表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/35

26章【選択】

26章【選択】


 富塚姫は、朝7時きっかりに訪れた青年を見て、にたりと笑った。


(今日も、いつも通りなのね)


 毎日毎日かかさずに自身の神社にお参りに来る青年を、今日に限っては賽銭箱の前で待ち受けていた。5回全て、富塚姫は同じようにしていた。

 今までのループ、豊穣祭の当日、彼は絶対に少女たちの誰かを選んできた。


(今回は、誰なのかしら)


「鷺沼純也」


 朝の清々しい雰囲気とはかけ離れて、彼の顔は疲れ切っていた。

 目の下にくまを作り、いかにも徹夜明けといった風である。しかし張り詰めた彼の真剣な表情に、富塚姫は意外に思った。


『4人の女の子に告白されてしまいました。誰を選んでも傷つくだろうしーー神様、僕は、どうしたら良いのでしょう』


 ーー思えば、1番最初に賽銭箱の前で懇願してきた青年の顔とは、違う。


(あの時のように情けない顔はしていないのよ)


 なよなよとした、いかにも今どきの若者らしい彼の昔の顔を、懐かしく思う。


「富塚姫、今日は境内にいるんだな」

「当然なのよ。今日が最後だから」

 富塚姫はうきうきと声を弾ませ、純也の顔を覗き込んだ。

「で、誰にするのよ?いつも貴殿は、この日には誰を選択するか決めていたのよ。今回も決まっているのよね?」

「うん、選んだっていうかーーまぁ決まっているよ」


 ん?と富塚姫は奇妙に思った。どうも歯切れが悪い。


(いつもと違う返答なのね。何なのかしら)


「じゃあ、誰なのよ?」


 富塚姫は彼に詰め寄る。


(幼馴染なの?後輩なの?クラスメイトなの?それとも、やっぱり先輩?)


 瑠璃を選んだとしたら死からは逃れられない。決まりきった運命のループを見てきた富塚姫は、楽しんでいた。


(矮小な人間の選択など、決まりきったものだけれど)


 神である富塚姫は、今まで多くの人間たちを観察してきた。今回はある男子高校生の珍しい頼み事を、たまたま聞いてやっただけだ。

 純也は校舎を見てから、富塚姫の手を引っ張った。


「ん?」

「視聴覚室来てくれる?皆呼んでるんだよ」

「しちょーかくしつ?」


 富塚姫は聞き慣れない単語を繰り返す。

 何をする所なのだろう?富塚姫は疑問に思いながらも、初めての誘いに、乗ることにした。

 初めて純也から手を引かれ、初めて富塚姫は純也と共に校舎に歩いていった。


次の話は、本日の21時更新予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ