第46話 小屋で発見、生エルフ!
――『ゴソゴソ……』
ん?
何やら音のするほうを見やると、ラキはネコ耳のフードのようなものを被っていた。
とてもモコモコしていて、ネコ耳がぴょこんと生えている。
なにそれ、可愛い。
「なに被ってんの? ラキ」
「え? ネコ耳フードだが……」
ラキはネコ耳のフードが、さも身に着けて当然であるかのように振る舞った。
「いや、それは見たら分かるけど。なんで急に出てきたのかなって思ってさ」
「あ、うん。これはちょっと……あはは」
ラキは空笑いをする。
まぁ、別になんでもいいか。
「――あ。言っておくが、俺はあの女の子たちを誘うのは反対だぞ。
成り行きで仲間に加わっただけで、あんまり巻き込むのは――」
「あ、見つけた! セージ様はこの小屋の中にいます〜ッ!」
!?
窓をちらりと見ると女の子の1人が俺のいる小屋を指さしていた。
「なんで、分かったんだ……?」
俺は小声で喋りながら身をひそめる。
「この朝陽だ。あちらからでは窓は照り返しで見えないはず……。そもそも俺は窓のそばにもいないのに……」
そして、俺は指をさした女の子を観察すると、妙なことに気がついた。
『ビュン、ビュン、ビュン……』
「なんだあれ……?」
その女の子はとても変わった帽子を付けていた。
カラフルなニット帽のてっぺんに、バネのついた天使のような人形がグルングルン揺れていた。
「本当? アーリィ」
「はい、間違いないです! アタシの持ってる『発見』の超魔装具がビンビンに反応しています!」
くそっ。
あの妙な道具のせいか。
まぁ、バレたと分かって小屋から出てこないのも変かな。別に敵ってわけじゃないし。
出るか……。
『ガチャリ』とドアを開ける。
「「「あ、セージ様〜!」」」
8人の女の子たちは、まるで数年ぶりにあったかのようなオーバーリアクションで俺を出迎えた。
「ああ、俺だ。で、なにか用か?」
「セージ様、探しましたよ〜! 急にふらっとお部屋を出られたものですから、メイドと総出で大捜索をしていたところです!」
「……あ、ゴメン。みんなには凄く気を遣わせてしまったな……」
これは素直に反省。
要人が突然ふらっと消えたら、そりゃみんな心配するよな。
――というか、コイツら朝まで俺の全裸をガン見していたにも関わらず、みんなケロっとしているな。
ひょっとして恥ずかしいという感情を持っているのは、この世界で俺だけなのかな。
「セージ様、お部屋へ戻りましょ! もう掃除も終わっておりますので!」
この短時間であの惨状をもう完璧に掃除できたのか?
たしかに、人数もいたし魔法もあるし、可能ではあるのか。
「セージ様、お部屋で一緒にお食事しましょ~!」
別の女の子がバンザイをしながらキンキンな声で喋る。
なるほど……『寝食をともにする』って言ってたからな。
飯も一緒か……。
「あの部屋でか? あの広い部屋でも、さすがに40人分の食事スペースはないぞ」
「あ! その心配には及びませんよ! 今朝方までに抱かれた31人は、セージ様のご愛情を賜った幸甚を心に宿し、恍惚とした面持ちで別の部屋で養生しております!
セージ様は、とても激しくされていたので、その……1週間くらいは足腰が立たないものかと……!」
くそっ!
ロリ天使め、あの発言は比喩でも何でもなかったか……!
「しばらくは私たち8人とご一緒しましょ~!」
「まだ我ら8人は体調がすぐれませんが、2~3日の内に夜伽を勤められる者も出てきましょう。それまで別の方法でサポートいたします」
「昨夜のマッサージは見ているだけで参加できなかったのですが、この中にもカチュアと同じくマッサージの心得のある者もいます。ご安心ください!」
昨日の今日でそんな体力はない。
30代が10代と同じようなエネルギーを保ってると思うなよ。
しかし、8人の女の子たちの表情を見ると、みんな発情した猫のような表情をしている。
この世界の女はどうなっているんだ?
一緒にいると、たとえ昼でも襲われそうだ……。
――あ。そういえば……!
「なぁ、お前ら。そんなことより、俺と一緒に『モンスター退治』をしに行かないか? ちょうど昨日言っていた町民との約束を果たそうと思っていてな」
あんな危険を孕んで一緒にいるより、モンスター退治に行ったほうがマシだ。
……しかし、俺がそう言うと、女の子たち全員がキョトンとした表情をした。
「……セージ様……! いま、モンスター『退治』っておっしゃいましたか? 『叩き出し』ではなく……」
「えっ……?」
たしかに、さっきラキは『モンスターの叩き出し』って言葉を使っていたような……。
あ、なるほど。そもそもモンスターは人間には倒せないって法則があるんだったな。
しかし、言ってしまったものは仕方がない。
達成しようと努力するのは、個人の自由だ。
「ああ、言ったよ。俺がそのモンスターを退治してやる。町の平和を守るためにな」
俺がそう言うと、女の子たちが一斉に沸き始めた。
「「「凄~い!!」」」
耳がキンキンになる。
俺を取り囲んで叫ばないでくれ。
「たしかに、セージ様ならそれは可能かも……!」
「モンスターを『退治』するなんて、考えもしませんでした!」
「本当に、大丈夫なんですか……? モンスターですよ?」
「でも、伝説の龍に変身できるセージ様なら、きっとやれます!」
彼女たちの反応で、モンスター退治とやらが如何に常識外れなことかよく分かる。
たぶん、俺があの場でロリ天使のメチャクチャな力を見せていなかったら、また違った反応になっていたのだろう。
しかし、ロリ天使のあの異常な力を見ても『可能かも』って言われるレベルか……。
モンスターっていうのは、いったいどういう存在なんだ……?
「――セージ……。あまり大きな言葉は口にしないほうが良いぞ……!」
ラキだ。
開いた小屋のドアから身体を半身だけ出している。
俺に忠告するために出て来たようだ。
「おいおい、ラキ。俺は強いぞ? モンスターくらい(ロリ天使が)何とかするさ!」
――って、しまった……。
ロリ天使という保険があるせいで、ちょっと調子に乗ってイキってしまった。
煽られたと思って、つい……。
『ビュン、ビュン、ビュン……』
すると、急に妙な音が響き割った。
「あれ……? アタシの超魔装具がビンビンに反応していますが……?」
さっきの妙なニット帽を付けている女の子だ。
また、バネの付いた天使のような人形が帽子の上で揺れている。
「――あ! 分かった! この子、エルフですね!」
「「「――エ、エルフ!?」」」
ニット帽の女の子が『エルフ』という言葉を口にした瞬間、全員の目が一斉にラキのほうへ向いた。
「――ッ!! な、なに!! 『猫耳フード』で耳を隠していたのに、なぜ分かったッ!?」
ラキが驚きの声を上げると、すぐに黄色い歓声が沸き上がった。
「本当にエルフ!?」
「わたし、本物のエルフ初めて見た!」
「写真より良い! 実物は凄く可愛いね!」
「生きている内に生のエルフを見られるなんて! ご先祖様に自慢しなきゃ……!」
彼女たちがそう叫ぶと、一気に全員でラキを取り囲んだ。
「ちょ、おい……! お前たち、なにすん……!」
ラキはあっというまにワチャワチャと女の子たちのおもちゃにされていく。
「いったい、なんだこれ……?」
俺がそう言うと、ニット帽の女の子が身を乗り出して口を開いた。
「凄いですね! セージ様! アタシ、生エルフ初めて見ましたよ!
エルフは全ての生物の中でもぶっちぎりの生来のアイドル種で、全生物を虜にする魅力を兼ね備えているんですよ~!
でも、エルフはプライドが高くて、絶対に人前には出てこないんです!
だから我々のような下々の者には写真でしか見ることはできないんです……。
そんなエルフと友達になれるなんて……セージ様は本当に凄いです!!」
テンションが上がっているのか、凄い早口で俺に説明をしてくれた。
この世界のアイドル的存在なのか……エルフって。




