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第1話 始まる新・高校生活、本当にここが高校⁉(前)

「……よしっ、必要なものはこれくらいかな」

 一週間前に届いた『雫星学園入学式について』っていうしおり。

 そのしおりに書かれていた必要なものを鞄に詰め込んだ僕は、鏡に映った新しい制服に見惚れていた。

 ブレザーに少し濃い青色のネクタイ。ズボンのポケットやブレザーのラインには少し明るい緑色が使われている。

「今日から僕も高校生なんだな……」

 襟に付けた校章を指でなぞりながら感傷に浸っていると

「さい君〜、朝ごはんできたわよ〜」

 一階からお母さんが呼ぶ声が聞こえてきた。

 充電していたスマホをポケットに入れて、鞄を手にリビングへと向かう。

「おはよう、お父さん、お母さん」

「おはよう、さい君」

「……おはよう、彩兎」

 扉を開けるとエプロン姿のお母さんと、スーツを着て新聞紙を読んでいるお父さんが迎えてくれた。

 僕は鞄をソファの上に置いてから、お父さんの対面の位置の席に座った。

「さい君、制服とっても似合ってるわね」

「ありがとう、お母さん」

 味噌汁と焼き鮭を持ってきたお母さんは、そのまま僕の隣に座る。

 お父さんはお母さんが座るのを気配で感じたのか、読んでいた新聞紙をたたんで机の上に置くと、僕のことをちらっと見て

「……ふん、中学の時よりはましな格好になったな」

 と言ってくれた。つい先日まで僕が雫星学園に入学することを断固として拒否していた状態から考えれば、だいぶ優しい発言だと思う。

「あんな風だけどね、お父さんなりに心配しているの。それに、入学式にいけないことを一番悲しんでるのお父さんなんだから」

 僕が傷つかないように、という思いからかお母さんがそんなフォローを入れてくる。

「ごほんっ! そんなことはないからな。……朝食が冷める、はやく食べるぞ」

 そしてお母さんのフォローという小声は、少しばかり声が大きい。たまに人にわざと聞こえるように言っているんじゃあないかって思うぐらいには。

「そうね、いただきます」

「いただきます」

 僕の家族では、ご飯を食べるときは必ず家族揃ってから、というルールが存在する。

 だからお父さんはどんなに遅くても八時までには帰ってくるし、残業なんて一度も聞いたことがない。

 ……まぁ、もともとお父さんが優秀すぎるから、という理由があるかもしれないけど。

「……彩兎、どんな学校であれ、学業はおろそかにするな。わからないところは先生なりできた友達にでも聞け」

「あら、あなたに聞いちゃだめなの?」

「……いいか、くれぐれも中学の時みたいな成績は持ってくるなよ」

 お父さんは非常にお母さんに弱い。お母さんに言い返したことなんて一度もないぐらい。

 僕はこくんと頭を動かして、わかったという意味を示した。口に食べ物入っているし。

「……ならいい」

 その意図が伝わったのか、お父さんは静かにご飯を口に運んだ。

「さい君、実はお母さんも入学式にいけないの。お友達との用事が入っちゃって……」

「そっか、なら仕方がないよ。入学式の写真は、僕がいくつか撮っておくから」

「ありがとう、さい君! 本当に悪いけど、お願いするわね♪」

 食べ終わった食器を、家族全員で片付ける。

 歯を磨いて、寝癖が残っていた黒い髪をもとに戻してから、僕は玄関にむかった。

「さい君、忘れ物ない? ちゃんと確認した?」

「大丈夫だよ、お母さん。昨日に準備して、さっきも確認したばっかだし」

「そう? ならいいけど……お父さんは、もう出かけたのかしら」

 お父さんは時間に厳しい。だから、遅刻なんてもちろんしたことがないし、僕にだって許されることはなかった。……中二病を患っていた時も、登校時間だけは絶対に守っていたし。

 靴は自由になっていたけど、高校生記念ということで、今はいている靴はお母さんが買ってくれたスポーツシューズだ。

「それじゃあ、僕もそろそろ行くよ」

「そうね、さい君は知らない人と話すことが得意じゃないものね」

 自分の息子を軽くコミュ障だとディスっているこの親はどうしてくれようか。

 それでも事実だから、何も言えないのが悔しい。今の時間は中学で例えるなら朝練習するために学校に集まる運動部員……みたいな感じだ。

「……お母さん、そのことはあまり言わないでね。僕、傷つくから……」

「そ、そうなの⁉ ごめんね、さい君! ……でも、この前テレビでやっていたんだけど、さい君のような人の事を確か」

「行ってくるね、お母さん!」

 余計なことを言われる前に、素早く玄関のドアを開けて外に飛び出す。どうして少しおめでたい日に二回も親にコミュ障だと言われなければならないんだろうか。

 せ、せめて……高校ではなるべく友達を作って、コミュ障を脱出しないと……!

「……無理かなぁ。だって、雫星学園って……」

 合格発表の紙と同封されていた、もう一枚の紙。

 そこに書かれていた『中二病力』っていう言葉がどうも強烈すぎた。

「もしかして、僕以外の人も……その、患っていたりするのかな……」

 そうだとしか思えないけど、そうだとしたら僕に普通の高校生活なんて絶望的だろう。

 会話するときも、何か行動を起こすときも、すべてにおいて痛々しくなる。

「……思い出しただけでも死にたくなるくらい恥ずかしいのに、それを強要されたりでもしたら……」

 いろいろ考えていた設定とか、小道具とかは合格発表前に全部捨ててあった。急に熱が冷めたと言うか、なんというか……。

「……あまり期待しないようにしようしよう……」

 いろんな不安を抱えたまま、僕は雫星学園へと向かった。



 四月になると、学校に植えてある桜がきれいな桃色の花びらを舞わせるようになり、見慣れるようになる風景に彩が加わるようになる。

 まだ新鮮さが少し残る校門を通り抜け、昇降口に来ていた僕は

「えっと、霧宮……霧宮……」

 自分の下駄箱がどこにあるか、いまだに探し回っていた。

 クラス編成とか、下駄箱の位置とかって玄関のガラスとかに貼ってあるものだと思って探してもどこにもなかった。

 だからこうして十五分ぐらい探してはいるんだけど。

「かなりの生徒数なんだな、ここの学校……」

 まず驚いたことは玄関が二つあったことだ。貼り紙もないし、どっちか迷った僕は右側の方から探し始めた。そしてついさっき、右側の方は二年生と一部の三年生の玄関だということがわかった。

 じゃあ左側では……と思って探しているけど、何故か名札も番号も何もない下駄箱が多い。

「ど、どうしよう……このままじゃあ……」

 同じクラスになった人も、それ以外の人も、僕に抱く第一印象は間違いなく『初日で下駄箱の周りをうろちょろしていた奴』になってしまう。

 僕だったら、そんな人に話しかけにきたいとは思わないだろう。

「もう七時半……早くしないと」

「やっべぇ、寝坊しちまったぁ!」

 最悪だ、いやなことを考えていたから本当に人が来てしまった。

「……ん? お前、こんなところで何をしているんだ?」

 しかも、僕の事に気づいて近づいてくる。

 ここで無視するわけにもいかないし、ここは腹をくくるしか……!

「い、いや……自分の下駄箱の位置がわからな……くて……」

「下駄箱? お前、郵送されたしおりを読んでないのか?」

 平然と会話を続けようとしてくれているところ悪いけれど、僕は目の前の人の格好に唖然としていた。

 学校なんだから、当然制服ではあった。制服ではあったけども。

(ど、どうしてこの人……腰におもちゃのベルトなんかつけているんだろう……⁉)

 その人の腰には、まるで新品のようにきれいにされたおもちゃのベルトが巻かれていた。

 た、たしかそのベルトは僕がまだ幼稚園の時とかにやっていた仮面ライダーブレ

「今日はこの学園で使用できる能力の測定、譲渡があるから早めに学校に来いってあったろ? クラスとかはそのあとに発表するって書いてあったしな」

「そ、そうなんだ……ありがとう……」

 結構重要なことを言ってくれていると思うけど、そのベルトを巻いているという格好でありがたみは台無しだ。

 僕は下駄箱に伸ばしかけていた手を引っ込め、鞄から先日郵送された内履きを取り出した。

 ちなみにこの鞄も、制服も全て郵送されたものだ。後から来たしおりに付属していた紙に体のサイズとかを書いて郵送すると、届くようになっているらしい。

「あっ、お前ももしかして俺と同じでまだ検査しに行ってないだろ? 一緒に行こうぜ」

 ……本当に最悪だ、今日はいろいろと。僕が検査をしていないことはさっきの会話でバレバレだから嘘はつけない。

 けど、僕の本能が言っている。絶対にこういう奴と仲良くなったら今後、僕はこの学校で変な趣味を持つ友達しかできなくなるだろう、と。

 だから、ここは何としてでも断って一人で行かなければ……!

「どうしたんだ? もしかして、もうとっくに終わっていたとか」

「う、ううん! 僕も今さっき来てまだ検査に行っていないんだ。だから一緒に行くよ!」

 ……きっぱりと断れる、そんな意思の堅い男に、僕はなりたい……。

「そ、そうか! 自己紹介がまだだったな、雫星学園(ここ)で本名が名乗れないからな……俺は八龍焔(やりゅうほむら)ってんだ、よろしくな!」

「うん、八龍君……だね。僕は霧宮光月。これからよろしくね」

「おうっ!」

 僕の場合、苗字はそのまま使われていたから、八龍君も苗字はそのままなのかな。

 そして、下の名前は何というか、中学生が考えそうな文字を使っているなぁ。

「検査する場所は受験した場所と同じらしいから、早く行こうぜ」

 いつのまにか内履きに履き替えていた八龍君が手招きしてくる。

 服装のことは慣れるしかない、八龍君はいい人みたいだから。

 そう思う事にした僕は出した内履きに履き替え、脱いだ靴を袋に入れ

「って八龍君、脱いだ靴忘れているよ⁉」

「あっ、忘れてた!」

 ……本当に友好関係を築こうとしていいのか、心配になり始めた。

 


 

 

 

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