第7話 ロリ天使さん、イキる!
「ああ!? 道化だぁ!? 弱いクセしやがって……! 何が言いたい!」
「クックック……! 理解の及ばぬ雌犬が! さっきまでの対応は、言うなれば貴様に対するテストだ! おかげで貴様が、何の大望も知略もない、ただの呆けた雌犬だと分かった……!」
「なんだとッ!! 私を舐めるな!! 本当にブチ殺すぞ!!」
「はーっはっはっは! 貴様は絶対に我を殺すことはできん! 蟻がオオアリクイに勝てんようにな! 即刻、視座を下げよ! そうすれば命だけは助けてやろう!」
完全にイキりまくったロリ天使は挑発を重ねている。
本当に大丈夫か? 俺は剣を重ねたが、相手の少女の力は異常だったぞ。
「……本当に、いい加減にしろッ!! マジで殺すぞ!! ああッ!? 視座だァ!?」
「どうした? 我の前に膝をつき、腰を折り、頭を地面に擦り付けろと言っておるのだ! それができぬならば貴様の人生は今日、ここで終わるッ!!」
俺の身体がそう言い終わると、エルフ少女のラキからは『ブチッ、ブチッ!』と何かがキレる音が聞こえてきた。
「――死にさらせやッ!!! 肉片すら残さんッ!!!」
――今度はさらに速いっ! 飛び掛かって来たかと思うと、もう右腕にある大斧を振りかざしている――あ、ヤバい。俺の命、終わった。
バイバイ、異世界。こんにちは、天界――!
「やれやれ、怒りの発露のさせ方がまだ乳臭いな! 我が高尚なる怒りの発露を拝観し、怒りの何たるかを学ぶがいい! 『怒れる獅子の邪法』!」
俺の身体を操っているロリ天使はそんなイキり台詞を言うと、途端に身体が赤いオーラで包まれた。
そして、剣を逆手に持ち、その剣身で腕の部分を守った。すると――。
『ガシンッ』と大きな金属音が鳴り響いた。ロリ天使は腕に寝かせた剣身で受け、大斧をそのまま下に流していく。
そして体勢を変え、ラキの右腕の肘を思いっきり蹴り抜いた。
「な――ッ!」
ラキは肘を蹴られた衝撃で、大斧を落とし、そのまま地面に倒れ込んだ。
あー、あれは痛い。肘の内側の出っ張った骨は、打つとジンジンしびれるんだ。
「『怒り』の感情は冷静の中で発露することが最も望ましい! 相手に何らかのダメージを負わせたいと思っているのならば尚更だ! しかし、貴様の怒りは素直すぎる! だから我のような賢しき存在に先を読まれ足元をすくわれるのだ!」
ここぞとばかりにロリ天使はご高説を賜らせる。
「――さぁ、大斧を取れ、第二ラウンドだ」
ロリ天使が強者の笑みを浮かべてそう言うと、ラキは俯いたまま「ふふふ……」と含み笑いで返した。
「ははっ! 私はいま、お前と打ち合ってみて確信したッ! やはりお前は弱いッ!! そのような脆弱な力では私に勝てない!!」
「ほぉ? 尻もちを付いた分際で挑発とは斬新だな!」
「馬鹿め、事実だ! お前のような魔術師は一生をかけても私には勝てない!!」
「ずいぶん威勢がいい雌犬だな! よかろう! 戯れに、あえてその安い挑発に乗ってやる!」
俺の身体はまた勝手に動き出し、頭上で指を『パチン』と鳴らしてみせた。
すると、昨日の召喚の儀式の時と同じように、禍々しい光る蛇が上空を渦巻き始めた。
それを見て、ラキは大斧を手に取り立ち上がる。
「グインを屈服させた我が魔法、その身に食らうがいい! 『拘束する蛇の邪法』!」
――すると、頭上の光る蛇が一斉にラキに目掛けて飛んでいく。
「馬鹿め! 私が『魔術師殺し』と呼ばれる理由を教えてやるッ!!」
ラキはそう叫ぶと、大斧を持っていない左手の甲を向け、中指を立てた。
あ、海外でやるとめっちゃ怒られるあのフィンガーサインだ。
ちらりとラキの表情を見ると、やっぱりめっちゃイキってた。
――そして、光る蛇がラキに着弾する瞬間、立てていた中指が黒く輝いた。
すると、なんと、全ての光る蛇がその中指に吸い込まれていった。
「ハーハッハッハ! どうだ! これが私の『魔術師殺し』と呼ばれる理由だ! 左手の中指に、魔力吸いの呪いが施された『超魔装具』を装備している! 身体中の魔力を常に吸われ続けるが、外部からのどんな魔法でも同じように吸収して無効化する! だから魔術師は絶対に私に勝てない! そして私の絶大な力を前に屈服するしかなくなるんだ!!」
言われてみると、確かに左手の中指に指輪のようなものを装備していた。
付属の糸でぐるぐる巻きにしていて、簡単には外れないようになっている。
「――クックック……! あーはっはっはっは!!」
ロリ天使さんもなんかめっちゃ笑ってる。
「エルフの女よ、貴様のその自信が何かと思えば……! クックック……! それに、貴様はどうやら勘違いをしているようだ。我は、魔術師ではない……」
ロリ天使は俺の顔の表情をイキり顔にさせたまま、剣を謎の空間にしまい、ゆっくり腰を落として言った。
「――勇者だ!」
その瞬間、操られている俺の身体は尋常ではない速さでラキの懐まで駆けていく。
そして、ラキが防御姿勢をとる前に、俺の右腕はみぞおちを正確に捉え、正拳でそのまま打ちぬいた――!
「――か、はっ……」
みぞおちに本気打ちを食らったラキは、そのまま後方に吹き飛ばされ、大きな木に身体を激しくぶつけて止まった。
……俺の五感はそのまま残っているようで、右手がめちゃくちゃ痛い。ロリ天使め、俺の身体で無茶をしてくれるなよ。
ラキをよく見ると、たった一度の攻撃を受けて満身創痍になっているようだ。
既にかなり疲弊しきった表情をしている。
「……お前……まさか、いままで本気ではなかったのか……!」
「クックック……当たり前だ。言っておくが、いつでも貴様を殺せていたんだぞ。貴様がいま生きているのは勇者たる我が慈悲の賜物だ」
「……いや、お前は『勇者』ではない……! 勇者とは、真に勇猛な人間だ。何があろうと、相手の油断を誘うために弱者を装ったりしない……! そんな卑怯な騙し討ちはしない……! 私のような、勇猛な者にこそ、勇者の称号がふさわしい……!」
「いや、我は勇者だ。そして貴様は勇者ではない! 貴様の言う勇者の条件とはただの理想像だ。そして、それを自分に重ねているんだ。本当は卑しい性質の自分を慰めるためにな……」
なんか語り出した。
「我が無知な貴様に教鞭を執ってやろう。勇者とは、誰よりもアンテナを広げて怒りのエネルギーを多く受信し、そして誰よりも怒りのエネルギーを上手く使う存在だ。民衆のために立ち上がり、民衆のために怒りを奮う。勇者は怒りのエネルギーを他者のために使う! 貴様の怒りの奮い方は勇者のそれではない! 自己の精神的充足のために利用しているに過ぎない!」
「――くっ……!」
ラキが、まるで苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「先ほど、我は『テスト』という言葉を使ったが、それはまさしく貴様に勇者たる器があるかを見極めるテストだ。結果はもちろん、落第。理由はいま言った通り」
アドリブでよくそんなに言葉がつらつら出てくるな。さすが4000歳越え。
「さぁ! 我をほうを向き、視座を下げよ! そして我が情婦として一生を捧げることを誓え! そうすれば命は助けてやろう!」
ロリ天使さん!?
そんな発言をした直後、俺の身体は小声で、俺にだけ聞こえるように喋り始めた。
「……誠司さん、チャンスですね! ハーレム生活の第一歩です! 絶対にあのエルフの女の子をハーレムに加わらせるので、楽しみに待っててくださいね!」
――おいぃ! 俺そんなこと望んだっけ!?
平和に生きたいって一番最初に言ったよね!?