第9話 月明かりが照らす、このライブ感!
その日はすぐ自分の部屋に戻った。
部屋に戻るまでの間に、俺は数人の兵士とメイドに出会った。
相も変わらず、出会い頭に全員が土下座し、滝汗もだらだら流れていた。
「はぁ、俺はいつになれば平和な日々を送れるのだろうか」
気絶していたラキについては、グインにメイドを呼んでもらい介抱してもらった。
命に別状はなく、怪我もすり傷程度で大したことはないらしい。
「誠司さ〜ん……」
ロリ天使が申し訳なさそうな表情をして胸ポケットから首だけ出してきた。
このロリっ娘ちゃんめ。説教してやる。
「ああ、ロリ天使か。まったく、さっきのアレはなんだ? めちゃくちゃしやがって」
「すみません……もうちょっとだったんですが、力及ばず……」
「ん? もうちょっとって何がだよ」
「あのエルフの女の子をハーレムに加えることがです……」
「そっちかよ! ブレねえな、ロリ天使」
まぁ、いいや。
もし、ロリ天使が彼女に大怪我をさせたり、ましてやハーレムへ加えさせたりしたならば、俺はスーパー説教タイムをこの場で開幕していたが、結果的にはどちらにもならず場をしのいだので、不問としておこう。
さっきの出来事で、少し平和な日々から遠ざかった感はあるが、まだ致命的な距離ではない。
せっかくの新しい人生だ。ゆっくりやっていこう。
*
昼食、夕食を終えて、俺は部屋でだらだらと過ごしていた。
途中、数人のメイドが部屋にやってきて、俺の身体を拭こうとしてきたが丁重にお断りした。
さすがに美女に囲まれてフルチンになるのはヤバい。
俺は替えのパジャマと道具だけを預かり、自分で身体を拭いた。
ロリ天使は『せっかくのチャンスなのに』だとか『ライブ感が〜』だとかのたまっていたが、俺には俺の尊厳の守り方というのがあるんだ。
ふと、窓の外を見やると、完全なる真夜中の様相となっていた。
ほとんどの建物の明かりが消え、シーンと静まりかえっている。
ロリ天使も俺のパジャマの胸ポケットでぐっすり眠っている。
「……俺もそろそろ寝るか」
俺は明かりを消して、ベッドにまた横たわった。
結局、俺が何のために召喚されたのか、今日も分からなかったな。
まぁ、召喚された勇者っていう設定に俺から乗っかっただけなんだけどね。
そういえばラキは『勇者来たれ』と書かれた御触書を見てやってきたと言っていた。
勇者を召喚しようとした理由も、おそらくそれに関連するものだろう。
えーと、『新たな脅威』だっけ? ずいぶん抽象的な言い回しだったので、御触書を見たはずのラキも正確な理由は知らないんだろう。
――『バン、バン!』
急に、俺の部屋のドアを叩く音が聞こえた。
広い部屋なので、音が反響して聞こえてくる。
なんだ? 誰だ?
メイド……じゃないよな。
食事を運んでくるメイドは、いつも4回のノックをしていた。
それに、あれはノックというより叩きつけるような音だ。
――『バン、バン、バン!』
また、ドアを叩く音が聞こえてくる。
しょうがない、出てやるか。
万が一、強盗の類であったとしても、俺の身体はどうやら無敵のようなので、怪我をすることはないだろう。
俺はベッドから立ち上がり、ドアのほうまで移動を開始した。
―――『バン! バン!』
移動中にまたドアを叩く音が聞こえた。
この部屋はかなり広いので、ベッドからドアに移動するまでには時間がかかるのだ。
『ガチャリ』と俺がドアを開けると、そこには見慣れた顔が存在していた。
昼間、ロリ天使にボコボコにされていたラキだ。
今度の服装は半裸ではなく、俺と同じようなパジャマで、斧も装備していない丸腰だ。
「あ、昼間のエルフの……」
「ラキだ。部屋に上がっていいか?」
こんな時間に?
うーん、まぁいいか。
もう毎日が日曜日なんだ。多少の夜更かしは問題ないだろう。
「分かった。ちょっと待っててくれ。明かりを点けるから」
「いや、このままでいい。月明かりだけで十分見える」
「え? お、おう。そうか。じゃあ、そこのソファーで話を聞こうか」
俺はドアから近いほうのソファーを指さした。
座り心地は抜群。5〜6人は座れるほどの大きなソファーだ。
「ありがとう。先に座っててくれ」
「え? あ、ああ」
なんだよ、いったい。
昼間のことに関連する話か?
まぁ、いいや。なんにせよ俺がケガをすることはないだろう。
今度は大斧も持っていないしな。
もし、万が一のことがあればロリ天使もいる。
というわけで、俺はそのままソファーまで歩いて行った。
「よっこらしょ、と」
ソファーに腰を乗せると、ふわふわの内綿が包み込んだ。
うん、こいつの座り心地はやっぱり最高だ。
俺は座りながら顔を上げると、ラキはまだドア付近の場所に立っていた。
エルフ耳をピーンと立てて、顔を紅潮させながら、胸に手を当てて深呼吸をしていた。
「すーはー、すーはー、よし……がんばれ私……!」
なんだよ、その可愛い仕草は。
昼間とは全然キャラが違うではないか。
俺はソファーまで歩いた時、わざとラキに背中を向けて気を張っていたが、攻撃をされることはなかった。
どうやら本当に敵意はないらしい。
しばらくすると、ラキはこちらに歩いてきた。
両手の拳は握っているが、少し震えていて、顔は紅潮したままだ。
――と。
『バサッ』
ラキはソファーに座った。
いや、ソファーに座ること自体は別に良いんだが……。
なぜ、こんなに近いんだろう。
5~6人がけのソファーにも関わらず、ラキは俺のすぐ隣にピッタリと身体を付けて座っている。
なんだこりゃ。
俺が怪訝な表情をしているとラキはゆっくりと口を開いた。
「色気のない格好で、すまない……」
当たり前だ。
色気のある服装だったら部屋に上げてないからな。
「そんで、話があるんだろ? 話はなんだ?」
俺がそう言うと、ラキは急にもじもじし始めた。
「ええと、人生の話とか……」
「重いな!」
と、ここまで来て俺はいまさら気づき始めた。
おいおい、まさか、コイツ……。
「……えーと、まさか、俺の情婦になる、つもりじゃ、ないだろうな……」
そんな台詞を言った瞬間に、ラキは俯いていた顔を急に俺のほうに向けて、目を合わせた。
「そのつもりだ……! 私はお前の情婦として、ここに来た」
出た! なんでだよ!
お前、昼間と全然言ってることが違うじゃねーか。
キャラがブレ過ぎだろ!
「え、えーと。確か昼間は『私のプライドは随一だ! 死んでも絶対に忠誠を誓わん!!』って言ってなかったっけ? なんで舌の根も乾かぬうちに真逆の意見が出るんだよ。矛盾してないか?」
「ああ、矛盾しているな……。すまん、それについては色々と事情があるんだ」
「事情?」
「ああ。……でも、その前に……名前、聞いてもいいか? 私がいつまでも『お前』って呼んでいたら、失礼だろうからな……」
名前か……。
そういえば、この世界に来てからまだ誰にも言っていなかったな。
最初から俺のことを、みんな『勇者様』と呼んできたから、名前を名乗ったことはなかった。
名前を聞いてきたのは、ラキが初めてだ。
「俺の名前は、上原誠司だ。……あ、『誠司』が名前で『上原』が苗字ね。俺の国では名前と苗字が逆なんだ」
「セージ……。セージ・ウエハラだな。覚えた。発音しやすい音だな。これからは気軽にセージと呼ばせてもらおう」
「ははは。ありがとう。えーと、ラキのフルネームも聞いていいかな?」
俺は『なんでも鑑定魔法』を使ったので既にラキのフルネームを知っている。
だが、うっかり喋ってしまうとさすがに奇妙に思われるので、自己紹介の儀式は今のうちに済ませておこう。
「ラキ・アーンスロットだ。私を呼ぶ際は発音しやすい『ラキ』で構わない」
「ああ、よろしくな! ラキ」
俺がニコっと微笑みながら名前を呼ぶと、ラキはさらに顔を赤らめて俯いた。
「う、うん……。私こそよろしく頼む。セージ……」
なかなか、可愛い反応をしてくれるじゃないか。
ロリっぽい見た目については個人的には内角低めだが、ストライクゾーンに入ってるかもしれない。
――すると、なにやら俺のパジャマの胸ポケットからもぞもぞと動く感触があった。
「ふひひ……! ハーレム、ハーレムだぁ……!」
ロリ天使だ。やはりバッチリ起きていたか。
下卑た表情を浮かべ、俺とラキを食い入るように観察している。
「へっへっへ……。ライブ感……! ライブ感……!」
ええい、静まりたまえ!
この変態が。