第6話 イキり勇者と、ツンギレ少女!
いや、アホか。
数秒間考えてみたが、なぜここで『ハーレム』って単語が出てきたのか全くわけが分からん。
――あ。いやいや、待て。もしかしたらそんな下世話な意味ではないのかもしれない。
そもそも、『ハーレム』とは色々な意味を含んだ言葉で、日本だとその下世話な意味ばかりで通じてしまうが、本来は『禁じられた場所』だとか、『宗教的な場所』だとか、はたまたニューヨークの町名だったりする言葉だ。
もちろん、天使用語か何かで、もっと他の意味を含んでいる可能性がある……!
俺は最初の数秒間、一瞬でもそれらの考えがよぎることはなかった。
――つまり、汚れていたのは俺の心だということだ。下世話なのは、俺のほうだった――!
ロリ天使はなんて下世話な言葉を吐くんだと思っていた俺自身が、下劣な存在だった……。猛省しなくては。
「なぁ、ロリ天使。俺はいまとても反省をしている。お前が言った『ハーレム』という言葉に、とても卑猥な意味を感じ取ってしまった。許してくれ……!」
俺は素直に謝った。そう、俺はせめて人生に対して誠実に生きたいんだ――。
「え、なに言ってるんですか? 誠司さん。『ハーレム』はめっちゃ卑猥な意味ですよ! 誠司さんお一人で国中の女の子を侍りまくりましょう!!」
「どストレートに卑猥な意味だった!? 俺の反省を返せ!!」
「――おい、グイン。この男、ひとり言ばかり喋っているぞ。大丈夫か?」
ラキが既に目の前まで来ていた――!
ひとり言をバッチリ聞かれてしまったようだ。
「何を言うか……! 勇者様は召喚された日も、こうやって、拙僧らには理解の及ばぬ高尚な箴言をお呟きになられていた……! 恐らくは高位魔術の詠唱……! 拙僧ら浅学の身では理解できるはずもない……!」
すみません、思いっきりただのひとり言です。
「ああ! グインめ! もう、いちいちイラつかせてくれるぜ!! 私を浅学の身だと!? 私を馬鹿にするな!! もういい! この男の身体に直接聞いてやる!!」
これ、俺、完全にとばっちりだよな。
「念の為にステータスを見ておくか……『なんでも鑑定魔法』!」
――――――――――――
ラキ・アーンスロット
称号:【はぐれエルフ】【終末の戦士】【魔術師殺し】
HP 100%
MP 0%
体力 【普通】
魔力 【ナメクジ】
攻撃力 【ヤベーやつ】
防御力 【強い】
敏捷力 【非常に強い】
※『~力』というステータスは9段階評価となります。評価の高い順から『神』『ヤベーやつ』『非常に強い』『強い』『普通』『弱い』『非常に弱い』『ナメクジ』『犬の餌』と表記されます。
――――――――――――
――うん? 称号、なんだこれ? 『エルフ』……?
大型トラックの名前じゃないよな。
「なぁ、ロリ天使。『エルフ』ってなんだ?」
「え、誠司さん! エルフをご存知ないんですか!?」
「まるで一般常識かのように言わないでくれ……。学校と仕事で学んだ知識以外、疎いのは自覚しているが」
「なるほど! それじゃあ、ゲームやファンタジー作品にあまり詳しくない誠司さんに教えてあげますね! エルフっていうのは寿命700歳くらいの長命種族で、尖った耳が特徴です! 主に魔法や弓矢で戦います!」
ん? 尖った耳……?
おお、よく見たら尖った耳がピコピコと動いているな! アクセサリーかと思っていた。本物か。
これがエルフ、寿命700歳か……。
少女にしか見えないが、それなりの歳なのかもしれない。
「ところで、目の前にいるそのエルフとやらは、魔法や弓矢を全く使いそうにない装備をしているけど、あれは例外みたいなものか?」
「うーん、確かに! エルフでも相当珍しいケースですね! ダークエルフじゃなく普通のエルフで、近接戦闘メインなのは初めて見ました!」
ダークエルフ? また知らない単語が……。
「また、わけの分からんひとり言を……! どいつもこいつも舐めやがって!! 私の斧のサビにしてくれる!!」
少女が背中の大斧を抜いてガチギレしてきた。
もちろん、こうなった原因の半分以上はとばっちりだ。
すると、そばにいたグインは、俺に小声で耳打ちをしてきた。
「面倒なことに巻き込んでしまい、誠に申し訳ございません……! もはや、痛めつけるしか分からせる方法はございません。しかし、彼女にせめてもの慈悲を頂けると幸甚千万です。彼女は……ラキは、拙僧にとっての昔の旅仲間であると同時に、幼馴染なのです……!」
そんな間柄を聞かされてしまっては優しくするしかないな。
でも、こうなったのは割とお前のせいだけどな。
「おい、ラキとかいう少女よ! 覚悟はできているんだろうな!? そんな危険なことをすると、サビになるのはお前のほうかもしれないぞ!」
少し脅してみた。おとなしそうな大人が急に強気に出たらビビるのが子供というものだ。
「はぁ!? 私を舐めんなコラ、オラ!! 決めた!! ブッ殺すッ!!」
完全に裏目に出たか。
可愛らしい外見なのにずいぶん汚い言葉を使うなぁ。
「――ゴラァ!!」
――うおっ! いきなり向かってきた!
ラキは異常に速いスピードで手に持っている大斧を『グォン!』と大振りをした。――胴体を真っ二つにするコースだ。
しかし、俺は寸前のところで後ろに退いていて、ギリギリ助かった。パジャマの腹の部分には少し切れ目が入っている。
「あっぶねー、装備をさせる時間くらいくれよ」
俺は急いで、心の中で『メニュー』と叫び、『アイテム』の中の剣と鎧を選択して『装備』をクリックした。
――クリックした直後、俺の身体の周りにうっすら輝く霧のようなものが現れ、バシュン! と音を立てて『剣』『鎧』に変化した。
前回と同じく既に着用状態だ。
「――なに! 物理魔法か! なるほど、ただの口だけの魔術師ではないわけだな!!」
「今度はこちらの番だ! ツンギレ少女め!」
パジャマの時はさすがに心細かったが、剣と鎧を装備した途端に自信が満ち溢れてきた。
――これで勝てる!
俺が剣を構えて、ラキに向かって斬りつけた。
――しかし。
『ガシンッ』と音を立てて大斧で切り払われてしまった。
俺の剣より10倍重そうな大斧を片手で軽々と――。
「……弱い! 弱過ぎる!! そんな腕でよく私にケンカを売れたな!! アァン!?」
マズい……! 昨日の時は余裕だったから今回も余裕だと思っていたが……。
「お、おい……! ロリ天使……! なんか、俺、負けそうなんだけど……!」
すると、鎧の内側、胸ポケットにいるロリ天使は両手でバンザイをして、俺に笑顔を振りまいた。
「大丈夫ですよ〜! この前取ったスキルのおかげで、体力と防御力は超人的な強さになっているから、少なくとも戦いでは死にません! でもぉ……」
「でもぉ、なんだよ?」
「攻撃系のスキルは一切取ってないので、剣を振っても、あの相手には全くダメージが通りませんよ! 攻撃力は『弱い』のままですから! このままだと一生勝てないです!」
な、なにィ〜!
オススメと言われたスキルを選んだのに……。
ちらりと、ラキのほうを見ると『またひとり言か……』と言わんばかりの怪訝な表情で見ていた。
――よし、まだ攻撃を再開しない。いまの内に話を進めよう。
「このままだと勝てないって? じゃあどうすれば勝てる!?」
「簡単です! また、『勇者の威光』を唱えてわたしに身体の制御を渡してください! あのエルフ少女をボコボコにしてみますね!」
そういえば、昨日もそれをやって場を制していたな。
なるほど、俺そのものが強いんじゃなくて、ロリ天使が強かったということか。
「ボコボコにはしなくていい。でも分かった! このままツンギレ少女に舐められるのもしゃくだ! お前に任せる! 『勇者の威光』!」
――俺がそう唱えた瞬間、身体から眩しい光が溢れていく。
すると、五感はそのままに、身体の筋肉を動かす指揮権を、徐々に誰かに移譲するような感覚を覚えた。
数秒も経てば、身体の指揮系統は全てロリ天使が掌握していた。
「――クックック……! あーはっはっはっは!!」
ロリ天使さん!?
「エルフの女よ……! 道化もここまで来ると痛快だぞ? 我がわざと無害な弱者のふりをしていたのがまだ分からんか……?」
お前、まだそのキャラ続けるんだ。