前編
なんとなくで書いたんです‼︎
深い意味はありません‼︎深く設定も考えてません‼︎
でも、よろしくね‼︎三日連続更新で終わるよ‼︎
〝エリーゼ・フォン・クロムは、《死体公女》である〟
いつからそんな噂が流れたのかは分からない。
艶やかな黒髪が原因なのか。
血のような赤い瞳が原因なのか。
病的なほどに白い肌が原因なのか。
それとも……滅多に使える者がいない〝死霊術〟が使えるのが原因なのか。
とにかく、エリーゼは生きている公女なのに《死体公女》なんて不名誉な渾名が存在するのだ。
*****
「うふふふっ……うふふふふふっ………」
クロム公国の首都ーーロームスにある城の中。
家族団欒のために作られた部屋で、エリーゼはソファに座りながら泣いていた。
その傍らには、金髪碧眼の美しい少女……に見せかけて、三十代後半の美魔女(?)である母親エリーが心配そうな顔をして、エリーゼを見つめていた。
「エリーゼちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だと思われますか、お母様」
「えーっと……」
そろぉ〜〜……目を逸らす母親。
自身の母親の素直すぎる反応に、エリーゼは撃沈した。
「うふふふふっ‼︎ご存知ですか、お母様‼︎わたくしの婚約解消、今回で五度目なんですわ‼︎もう完全に結婚できませんわよっっ‼︎」
そう……エリーゼは、五度目の婚約解消をしたばかりだった。
その理由は簡単。
彼女が死霊に愛され過ぎているからだ。
『やった〜‼︎エリーゼが他人のものにならな〜い‼︎』
『邪魔した甲斐があったぜ‼︎』
『うわ〜い‼︎』
猫や小鳥、子犬などの死霊がエリーゼの足元でキャキャウフフッ‼︎とはしゃぐ。
エリーゼはギリッと歯を噛み締め叫んだ。
「お前達、わたくしが結婚できなくてもいいの⁉︎」
『『『いいよ‼︎』』』
「ふざけんなっっっ‼︎」
エリーゼは公女らしからぬ剣幕で死霊達と喧嘩を始める。
見た目深窓の令嬢である彼女は、その見た目とのギャップが凄まじい。
ぶっちゃけ、そこまで彼女が切羽詰まっているのも理由がある。
エリーゼは今年十八歳。
クロム大公家の結婚適齢期は十六歳から十八歳。
つまり、今年を逃せば行き遅れと言われかねないのだ。
なのに、五回目婚約解消。
何も問題がなくても、五回も婚約解消していれば腫れ物扱いだ。
もう……婚約・婚姻してくれる人がいるかどうかすら怪しい。
………ここにいる死霊達がエリーゼに嫁いで行って欲しくないからと邪魔していたがゆえに、エリーゼは結婚できないのだ。
「姉様〜大丈夫ですか〜?」
「エリーゼ、大丈夫か?」
金髪碧眼の中世的な少年……弟のヴィーゼが扉からひょこっと顔を出す。
その背後には黒髪赤目の男性……父親ターゼムも弟と似たようにひょこっと顔を出す。
二人は死霊と掴み合いをしているエリーゼを見て呆れたような顔をした。
「元気ですねぇ」
「見た目詐欺だな」
「婚約者ができたならその本性出せばいいのに〜」
「そう思うよな、ヴィーゼ」
「仕方ないでしょおっ⁉︎こんな令嬢らしからぬ性格暴露して、また婚約解消されたら嫌だったんだもの‼︎」
「「でも、婚約解消されたけど」」
「うぅぅぅぅぅぅっっっ‼︎」
父親と弟の言葉にエリーゼは呻く。
死霊達の纏う死の気配が相手を威圧してしまうのか。
最初はなんとかなってても、徐々に相手が震え出す。
最後には冷や汗が止まらなくなり、酷い時は号泣して逃げ出す。
というか……どうしてなのか。
婚約者だった男性達が、エリーゼ自体が死体なんじゃないかと疑い始める。
もうこれは完全に彼女に取り憑いてる死霊の死の気配が原因だとしか思えなかった。
「《死体公女》とか‼︎生きてるのに死体扱いとか‼︎失礼過ぎるでしょぉぉぉおっ‼︎」
「大丈夫よ〜‼︎エリーゼちゃんは可愛いわよ〜‼︎ちょっと死のオーラ纏ってるけど‼︎」
「慰めになってなぁぁぁぁぁぁいっっっ‼︎」
だが……後日ーー。
そんなクロム公国にとある使者が来ることで、運命は動き出すーーー。
*****
「……………………………………………………ん?」
応接室でターゼムは首を傾げる。
目の前には眼鏡をかけた青い髪の知的な青年。
彼は微笑んでいるが……ターゼムは言わずにいられなかった。
「すまん、もう一度言ってくれるか?」
…………そう言ってしまうのも仕方ないだろう。
それだけ、彼の言葉は驚きだった。
「ですから、貴国のエリーゼ姫を我が帝国の皇太子の妃としている迎え入れさせて頂きたい」
ネイジーア帝国の執務官コニーは、はっきりと告げる。
ターゼムは頭を押さえて……首を傾げた。
「………………………………何故?」
彼の疑問も仕方ないだろう。
ネイジーア帝国は、この大陸で一、二を争う大国であり……至って普通のクロム公国とは縁がない。
というか、大帝国とも言えるのだから、他の大陸の大国の姫君と婚姻した方が得するはずだ。
もっと良いところの令嬢だっているはず。
なのに、何故エリーゼなのか?
コニーはその疑問に、若干言いづらそうな顔をして……告げた。
「それはその……エリーゼ姫が《死体公女》だからですね」
「…………………………………………………………………………え?」
コニーは「どうせ隠してもバレますし……」と呟き、エリーゼを求めた理由を話し始めた。
曰く、皇太子であるレヴィエフ・ピィアズ・ネイジーアは、二十歳になる皇太子でありながら正室も側室も持たぬのだとか。
別に顔が悪い訳じゃない。
さらっさらのプラチナブロンドに、柔らかなアクアマリンの瞳。
十人中十人が美青年と認める、顔だけは良い青年。
しかし……。
だが、しかしっっっ‼︎
「………………………………………《死体愛好家》なんですよ……」
「……………………………………………」
ヒョォォォォォォォォ………。
冷たい風が吹いた気がした。
ターゼムの目が氷点下まで冷たくなり、コニーは居心地が悪くなる。
「…………まさか……」
「………えぇ……えぇ‼︎あのクソ野郎はまさかの普女性には欲情しないんですよ‼︎今までなんとか既成事実を作ろうとして数多の女性を差し向けましたが、逆に死体愛を語られてドン引きする始末‼︎でも、あいつは暗殺されてかけてもやり返すぐらいの強さですしっ‼︎皇帝としては他に適任がいないぐらいにカリスマ性があって……‼︎でもでも、皇位継承権第一位のアイツの子供がいないのは問題ですしっ……‼︎」
…………なんかもう、これだけで彼の苦労が滲み出ているようだった。
カタカタカタと乾いた笑みを浮かべる執務官に、ターゼムは同情をしてしまう。
「………なので…生きてらっしゃるけど、《死体公女》と呼ばれておられるエリーゼ姫ならばと一縷の望みをかけて……参りました」
「だが……なんか、聞いただけだと、彼はその……死体に欲情しているように……」
「あ、流石に死体を抱いたりはしてませんよ?流石に病気とか気になるらしいですし、死体はちゃんと心を持って埋葬するのが大切らしいので?」
「………………………………ん?」
なんかレヴィエフ皇太子がよく分からなくなってきていた。
普通の死体愛好家は死体を手元に置いて愛でてるイメージがある。
なのに、彼は………。
「あ、別に無理にとは言いません。エリーゼ姫が嫌なら容赦なく切り捨てて下さって構いませんので」
「………切羽詰まってる感じじゃなかったか?」
「いや、まぁ……確かに現皇帝が第四側室まで作りやがった所為で王位継承争いが泥沼ってますし、レヴィエフ皇太子以外はそのバックにいる貴族達が帝国を支配しようと暗躍してますけど……まぁ、ほら。下手したらエリーゼ姫まで危険になりますから。それに、死体愛好家ってのも……下手に婚約者とか妃を作らないようにするためな気がしますし」
ターゼムは〝あぁ……〟と納得する。
つまり、彼は王族特有の泥沼の世界に余計な人を巻き込まないように……他人が不気味に思うように、興味を持たないように。
死体愛好家を演じているのだと。
「……………君じゃダメなのかい?」
「ダメですね。僕はレヴィエフ皇太子の執務官となっていますが……本当は第三側室の子飼いですから」
「なっ⁉︎」
コニーの言葉にターゼムは絶句する。
「それどころか……あの国に、レヴィエフ皇太子の味方はいないと思います」
「………皇太子の母親の後ろ盾は?」
「傀儡の道具にしたがる者など、味方と言えますか?」
「………我が国である必要は?他の国への打診でもよかったのでは?」
「…………わたしの占星術で出たから、としか」
どうやら彼は占いや星読みを得意とする占星術師らしい。
ターゼムは腕を組み……真剣な顔になった。
「……………どうして、そんなことをわたしに言うんだ?」
「………………………さぁ。あの孤独な皇太子に、ただなんの柵もない……味方を作ってあげたくなったのかもしれません」
ターゼムは静かに目を閉じる。
そして……今の彼にできる返事をした。
「分かった。しかし、エリーゼの気持ち次第だ」
「それで構いません」
コニーは、泣きそうな顔で……頭を下げた。