24章【諦める】
24章【諦める】
保健室から出ると、3人が瑠璃を待ち構えていた。3人は瑠璃の顔を凝視し、今まで純也と瑠璃がかわした会話を、気になっている様子だった。
「諦めたっぽいですか」
紫苑が、慎重に訊いてきた。瑠璃は静かに頷く。
「あの様子だと、相当参ってると思うよ」
「ちゃんと、突き放したのでしょうね」
「勿論。私が彼と交際することは、もうありえないからね」
椿に念を押すように言われ、瑠璃も強い口調で言い放った。
「···これで、大丈夫なんだよね。さすがに純也だって、諦めるよね···」
雪は未だに不安そうではある。
(すごい子···こんなに皆から思われて···)
瑠璃は、純也に対して思った。
皆が純也をまもろうと、これから彼が取るであろう行動を阻止しようとしている。
彼が記憶を失っていることは、何て幸いなのだろう。自分たちが5巡目のおかげで、彼を助けられるのだ。
『純也を、諦めてくれませんか』
紫苑が映画館に訪ねてきた時、彼はそう言った。真摯な彼の瞳に、友人を助けたいという強い意志を感じたのを覚えている。
『あいつは、瑠璃先輩のことを誰よりも好きです。でも、先輩だって死にたくはないっすよね?今回は、最後なんすから』
紫苑から言われることもなく、自覚していることだった。
瑠璃は、以前純也から言われたことがあったからだ。
『先輩の長い髪、好きなんですよ』
照れながら彼が言った言葉を、瑠璃は忘れることができない。以前の彼が言った言葉すべてが自分にとっては宝物だ。今でも胸を熱くし、切なく締め付けられるようだ。
(だから···私は、髪を切ったんだよ)
今でも尚、熱くなる胸を否定するために、瑠璃は言い聞かせる。
彼と死んだ時の恐怖心を無理矢理に引き起こし、自分の失われていない恋心を押しつぶす。
(死ぬのは良くない。私にも家族がいる。それに···)
トラックにひかれた時の、痛み。刺された時の、痛み。
それらは身体に激しい痛みを与えたと共に、心を破壊されるほどの衝撃を瑠璃に与えた。
(もう純也君が死ぬ顔を、見たくない)
2度死ぬ時、自分を庇うようにして抱きしめてくれた純也。優しい彼が取った咄嗟の行動に嬉しさを感じる余裕など、一切なかった。
「先輩、大丈夫っすか」
顔を青白くしている瑠璃を気遣い、紫苑が言った。瑠璃は小さく頷く。
「私は大丈夫。私のことなんかより、誰か純也君を励まさないと」
そうですね、と椿が言った。5回のループを経験し、純也が誰かを選ばなかったことはない。
彼は記憶がないのだから、誰を選んだとしても、自責の念に囚われることもないだろう。
(私はいいから···)
どうか少女達の中から誰かを選んで、彼が幸せになりますように。
次の話は、本日の21時更新予定です('ω')ノ




