プロローグ〜卒業できない中二病!?〜
高校受験。義務教育による学校が終わり、新しい学校生活を迎えるために突破しなければいけない大きな壁。
私立でも、公立でも、どの中学生が一度は受けるであろうその受験に、僕霧宮彩兎は。
「……そ、そんな……!」
『合格者一覧』と書かれた掲示板の前で膝をついていた。
高校受験がだれしも合格できるわけじゃない。受かる人もいれば、落ちた人がいるのは当然のことである。
僕は勉強ができないから、レベルが高い高校なんて選べない。だから、高校選びにはかなり時間がかかった。
……ただ、僕が今結果発表を見た高校は、偏差値が県内ではほぼ最底辺の高校だった。
「こ、これで全敗……」
名前を書き忘れた覚えなんてないし、回答にも自信があった。
それまで受けていた高校の合否結果もすべて不合格だったから、見直しだって念入りにしたはずなのに。
「ど、どうしよう……」
ほとんどの人……というか、たぶん僕以外の人が喜んでいるであろうその雰囲気に押し出されるように、僕はトボトボと歩いていた。
恥ずかしい話、僕は中学時代に世間でいう『中二病』を患っていた。
そのためか、勉強なんてしなかったし、受験日前日まで『俺が本気を出せば試験なんて余裕だ』とかカッコつけてたくらいだ。
でも、いつまでも中二病なんかを患っているわけにはいかない、高校では普通の生徒として頑張りたいと思ってたのに。
「……怠けていた僕に対する罰なのかな……」
何度も親に勉強しろ、受験をなめるなって言われた。当時の僕はもちろんそのすべてを『うるさい』の一言で切り捨てた。
先生やクラスメートにも言われた。お前そろそろヤバいぞって。当然僕は『大丈夫だ、問題ない』って聞かなかった。
「これからどうしよう……」
お父さんやお母さんに『高校受験? そんなの余裕で合格してくるぜ』なんて言ってしまった手前、今更全部落ちたなんてとてもじゃないけど言えない。
というか、どうして余計なことばっかりしかしていないんだろう、僕は。
甘く見すぎていた……というよりは、何も考えていなかった。いくら中二病だったからでも、あそこまでする必要なんてなかったのに。
もう受験生をとってくれる高校なんてどこにもないだろうなぁ。定時制とか、通信制とかいろいろ話された気もするけど、底辺高校に落ちてるようじゃあ、希望なんてないだうし……。
「……もう、僕なんて死んだ方がいいのかな……」
十五歳で浪人なんて親が許すはずがない。そう思うと帰ることが非常に怖くなってきた。
だけど、希望っていう物は、どんな形でも必ずあるもので。
「……受験生募集中?」
歩いていた道の角を曲がった僕の視界に映った文字は、そんな信じられないものだった。
「えっと……調査書必要なし、筆記試験無しで……簡単な検査を受けるだけでいい!?」
貼られていた紙には、確かにそう書いてあった。住所を調べると、僕の家からも近いところにあるし。
「……でも、近くにあったかな……雫星学園なんて……」
先生や親が僕のために様々な学校を調べてくれていて、もちろん僕の近所にある高校もリサーチ済みだった。
だからこそ、不思議だった。雫星学園なんて一度も聞いたことなかった。
「もしかしたら新設の高校なのかな? だったら聞かない名前でも仕方がないのかな」
ネットのサイトとか冊子とかでしか調べなかったからな……。
けど、どんな高校かわからない。普通の受験生なら追い込まれていてもそんな学校を受験しようなんて思わないだろう。
もちろん、僕だって……
「よしっ! 今すぐ受験に行かないと!」
道のりを検索して、速攻で学校がある場所へと向かっていった。
「こ、ここが雫星学園……」
二十分ぐらいだっただろうか、何かの果樹園にかこまれた場所に雫星学園はあった。
とても広くて、校舎も大きいその場所はまるで大学のようだった。
「す、すごい……僕の家の近くに、こんな場所が……」
「君、もしかして受験希望者かな?」
驚きのあまり呆然と立ち尽くしていた僕に、先生らしい眼鏡をかけた男の人が声をかけてきた。
「は、はい。そうですけど」
「ふむ……見た感じでは合格しそうにない受験生だが……」
この人、初めて会う人に対してとても失礼じゃないだろうか。
「まぁ、人を見た目で判断するのもよくないか。……受験会場はあっちだ、試験官の言うことを聞くように」
「は、はぁ」
とても威圧的な人に軽く会釈してから、僕は指差された方向にある体育館へと向かった。
体育館に着くと、僕以外にも何人か受験しにきているのか、脱がれた靴が何足かおいてあった。
そろえるように脱いだ靴を置いて、案内の矢印の通りに進むと、スーツを着た人達が何か装置みたいなものをもって待機していた。
「君はこの学校の受験希望者かな?」
「は、はいっ。広告を見てここを受験しようと」
「わかりました。では、こちらの紙に氏名と住所、電話番号等を記入してください」
調査書が必要ないって書いてあったし、書かないといけないのか。
渡された紙の欄に言われたことを書いて戻すと、今度は手に持っていた装置を渡してきた。
「こ、これは?」
「この装置はこの学園に入学する資格にふさわしいかどうかを判別する装置です。我々が規定している数値を超えた場合、即合格となります」
「そ、そうなんですか……。そ、その数値っていうのは」
「それについては、今の段階では教えることはできません。入学することができれば、知ることになるので」
「わ、わかりました……」
どんな数値か超気になるけど、これ以上は聞くことができなさそうだった。
「では、その装置を頭につけて、こちらのベッドに横になってください。結果が出たら、お知らせします」
装置をつけた僕がベットに横になると、起動音がなり始めた。
『認証装置、起動。測定対象、霧宮彩兎。只今より約10分程度の測定を開始します。対象者は目を閉じて静かに待機していてください』
機械の音声でアナウンスされた通りに、僕は目を閉じた。10分ぐらいで受験結果がわかるって、ずいぶんすごい受験体制ではないだろうか。
(……そういえば、流れでこの装置つけてるけど……もし、計っている数値が勉強のレベルとか、頭の良さだったりしたら……!)
最悪だ、底辺高校ですら落ちている僕がそんなものを数値化なんてされたら合格なんて壊滅的に無理だ。
ど、どうか測定される数値がそういうものではありませんよう『測定終了。お疲れさまでした』……えっ?
「お疲れさまです。装置をとって、体を起こしてください」
「は、はいっ!」
思ったよりもだいぶ早く終わってしまったので、装置を外す手の震えが止まらなかった。
あまりにも酷すぎる数値だったから、機械が即不合格とか判断されたんじゃないだろうか。
「こちら、結果の入った封筒となります。今日はお疲れさまでした」
「あっ、ありがとうございましたぁ!」
封筒を受け取った僕は逃げるようにしてその場から逃げ出し、そのまま家に直行した。
「あら、彩兎。試験結果はどうだったの?」
「い、今から見るから! 少し待ってて!」
結果を聞いてくるお母さんを素早く流して、僕は自分の部屋に入る。
……どんなに見たくなくても、結果は見ないといけない。封筒を破る手の汗が多くなる。
「えっと……『霧宮彩兎様。本校の検査に置いて、基準値を超えたのを確認したため、貴殿の合格と入学資格の補償をここに証明いたします』……!」
思わず大きな声を出しそうになったのを、ギリギリのところで踏みとどまらせる。僕を迎えたのは、『合格』という事実だった。
……やった。とうとう、僕の輝かしい高校生活が始まるんだ……!
「……ん? なんだろう、この紙……」
あまりの嬉しさに、封筒に入っていたもう一枚の紙が床に落ちるまで気がつかなかった。
「……はっ?」
だけど、できることならその紙は見たくなかった。少なくとも、これから期待する高校生活に対しては。
なぜなら、その紙には。
『なお、今回測定数値のため検査させてもらったのは、貴殿が持つ中二病力です。また、本校において本名を名乗ることは校則で禁止されているため、貴殿は霧宮光月として学園生活を送っていただきます』