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第47話 消えるタトゥーと、消えない忠誠!

「「「可愛い〜!!」」」


「むぎゅ……! うっ、みんな力強い……!」


 熱狂的な女の子たちはラキをもみくちゃにしている。

 そろそろ止めるか。


「こらこら、君たち止めなさい。ラキが困っているだろう」


 俺が校長先生のようなトーンで喋ると、彼女たちの動きがピタッと止まった。


「「「はっ! 失礼いたしました! セージ様!」」」


 ラキを解放し、全員が俺に向かって敬礼をした。

 綺麗なフォームで全員が手をおでこに当てている。


 軍隊かな?


「ううう……セージー!!」


 解放されたラキは俺に向かって走る。

 ネコ耳フードは斜め被りになり、エルフ耳がピンと立っている。

 あと、なんかめっちゃ泣いてる。


 『ガバッ』とラキは俺の胸に抱きついてきた。


「うえ〜ん!! セージ、怖かったよ〜!!」


 例のプライドはお構い無しで、ラキは俺に甘えてきた。


「おお、ヨシヨシ……。怖かったよな?」


「うん……。はぁ、安らぐ……」


 なんだこの親子感は。

 すると、それを見て女の子たちは沸いた。


「「「いいな〜!」」」

「どちらも羨ましいです! セージ様に撫でられることも、エルフを撫でることも……!」


 ラキをこの変態どもから守らないとな。


「いいなー! セージ様、アタシにもヨシヨシしてください〜!」


 隣にいた女の子がニット帽を外してせがんできた。


「そうだな、いいよ。お前だけラキをいじめなかったもんな。ヨシヨシ〜!」


「えへへ〜!」

「「「――いいな〜!!」」」


 俺が髪を撫でると女の子はとても嬉しそうにしていた。


 ……と。そういえば、この女の子たちの名前をそろそろ少しずつでも覚えていかないとな。

 呼ぶときに困るだろうし。


「………………ん?」


 なにやら違和感が。

 女の子のおでこを見ると、黒マジックのようなもので『26』と書かれていた。


「――なんだ? この数字。『26』って」 


「あ……見つかっちゃいました!?

 驚かせようと思って超魔装具(ぼうし)で隠していたのを忘れちゃってました……!」


「……へえ。この数字になにか意味でもあるの?」


「はい!

 ――みんな〜! もう『アレ』、見せちゃって〜!」


「「「は〜い!」」」


 『スルスル』『カチャッ』『ファサァ……』


 すると他の7人の女の子が、首に巻いていたマフラーだの、腕に巻いていたスカーフだのを外し始めた。


 ――ん……?


「えーと、みんな地肌に数字が書かれているように見えるけど……」


「はい! これが今日からのアタシたちの名前です!

 実は昨日からメンバー全員で相談して決めていたんです〜!」


 ……は?


「え、名前……? この数字が??」


「はい! アタシたちは39人もいるため、セージ様も覚えるのが大変だと思います。

 なので、これからアタシたちのことは、この番号で呼んでください!」


「えーと、ちょっと待って。ごめん、ついていけてない。

 仮に百歩ゆずって地肌に識別名称を書くとして、普通の名前じゃ駄目なのか?」


「それは駄目です! だって……名前を書いちゃうと『可愛い名前』かどうかで、セージ様からの評価に格差が出ちゃうかもしれないじゃないですか……。

 みんながみんな横並びでセージ様に尽くそうという思いで、あえて平等な『数字』で表現したんです!」


 なんのこっちゃ。


 ……まぁ、いいか。

 いや、よく分からんままだが、とりあえずこれは彼女たちが39人という大人数でコンセンサスを取ったルールだ。


 それに対して、たった1人の俺があれこれ言うのもおかしい。

 しかも俺は異世界人だからな。この世界の常識を知らん。


 案外、数字で呼ばれるのが好きな変人が多いのかもしれない。


「なるほど……。分かった。

 ところで、君が『26』だとして、なんて呼べば良いんだ?

 『26番』、『ナンバー26』、『トゥエンティーシックス』とか、

 なんかいろいろ呼び方はありそうだけど」


「お好きな呼び方で大丈夫ですが、しいて言えば『26番』でお願いします!」


「はぁ、じゃあ……26番!」


「はい!」


 26番はピシッと敬礼をするようなポーズをした。


「おお……! あ、ありがとう。敬礼を解いていいぞ」


「はっ!」


 敬礼を解いた26番は先ほどまでのにこやかな表情に戻る。


「――ええと、他の7人は……」


 他の7人の姿をじっと見る。

 数字は、首筋や腕にあったり、胸元にあったりとバラバラだが、全員が俺から見える位置に書かれていたので容易に判別は可能だった。


「2番! 5番! 11番! 16番! 23番! 37番! 38番!」


「「「はっ!!」」」


 全員がビシッと敬礼する。


「おお……! ありがとう。見事な敬礼だな……」


「「「もったいないお言葉! 幸甚の至り!!」」」


 ハモって感謝する7人。

 練習したのかな。


「敬礼は解いていいぞ。

 しかし……この地肌の数字って、どんなインクで書かれたやつなんだ?

 本当に真っ黒なインクで、光の反射もしないみたいだけど」


「あ、セージ様。それ、タトゥーなんですよ」


「――えっ」


 ………………『タトゥー』……?


 ――って、おいおい!

 アホか! お前ら!!


「ええ!? お前ら、入れ墨したの!? こんな思い付きの数字で!?」


 俺がそういうと、26番は頭をかきながら笑みを浮かべる。


「えへへ。……いや、実はこれ、本物のタトゥーじゃなくて魔力で色素を塗り込んだだけの『マジックタトゥー』なんです。

 あとから微量の魔力を纏った指先で擦るとすぐに落ちちゃいます……。

 本当は、リスティーゼ城下町の彫師に墨を入れてもらう予定だったのですが、あいにく今、不在みたいで……。

 次に彫師が帰って来たタイミングで、全員、本物の墨を入れますのでご安心ください……!」


「――安心できるかッ!!

 いいか、絶対に墨は彫るなよ!!」


 とりあえずは、良かった……。

 彫師が町を留守にしてて。


「え、なんでですか? セージ様。アタシたちの忠誠の証なのですが……!」


 なんだ……文化の違いか?

 しかし、一生もののタトゥーを、こんな局所的で、わけの分からんところで彫らせてたまるか。


「……あ、いや。俺のもと居た世界では入れ墨は禁忌でな、あはは……。

 実はそれを見るとちょっと不安になってしまうんだ。

 ――あ、でもタトゥーで忠誠を示してくれるのは凄く嬉しいよ。

 ただ、それがすぐ消せる『マジックタトゥー』なら、もっと嬉しいなってだけ。

 なぜなら、『すぐ消せるにも関わらず、いまもそのタトゥーを消していない』っていう時にこそ、

 『ああ、俺はいまもなお忠誠を尽くされているんだなぁ』ってことを感じ取ることができるからだ」


 とりあえずそれっぽいことを出まかせで言ってみた。


「「「おおッ!」」」


 女の子たちが感嘆とした声を上げる。

 どうやら、うまい具合に琴線に触れてくれたようだ。


 すると、2番の女の子が口を開いた。


「もったいないお言葉! なるほど……。確かに一生ものの墨なら揺れ動く心の機微を表現することはできません……。

 しかし! すぐに消せるマジックタトゥーなら、それを消さずに残し続けていることで忠誠を表現できる……!

 セージ様の多大なる知見、真理、痛み入ります……!

 やはり、セージ様は我らの大主にして、世界を統べるべき王であらせられます……!」


 勝手に神格化しないでくれ。


「お、おう……。だいぶ話が脱線したが、とりあえずモンスター退治の話を再開するぞ」


 俺がそう言うと、全員がまじめな顔をして敬礼をした。


「「「はっ!!」」」


 両極端だな、コイツら……。



「で、ラキ……。ずっと俺の胸に顔をうずめているけど、そろそろ喋ってくれないか……?」


 俺がそういうとラキのエルフ耳はピーンと立ち上がった。


「あ。う、うん……。ボーっとしててすまない」


 ラキは顔を紅潮させたまま、恥ずかしそうに顔を上げた。


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