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10章【純也が知らないこと】

10章【純也が知らないこと】


 暗くなってくると、学校にいる皆が下校の準備をしていく。紫苑はスマートフォンのメッセージに従い、空き教室に向かった。


 青い養生シートを踏み、がらりと教室の扉を開ける。


 音に気が付き、弾かれたように教室内にいた3人は自分に目を向けた。


「星宮君。純也と話した?どうだった?」


 夕暮れの暗い教室の中、椿はやや憔悴の表情で自分に言った。


「本当にあいつ、何も覚えてねぇな。神様のことも、ループのことも、半信半疑って感じだったぜ」


 紫苑が言うと、椿はホッとした顔をした。彼女だけではなく、隣にいる夏恋、雪もである。窓辺に立つ夏恋は、校庭に目を移す。


「記憶を差し出すだなんて、先輩はどうしてそんなことしたんでしょう」


 校庭には大きな野外ステージが建てられているが、その前には純也と思わしき人物が男子学生と話をしていた。

 彼は丸い眼鏡をかけた、髪に寝癖のような癖がついた細い体躯の青年だ。いかにも委員長然とした姿を、4人は暗い教室の中から見つめていた。


「理由は何だって良いんじゃないー?おかげで、もう1回やり直しができるんだしさー」

「そうですけど、記憶がないから、また馬鹿なことをしちゃうかもです」

「大丈夫よ。ワタクシ達は覚えてる。ワタクシ達は覚えているから、止めることができる」


 夏恋が心配そうにすると、強い語調で椿が言った。


「皆、純也のことが好きなのよ。この中の誰が選ばれようと、良いんだから」


 皆という中には、紫苑も含まれているのだろう。

 彼女たちのように自分は恋心を抱いている訳ではないため、紫苑は静かに苦笑する。好きは好きであるがーー紫苑は校庭の純也を見る。

 鷺沼純也は、器のような男である。

 彼女らや自分のように、特別な個性はない。容姿が特段優れている訳でもなければ、性格がエキセントリックな訳ではない。


 特筆して彼の性格を語る時には、「器」という言葉が当てはまるだろう。

 どんな人間だろうと、純也は受け入れる。派手な個性を持つ者や、人と違うものが好きな者、邪険にされる者であっても、彼は受け入れる。彼が優しいのも理由だと思うが、紫苑はそうではないと思う。


 彼は、「面白い」と思うから、どんな人間でも受け入れるのだ。


 映画監督になるのが夢だと聞いた時、紫苑はなるほどと思った。個性がある者を、彼は観察したいのだ。だから彼は、特別な個性がある者の側に身を置く。


(本人は無意識だろうがな)


「星宮君、変なことしないでよ」

「おいおい、俺は親友に嘘ついてまで、あいつを助けようとしてんだぜ?おめぇも信用しろよ」


 普段交流がない椿は、自分のことを信用できないのだろう。

 まさか、自分が純也に味方する訳がない。


(どんなつもりか知らねえが、あいつに記憶がないのは俺たちにとって好都合だ)

純也君以外は何度もループしている訳ですから、皆は何か知っているようですね。

次の話は本日の21時に更新予定です。

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