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17章【楽しく過ごしたいじゃ~ん?】

17章【楽しく過ごしたいじゃ~ん?】


『そろそろ、私の番かなって思ってたんだよね〜』


 4回目のループ、純也が訪ねてきた時、雪は喜色満面の笑みを浮かべ、彼を迎えた。


『うん、ごめん。雪、協力してほしいんだ。だから、付き合ってほしい』


(ーーーふぅん、協力、ねぇ〜)


 雪は、内心穏やかではいられなかった。

 彼の引っかかる物言いは、ある人物のことを思っての言葉だったからだ。

 けれど彼に悟られないように、明るく振る舞った。


『もちろん、良いよ〜。けど、私も純也のことが好きなんだからさぁ、協力とか、言わないでよ〜』

『あ、ああ、ごめん』


 純也は純粋に謝罪した。本心だから、無意識に「協力」だなんてことを言ってきたのだろう。


(しゃくにさわるなぁ〜)


 雪はへらへらと笑いながらも、決してそれを口にもしなかったし、顔にも出さなかった。

 彼の物言いに腹が立つ理由は、自分が彼のことを好きだからに他ならない。


『雪ってさ、すごいよね』


 昨年の豊穣祭の後だった。自分たちの軽音のコンサートを終えた後、彼は言った。

 雪はきょとんとしたのを覚えている。


『詩も作るし、曲も作る、キーボードも弾けてさ』

『ああ、それね〜。よく言われる〜』


 間延びした口調で、雪はぱっと明るい笑みを浮かべた。


(昔っから好きなことだからね。曲作りも、作詞も、キーボードも)


 始りはピアノ教室に通いだした頃から。それから色んな音楽を聞くようになり、自分が心を動かされるような音楽を聞くと、自分も同じように人を感動させるような音楽を奏でたいと思い始めた。


(皆すごいすごいとは言ってくれるけどさぁ〜)


 雪は交友関係に恵まれている。自身の性格からか、親しい友達が多い。彼等は雪が奏でる音楽を好きだと、作詞もして凄いと言ってくれる。


(みんな、同じことを言うよね〜)


 他に言うことはないのだろうか、と雪は内心思っていた。

 作詞ができてすごい。キーボードができてすごい。曲も作れてすごい。


 ーーーで?


 というのが、雪の本音だ。


(もっと他に、言うことないのかね〜)


『雪の声ってさ、ギリシャ音楽の人みたいだよね』

『ーーーへ?ギリシャ?』


 雪は驚いて、目を丸めたのを覚えている。突拍子もないことを言った純也は、真面目に腕を組んでいた。


『だからさ、僕なんかがアドバイスなんだけど、ギリシャ語で歌ってみたらどうかな?いやね、世界的に有名なギリシャの歌手がいるんだけど、雪と声質似てるなーと思ったんだよ。今度音源を共有するから、聞いてみてよ』

『う、うん。わかった〜』


 真面目な純也は、すぐにメッセージアプリ内で音源を共有してきた。



(どこで、純也はこんな音楽知るのかなぁ〜)


 同じクラスに所属しているので訊いてみたところ、彼は映画で音楽を知るのだという。映画監督を目指す彼は、いろんな国々の映画を観ると言っていた。


(軽音部のことも、純也は守ってくれるし···)


 彼は軽音部のことを軽んじない。自分の音楽のことを褒めつつ、雪の知らない音楽のことを知っており、自分に勧めてくれる。


(惚れるよね〜普通にさぁ〜)


 雪は男子の友人も多いが、彼は他の男子たちとは何かが違う。粗野で荒っぽくもないし、自分でも自慢の豊満な胸に視線を奪われず、ただ純粋に雪と音楽の話をした。


(付き合ったら豹変するってこともないんだね〜)


 雪は中学時代、クラスメイトの男子と付き合ったことがあるが、彼はすぐに雪の胸に食いつこうとした。胸目当てだなんて許せず、雪はすぐにその男子と別れたが、一応は交際をしている純也は、自分から手を繋ごうともしない。


(えいっ)

『え』


 豊穣祭を2人でまわっている時、雪は純也の手を握りしめた。

 ふふんと口の両端を釣り上げて笑うと、彼は顔を赤くした。


(···そんな反応されたら、こっちの方が照れるなぁ〜)


 可愛らしい反応だと思った。


『雪といると、すごく楽しいよ』


 彼は、はにかんだように笑って言った。


『私も、楽しいよ〜』


 他の男子のように狼ではない彼と一緒にいると、安心もする。身構える必要性がないのだ。


「あ、この音楽さ、こないだ上映された映画音楽じゃないかな?雪、知ってるよね?」


 館内で流れる幻想的な音楽に気が付き、純也は自分を振り返る。雪は、椿でも夏恋でもなく、自分にだけ話しかけてくれるのが嬉しくなった。


「うん、知ってる〜。あの日本映画の話だよね?前に話したもんね〜」


 ループ世界を繰り返す前に、純也と話した映画の話題である。


「映画の内容は暗いんだけど、音楽は全編良かったよね〜。私サントラ、全部ダウンロードしちゃったよ〜」

「ほんと?僕もなんだよね、つい映像作りながらも聞いちゃってさ」

「映像作りながら聞ける?私だったら手を止めちゃって、聞き入っちゃうなぁ」


 純也と話すと、楽しい。


 他の誰でもなく、純也との会話か、雪の心を軽やかに弾ませた。

 熱い恋心でも、淡い恋心とも違う。

 自分が抱えるのは、友情を、もっと深めたいと思う気持ちだ。


(この世界が最後だからこそ、私は君と楽しみたいなぁ〜)


 そう、自分は彼と世界を楽しみたい。

 彼にーーー絶望など、してほしくないと切に願っていた。


次回の話の更新は、明日の19時予定です。

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