言った無理というのは、そういう意味だけじゃない」
「んだよ、それ」
紫苑はわからないようだった。富塚姫も、純也が何を言っているのかわからない。何故そんなに自信をもって言えるのか。
(何なのよ、今回は)
富塚姫はわくわくした。彼の挑むような顔を見て、これから彼がどんなことをしてくれるのか期待した。
「あの人の口癖を、皆知らないだろう」
「口癖?」
紫苑が首を傾げた時、純也は紫苑の手を振り払った。澄ました笑みを浮かべ、彼もまた視聴覚室から飛び出していく。あ、と紫苑は走りかけたが、大きくため息を吐くだけだった。
「お、追わなくて良いんですか?」
「瑠璃先輩だってわかってんだろ。純也と付き合ったら死ぬんだぜ」
紫苑の言う通りである。富塚姫も、同じように想う。
「瑠璃先輩は、純也を受け入れない」
(そう。口癖とか何とか言っていたけど、それが普通のことなのよ)
2人は何て因果な関係だろうと富塚姫は思う。普通の男子高校生と、普通の女子高生のはずなのに、2人が結ばれると必ず死は訪れる。
「純也見つけたら教えてくれ。一応、捕まえるから」
「わかった~」
紫苑と3人の少女達は頷きあう。彼女達は富塚姫の存在を気にしていないようだったので、普通に外に出ることにした。
毎年行われる豊穣祭である。開始時間になったのか、外部から人も入ってきている。富塚姫は着物姿ということを不思議に思われているのか、奇異なものを見る視線を向けられる。
(今回の豊穣祭も、見てまわるのよ)
豊穣祭が行われてから、富塚姫は見学を欠かしたことがない。人間の子供達が創意工夫を凝らして作品を展示したり、食べ物を振る舞うのだ。ループを繰り返した富塚姫も、今年の豊穣祭は6回目ではあるが、見てまわるつもりであった。
(今回は何が起こるのかしら)
前回は不審者が登場するだなんて、予想外であった。富塚姫は軽快に歩いていると、調理室の前で立ち止まった。
(あら)
富塚姫は、誰もいない調理室の中で、あるものに気が付いた。他の人間でも気が付くことができただろうが――たまたま、富塚姫はそれを目にし、にたりと笑った。
(鷺沼純也が月島瑠璃を選んだ時点で、死はやってくるのね)
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続きは本日の21時に更新予定です。




