第48話 人類はいま、絶賛衰退中!
「気が済んだか? ラキ。さて、モンスター退治に行くぞ」
いまだに俺の胸に抱きついていたラキを、俺は両手で引き剥がした。
「うう……。そうだな、セージ。モンスターのところへ行かないとな……」
ラキは残念そうな顔をする。
そんなに甘えていたかったのか。
「あとでいくらでも撫でてやるから、いまはとりあえずモンスター退治に行くぞ」
「本当か! それなら行く!
……でも、私が行くのは『モンスターの叩き出し』であって、『モンスター退治』じゃないぞ。
いくらセージでも、モンスターを倒すなんて……」
「へぇ、そんなに強いんだ? モンスターって」
「強いなんてもんじゃない。
……まぁ、見ればすぐに分かるだろう」
見ればすぐ分かる……?
どういうことだろう。
とてもグロテスクな見た目をしているとか?
「ふぅん。じゃあ、とりあえず見てみようか。
お前らも一緒に付いてくるか?」
「「「は〜い!!」」」
8人の女の子はハモって返事をした。
*
『カラカラカラ……』
俺は馬車に乗ってカラカラと揺られている。
乗客は俺を含めて10人。
ラキは俺の隣に座って肩に頭を置いている。
他の女の子たちは仲間内で他愛のない世間話をしたり、縁に腰かけて足をバタつかせたり、周辺を警戒していたりと様々だ。
そういえば、城門を出る際、兵士になんらかの詰問をされるかと思ってはいたが、あっさり顔パスで出ることができたな……。
前回、イノビーと同伴していた時もほぼ総スルーだった。
俺は王国の要人なので、せめてどこへ行くかを聞かれると思っていたが、意外と放置プレイのようだ。
そのクセ、城門自体はとても厳重だった。
入れもせず、出しもせずといった様相だ。
「この城の城門ってやけに厳重だよな。あれって侵入者対策かな? それにしては異様に壁が高いような気がするが……」
俺が何の気なしにそう呟くと、ネコ耳フードでエルフ耳を封印しているラキは口を開く。
「――侵入者対策としての意味合いももちろんあるが、あれは主に『モンスター対策』のためだ」
「モンスター対策? 兵士たちがあんなに大勢いるのに更に設備が必要なのか?」
「うん。昼ならともかく、夜のモンスターに対して生身の人間では城を防衛できない。だからモンスターが城へ侵入してくるのを防ぐために、あの魔法障壁は必要なんだ」
「ふーん……。あ、そういえばラキはさっき言っていたな。町の外壁にある『高い壁』もモンスター対策だって」
「そうだ。町の壁は、城より数段劣るが必要十分な防衛魔術を仕込んである。だからどんなモンスターが来ようが、町はまず大丈夫のはずだ」
「なるほどね。じゃあ町は安泰なわけだ……。
……いや、待てよ……?
そういえばさっきは、最近モンスターが増えているとも言っていたよな。
だからこそ勇者を求めていたと……。
それって、危機感を覚えるほど増え続けているってことか?」
俺がそう言うと、ラキは両手の指をこめかみに当てて「う~ん」と言い、難しい顔をする。
可愛い。
「まさにセージの言う通りなんだ。こんなことはしばらく無かったのにな……。
最近のモンスターの増加ペースは異常だ。
この国はまだ大丈夫なんだけど、人類の生存可能区域は、全世界で同時多発的に縮小しているらしい……。
これを食い止めないと、いまは良くても数十年後に人類が存続しているか分からない。
奴らは食物連鎖のピラミッドの頂点にいる存在だ。
ゆるやかに、そして確実に……人類は衰退していっている」
「……ずいぶんとスケールのでかい話だな」
さすがにこれは想定外だった。
第2の人生で俺は平和に楽しく過ごそうとしていたが、まさか食物連鎖の頂点に人類以外が居座っている世界に来ていたとは。
だが、俺は一度死んだ人間だ。
ゼロベースで考えれば第2の生が与えられただけで満足するべきかな。
それに、まぁ……他力本願になってしまうがロリ天使もいるしな。
『カラカラカラ……キィィ……ガタン』
「うお……!」
馬車が急に止まった。
なんだいったい。
座ったままの姿勢で急ブレーキを食らったせいか、少し腰をひねってしまった。
……あ、でも全然痛くない。
さすが10代の身体!
「えーと、運転手さん? いったいどうしたんだ?」
「……すみません、勇者様。ここから先はどうか勘弁してください……。
どうやら、この先は今週発令されたばかりのモンスター警戒区域のようです……。
ほら、あの看板……」
初老の運転手が指さす方向を見ると、目新しい看板が地面に突き刺さっていた。
看板には数字で『48』とだけ書かれ、あとは黄色の地色に黒色の筆で、角の生えた牛のような絵が描いてあった。
「勇者様は異世界から来られたのでピンと来ないかもしれませんが、黄色の地色が今年の色で、『48』がまさに今週を意味する数字です。
つまり、ここは最近モンスター出現報告のあった警戒区域なんです……!
誠に申し訳ございませんが、ここから先は……」
「――ああ、なるほど。分かった。ここまでありがとうな。
ここから先は俺たちだけで行くから大丈夫だよ」
「ご厚情ありがとうございます……!
わたくしはここから500mほどお城の方向へ下がった場所で待機しております。
ご用がお済になりましたら、そうですね……『青色』の発煙魔法でお呼びください。すぐに駆け付けます」
「……ん? 発煙魔法?」
俺が首を傾げていると、ネコ耳のラキが俺の腕を掴んで口を開いた。
「――セージ。発煙魔法は生活魔法の一種で、魔法が使える者ならだいたいみんな習っている魔法だ。
……と言っても、セージは異世界人だからピンと来ないよな。どうしよう……」
「あ、アタシたち半分くらいは魔術師なので大丈夫ですよ~! やります~!
発煙魔法はお任せください~!」
26番がにこやかな表情で手を振る。
「お、ありがとう。それじゃあ任せようかな」
「ハッ! ご命令を拝承しました~!」
26番は元気な声を吐いて、その場で身体をクルクルと旋回させた。