第45話 蹴散らせ、モンスター!
「セージが元居た世界って、モンスターがいないのか? 本当?
それって、世界中の人口がとんでもないことになりそうだが……」
「ああ、本当だよ。ちなみに人口は世界中合わせて70億人は超えてるかな」
「えッ!? 70億人……! それこそ、本当か!?」
「それも本当だ。最近はペースが上がってて、もうすぐ80億人までいくみたい」
「は、はち……!」
ラキが面を食らったような表情をする。
「ラキがそんなに驚くってことは、この世界の人口は少ないの?」
「う、うん。少なくとも80億なんて異常な数字じゃない。そうだな……。
だいたい5億人ってところかな。多く見積もっても」
5億人か……。
現実世界で言うところの13~15世紀辺りかな。
まさに中世の時代って感じだ。
しかし、やはり5億人は少なすぎる。
この世界で数日過ごした感じだと、いわゆる『産業革命』のような節目は既に通過しているように見えたからだ。
それでも人口爆発が起こらないのは、つまり……。
「人口が伸びないのはモンスターがいるからなのか?」
「……うん。この世界のほとんどがモンスターの縄張りだ。だから人間が活動できる範囲は限られている。狭い場所でこれ以上人間は増やせない」
「なるほど……なんとなく分かったような気がするが、実際に見てみないとイメージが湧かないな」
「あ、セージ。やっぱり、この世界に来てから夜に外へ出たことはないんだ……」
「え? ああ、ないけど」
「分かった。それじゃあセージにはモンスターのことを教えよう。
説明だけで数十分かかるかもしれないけど大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ぜひ説明してくれ」
時間を潰せるのは大歓迎。
それに、この世界で一生を過ごすなら、せめて常識は知っておかなくてはならないしな。
その土地の常識を知ることは、平和な生活を目指すうえでの重要な要素だ。
*
「――説明は以上だ。なにか質問はある?」
「うーん、そうだな……」
ラキは30分程度、俺のためにモンスターの説明をしてくれた。
情報を整理すると、要点は以下の通りだ。
・モンスターは人類共通の敵。
・雑食性で人間をも捕食する。食物連鎖の頂点にいる存在。
・夜行性のため、大半が夜に活動。
・ごく稀に昼に活動するモンスターもいるが、比較的弱い。
・昼のモンスターなら走って逃げることもできるが、夜のモンスターは馬でも逃げられない。
・人間には倒せない。
「――人間には倒せない、というのがあったが、昼のモンスターって弱いんだろ? それでも倒せないのか?」
「うん。たとえ昼に出てくる弱いモンスターでも、人間には絶対に倒せない。追い払うのが精いっぱいなんだ」
「『人間には』ってことは、モンスターを倒せる存在が他にいるのか?」
「一応、いる。ただし、その存在もモンスターだ。モンスター同士の戦闘なら初めてダメージを食らうみたいなんだ。たまに喧嘩をしている」
ふーん……。
なんとなくイメージは掴めてきた気がするが、実際に見てみないと何とも言えんな。
「なるほど。ところで、モンスターは町や城の中までは入ってこれないのか?」
「いまのところは大丈夫。町には防衛魔術が施された高い壁に囲まれているし、城にはさらに強力な魔術障壁がある。
でも、最近はモンスターの数が増えてきているから、いつまで持つかは分からない」
「――あ。ということは」
いままでの情報を整理すると、1つの答えが浮かんできた。
「だからこそ、王国は『勇者』を求めているのか?」
「――そうだ。御触書の内容にもそう書かれている。モンスターの数が増えてきているからこそ、みんな漠然とした不安を抱えているんだ」
「そうか。ラキも御触書を見て来たんだもんな」
「うん。……ところで私は今日からモンスターの叩き出しを再開するんだが、一緒に来るか?
たぶん、実際に見たほうが説明するより早い」
「あ、うん。それもそうだな……」
なんか、話的に俺がモンスター退治をやらなくちゃいけない流れになっているな。
しかし、ラキの言う通り、一度は見ておかないと具体的なイメージが湧かない。
これからの俺の振る舞いについても考える必要が出てきた。
「うん、一緒に行ってみるか――」
「「セージ様~! いらっしゃいませんか~?」」
――お?
俺を『セージ様』と呼ぶ、この声は……。
恐る恐る、窓から外の様子を見やる。
すると、予想通りにあのハーレムメンバーだった。
ぞろぞろと歩いてくるその人数は――全員で8人……?
なるほど、昨日のアレに参加しなかったほうの女の子たちだな。
しかし、俺はまだ部屋に戻るわけにはいかない。
「くそっ、ここまで来てるとはな。この小屋の中でやり過ごすか……」
「――あ。ちょっと待ってくれ、セージ」
ラキが女の子たちを見ながら、横手で俺の肩を叩く。
「ん? なんだ、ラキ」
「セージ。私はあの女たちを見るのは初めてだが、どうやらかなり腕が立ちそうだ。
どうせ叩き出しに行くなら、彼女たちも参加させたらどうだ? 今後のために、力は見極めておいたほうがいい」
「ええ? でも、モンスターって危険なんだろ? あまり巻き込むのはな……」
「いや、あの子たちは全員強い。しかも、少なくとも1人は私より強いみたいだ。
きっと、持ってる情報も多いはず。なんせ、元・ニセ勇者の一団だから。
勇者になろうとしていたってことは、メンバー内でモンスターの情報を共有していたはずだ」
ラキより強いって、相当だな。
「うーん、そういうものなのか……?」
俺は窓から彼女たちをまじまじと見た。
うーん。
全員、か弱い女の子って感じにしか見えないが……。




