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第6話 知らされる事実、悲しいお知らせ(前)

 クラス発表と同時にあった一時的能力使用許可ので騒がしかった三階も、今は少しだけ静かだった。

 それぞれが自分のクラスに入り、席に着く。いつ三階にきたのか知らないけど、担任らしい先生が僕達のことを待っていた。

 ただ、僕達五組に入ってきた人達は、他のクラスと違って少し戸惑っていた。

「……なぁ、誰か嘘だって言ってくれよ」

「俺、高校に来たんじゃなかったのか……?」

「さ、さぁ……?」

 あちこちから聞こえてくる、『誰か聞いてみろよ』という意味を含んだひそひそ声。

 八龍君も天照さんも、目のまえの光景を信じられないのか言葉を出せずにいた。

「……あーっ、お前ら? 言いたいことはわかるがとりあえず席に着けよ?」

 そんなどうしようもない雰囲気を感じ取ったのか、髪をかきながら問題の人がこっちを見てきた。

 少し薄めのピンク色の髪で、ほんのり赤い瞳。これだけなら普通に好きになりそうな特徴だと思う。

 問題なのは、そういった容姿ではなく、体全体の容姿だった。

「どうしよう、八龍君。とりあえず席に着いた方がいいのかな……?」

「お、俺に聞くんじゃねぇよ。現実にこんな見た目の人がいるっていう事だけで頭がパンクしそうなんだ」

 そう、八龍君の言う通り。目の前の先生は、アニメやラノベとかいわゆる『二次元』でしか見たことのないような身長……つまりは『合法ロリ』というものだった。

 そりゃ、本当にそういう言葉を体現している人がいるなんて誰も思わないから戸惑うだろう。

「お前ら、そろそろ席に着かないと……」

 いまだ動けずにいた僕達にしびれを切らしたのか、ロリ先生が教卓を叩く。

 どがぁん、というその体でありえないとしか思えない音を鳴らしながら割れている教卓を見て

(((((早く座らないと殺される……っ!!!!!)))))

 次にああなるのは自分たちかもしれないと感じた僕達は、慌てて出席番号順に席に座った。

 話もしたことがない人達との連携は、目の前の脅威を避けたいという共通認識のおかげでスムーズではあった。

「……よし、全員席に着いたな? 私は桃坂(ももさか)憑夜(つくよ)、お前ら五組の担任だ」

 黒板に大きな文字で『桃坂憑夜』と書いた先生だけど、やっぱり届かないのか踏み台を使っていた。

「まず、先に言っておくがな……私はすでに成人している。だからここにいてもおかしくないんだからな?」

 ……そんな風に言われても、すぐに信じる人なんていないんじゃないだろうか。そして、どこからか『ほ、本当に合法のロリっ子……ぐへへ』という声が聞こえてきた気がする。

「次に、今後の予定だが……入学式はここで行う」

 その言葉に、クラス全員が『このロリ教師は何を言っているんだ』という顔になる。

「普通の高校……というかほとんどの学校は体育館で行われるとは思うが、うちは違う。その理由を今から話すから、よく聞いておけよ?」

 あまりに真剣な表情をするから、誰もツッコんだり騒いだりできずにロリ先生の話に聞き入っていた。

「ここ雫星学園はな、世間にはあまり公開されていない。ここに入学してきたお前らも、こっちが生徒たちだ」

 ……はい?

「聞いておかしいとは思わなかったか? 『中二病』を推奨する学校なんて、普通はありえないって」

 ロリ先生の言う事は確かな的をついていた。

 僕がこの学園の名前を知ったのは、たまたま貼り紙があったから。こんな近くに学校があるなんて、それまで知りもしなかった。

「だから最初に言っておく。ここはひとつの実験校だ。もし、中二病の力を本当に実現させたらどうなるのか、どのような効果があるのかっていう実験のための……学校だ」

 一瞬で教室のざわめきが広がる。そんな説明は、しおりにも書いてなかった。

 実験校という言葉や、俺達は実験に使われるためにここに呼ばれたのかという声がほとんどだったけど、僕の心に根付いたことは別の事だった。

「……あの日、あそこに貼り紙があったのはたまたまじゃなくて、僕の事を……だとしたら……」

 調査書不要、検査前に個人情報を書き込むだけで受験できる。あれは、ただの本人確認なんじゃ「落ち着け、お前ら!」……はい。

「騒ぎたい気持ちはわかる。いろいろと思う事があるやつもいるだろうし、不満があるやつもいる。だが、何か拘束されたり、薬とかの服用を強要されたりすることはない。お前達は普通に学園生活を送るだけでいい」

 ロリ先生の言葉には嘘はないと思う。あんなに真剣で、まっすぐな目をする人が嘘を言うとは考えられないから。

 クラスの人もそう思ったのか、それ以上は何も言わなかった。だけど、『あぁ……その目、いいねぇ……!』とか言っていた奴は早くここから立ち去ってほしい。

「でも、それが入学式をここで行う理由にはならないでしょ、桃坂先生」

 天照さんが最初の疑問は解決されていないとロリ先生に訴える。

 言われてみれば、ここが実験校だからって入学式をここで行わなければならない理由にならない。親とかにバレたくないのなら、別に言わなければすんじゃう話だし……

「体育館は、今とある行事の為の準備中だ。これは入学式よりも重要なことでな……第一、親は来れないってパンフレットに書いてあったろ?」

「それは……そうですけど……」

 えっ、あのしおりにそんなこと書いてあったの? お父さんはともかく、何もなかったらお母さんは来てたよ、この学園に。

「その行事については、入学式のとき学園長が話してくれる。いくら画面越しだからって寝ないようにな」

 そう言い残すと、まだ入学式を始めるのに時間がかかるのか、十分休憩をとるようにとロリ先生は出て行ってしまった。

「……なんか、すごい話だったな」

 気配が完全に消えるのを待ってから、八龍君は僕に話しかけてきた。

「だね。実験校とか信じられないよ」

「あの先生も信じがたいけどな」

「ほんと、いろいろ情報が多すぎて頭が混乱するかと思ったわ」

 ……いつの間にか天照さんも僕の席に来ていた。

「お前、何自然な流れで会話に混ざってんだよ」

「いいじゃない、お互い健闘した中でしょ? さっきの敵はこれからの友……っていうくらいだし」

「それって、昨日の敵は今日の友なんじゃあ」

 身勝手すぎる言葉改変をしている天照さんに、もはやツッコみを入れる気は八龍君にはないらしい。

 それに、対決したと言うかほぼ一方的かつ理不尽な怒りをぶつけられたと言うか。

「まぁ、ここに入学するまでに不可解な点がなかったと言ったら嘘になるわね」

「……やっぱりお前もそう思ったか。あんな話を聞いたら、全て都合がよすぎるとしか思えないしな」

 さっきのロリ先生の話を受けて、二人とも僕と同じことを思っていたらしい。

 あの先生の話が真実なら、僕達は中学生のころから目をつけられていたことになる。

「ネットとかで調べても、雫星学園なんて引っかからなかったもの」

「俺も最初にここを知ったのは、たまたまポストに入っていたチラシだったからな。光月はどうなんだ?」

「僕は……家の近くの貼り紙からかな」

「やっぱりそういう感じなのね。けど、ここって住宅街から近いし、無知って言うわけではないと思うわ」

 確かに雫星学園の周りは畑だったとしても、近くに住宅街がある。ネットとかで出てこなくても、近隣の小中学校で噂ぐらいあってもおかしくはない。

「……もしかして、ここってヤバイ学校なのか?」

「……あんたって、人の話を真剣に聞いてなかったの?」

「お前には言われたくねぇよ……」

 あっ、なんか二人の間に火花が散り始めた。

「ね、ねぇ……二人はどうしてこの学園に?」

 ここで喧嘩(物理)を始められたらクラス中の視線は関係のありそうな僕に向く。

 自慢じゃないけど、体力テストの握力貧弱の僕がこの二人の喧嘩を止められるとは思えない。

 話題をだして、二人の気をそらさないと……

「どうしてって……」

「そんなの……」

 そ、そんなの……?

「「ただ、俺(私)の力が実現できるってパンフレットに書いてあったから」」

 ……なんとなくはわかってたけど、ここに来た人の八割の理由は絶対にそれだよ。僕みたいな理由を持つ奴が珍しいに違いない。

「けど、ここって普通に定期試験とかあるんだろ? 俺、勉強できねぇんだよな……」

「……馬鹿なのね、八龍君って」

「なんだと、この野郎」

「何よ、間違ってないでしょ?」

 あぁ、余計なことを八龍君が言ったから、さっきの状態に逆戻りに……!

「は、八龍君落ち着いて。ここで喧嘩しても……」

「……おい天照、入学式終わったらちょっと残れよ? 先生に許可もらってお前をつぶすから」

「あら、もしかして私に勝てる思ってるの? あれは霧宮君がいたから勝てたものでしょ」

 フルネーム呼びから君付けになったのはいいけど、二人にただよっている空気というか、雰囲気が恐ろしすぎる。

 こ、このままだと本当に放課後、この二人が

「……そろそろ入学式始まるぞ。八龍、天照、早く席に着け」

 教室に戻ってきた桃坂先生のおかげで助かった……のかな。教卓の件で二人とも素直に席に戻ったけど、後でフォローとかしておこう。

「よし、全員いるな? それじゃあ、入学式を始めるぞー」

 そう言いながら持ってきたらしいリモコンのスイッチを押すロリ先生。

 すると、少し大きめなプロジェクターが現れて、映像を映し始めた。

『おはよう、新入生の諸君』

 機械ボイスを響かせながら、椅子に座っているらしい学園長が話し始めた。

『まずは君達の入学を心から歓迎する。先生方の話を聞いて戸惑ってしまったかもしれないが、君達の学園生活に支障をだすことは一切しないから、安心してくれ』

 話しながら、ゆっくりと椅子を回転させる。

『では、私からはこの学園についていくつか知っておかなければならないことを話す。今後の生活を左右することだから、よく聞いておくように』

 そうして、椅子が回転し終わってスクリーンに映し出された人物は。

『まず、君達の能力について説明しよう』


 ……なぜか、仮面をつけていた。


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