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第4話 ロリ天使、小降臨!

「日差しが心地いいな~!」


 朝、俺が目覚めたこの部屋は大変に日当たりが良い。広くて内装も綺麗だ。ベッドもふわふわで気持ちがいい。


 ――ただ、昨日のロリ天使の悪ふざけにより、俺はこの城で完全に畏怖の対象となってしまった。

 あれから、普通に戻った俺があくせく取り繕っても、みんなの怯え切った態度は変わらなかった。


「うーん、ロリ天使め。ちょっとやり過ぎだったんじゃあないか?」


 しかし、結果オーライの趣もある。

 異世界に来て、まず最初にしなければならなかったのは、身元の保証だったからだ。


 正直、あの爺さんに「勇者の証拠は?」と難癖をつけられた時点で、俺は既にほとんど詰みかけていた。

 ロリ天使の力がなければ、ここまで早く話は進まなかっただろう。


 ああ、でも、恐怖のイメージが先行し過ぎて、逆にここからの話が進まなくなってしまったな。

 結局『なぜ勇者を呼ぶ儀式をしていたか』といった事情を、俺は全く聞ける状況になかった。


 おそらく、本来は勇者の俺に、無理なお願いごとをしようとしていたのだろう。

 だから俺の激昂を買うのが怖くて、誰も何も言えなかったんだ。


「くっそー! ロリ天使! ここに来て事情を説明してくれ!」


「呼びました~?」


 ――え?


 俺のパジャマの胸ポケットから、ロリ天使がもぞもぞとせり上がってきた。

 えらく、身体がちっちゃいな。体長12〜13cmくらいか?


「ロリ天使、小降臨! 結局、心配になったので付いてきちゃいました!」


 ミニサイズのロリ天使は、溢れんばかりの笑顔で、バンザイしながら俺に話しかけてきた。

 ――ロリ天使は空中を自在に飛べるようだ。申し訳程度の背中の羽をピコピコさせ、その場で宙返りもしている。


「おいおい、お前ずっといたのかよ!」


「いましたよ! まぁ、この身体はただの分身ですけどね! わ~! 15歳の時の誠司さん、凄く筋骨隆々ですね! 腹筋がシックスパックになっていますよ!」


 ロリ天使は勝手に俺のパジャマをめくって腹筋の感想を言った。


「あ、ああ。中学生の時は筋トレばっかしていたからな。いや、それよりも――」


 俺は拳を振り上げ、ロリ天使をにらみつけた。


「なんだよ、昨日のアレは! 完全に城の連中が俺に対して、腫れ物に触るような扱いになったじゃねえか!」


「え~! でも、あれが間違いなく最善の選択でしたよ? あの中で最強の人間であるお爺さんを屈服させないと、絶対に話が進みませんでしたもん!」


 うーん、確かに。

 俺の分析した結果と同じ意見でもある。正しいとは思う。


「でも、無駄に怖がらせすぎじゃないか? 態度も尊大だし」


「あー、あれはですね、『ちょっとヤベーやつ』くらいの印象を与えたほうが、自分のペースに巻き込みやすいんですよ。常識が通用しない相手で、しかもめちゃくちゃ強ければ、とりあえず言うことを聞いておくか、ってなりますもん!」


 あれは『ちょっと』で済むのか?

 明らかに死の恐怖が蔓延していたが。


 ――『コン、コン、コン、コン』。


 突然、ノック音が4回、部屋中に響いた。

 なるほど、朝食の時間か。


「入れ」


 俺がそう言うと、ドアの奥から「は、はい!」という返答が聞こえてきた。

 ロリ天使はパジャマの胸ポケットの奥にまた潜り始めた。


 『ガチャッ』とドアが開くと、城付きのメイドの姿が現れた。

 城にいる女性はみんな容姿端麗であったが、このメイドの女の子は特に可愛い顔をしている。


 そして、その手には、朝食が載っているカートのハンドルを握っている。

 予想通り朝食を持ってきたようだ。


 『ガチャッ』、『バサッ』。

 ドアを閉めるやいなや、メイドは急に土下座をした。

 三つ指だけを地面につける『なんちゃって土下座』ではなくて、手のひらを全部地面につける最敬礼の土下座だ。頭も地面につけている。


「不肖ながら勇者様の御寝室に伺う無礼をお許しください! メイドのリンクと申します! この度は、ご朝食をお持ちいたしました! 本日はお日柄も良く、勇者様におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます!」


「いやいや、普通に飯持ってきたらいいから……。土下座とかしなくていいから……。リンクだっけ、君にそんなに気を使わせたら、せっかくの飯が美味くなくなるよ」


「はっ、ご不快な思いをさせてしまい大変申し訳ございません! この度の至らぬ点、誠心誠意猛省を尽くします!」


「猛省しなくていいから……」


 そして、メイドは心臓を鷲掴みにされたような決死の表情で、俺の寝室にあるテーブルの上に朝食を配膳していった。

 そんな、汗もだらだらで、息も絶え絶えなメイドに食事を配膳されても、なんかあまり嬉しくないな。

 まるで自分が、恐怖の大王になってしまった気分だ。


「ところで、俺って何もしなくてもいいのか? わざわざ召喚したんだ。何か理由があるんだろ?」


「い、いえ! 滅相もございません! 勇者様が、ただ、ここにいらしてくださるだけで、城内の人間は至上の喜びに満ちております! 何もなさらなくて大丈夫です!」


 やっぱり、誰も召喚した理由を教えてくれないな。

 恐怖で人の口が必ずしも開くわけじゃない、という好例だ。

 理由そのものが、俺の怒りを買いかねないものだと思われているのだろう。


「でも、こう暇だとなぁ」


「勇者様さえお望みであれば! わたくしも含め、メイドの拙女どもにて夜伽を勤めさせて頂きます! 昼でも夜でもどこでも、なんなりとお申し付けください!」


「さらっととんでもないことを言わなくていいから……」


 メイドのやたら艶っぽい提案に対して、俺は薄いリアクションで返した。

 仮に俺が20代の頃の性欲なら飛び付いていたかもしれんが、35歳にもなると別のことを優先したくなる。


 そう、身元の保証の次に達成すべき、安寧とした生活をだ。

 その為にはまず、彼ら彼女らが抱く畏怖の念を早く取り除かなければ。

 いまは何を言っても無駄っぽいから、少しずつ。



 *



 ――朝食を食べ終わった。

 というわけで、めっちゃ暇だわ……。


「何もすることがない、そんな状態が、こんなにツラいものだとは」


「誠司さーん! さっきのメイドも、ついでに食べちゃえば良かったのに〜! わたし、そんなライブ感を楽しむために、わざわざ来てるんですよ!」


「お前の趣向なんて知ったことか。ロリのクセにませ過ぎだぞ」


「ノー! こう見えてもわたし、結構大人なんですよ〜! わたしはクフ王やギルガメシュより年上ですし、ピラミッドの建設だって天界の生中継で見てたんですから〜!」


「随分スケールがでかいな……。さすが不思議存在」


 俺がテキトーに言った感想に、ロリ天使は褒められたと思ったのか、フフンと誇るようなポーズを取った。

 うん、ロリっ娘だわ、これ。

 一人前のレディーになるには、あと何千年かかるんだ?


「ところで、誠司さん! 『勇者の威光(ヒーローマジェスタ)』以外の、他のスキルはもう見られましたか!?」


「他のスキル? いや、まだなんも見てない」


「じゃあ見てください~! 『メニュー』って言葉を念じたら、メニューが出てくるんで、真ん中の『スキル』を心の中でクリックしてください~!」


 ええと、『メニュー』!


 すると、目の前に半透明な色の付いたウインドウが現れた。

 そして、『スキル』をクリック、と。


「えーと、スキルは2つだな。昨日の『ヒー……」


「あ、ストップ! スキルの中でも『魔法』は、習得者がその名前を口で言った瞬間に発動しちゃいます! なので、基本は黙読で、必要な時に音読をお願いします!」


「そういえば、昨日も喋った瞬間に発動していたな。それで、スキルだけど、昨日のやつと、アルテマなんとかっていうやつの2つだ」


「いえーい! ちゃんとスキルが適用されてますね! それじゃあ、私の身体を見ながら『なんでも鑑定魔法(アルテマビジョン)』って喋ってもらえますか?」


「え? ああ、分かった。『なんでも鑑定魔法(アルテマビジョン)』」


 ――俺がそう言った瞬間に、また例の半透明な色の付いたウインドウが表れた。



――――――――――――

ロリ天使

称号:【第一級天使】


HP  100%

MP  100%

体力  【神】

魔力  【神】

攻撃力 【非常に強い】

防御力 【ヤベーやつ】

敏捷力 【非常に強い】


※『~力』というステータスは9段階評価となります。評価の高い順から『神』『ヤベーやつ』『非常に強い』『強い』『普通』『弱い』『非常に弱い』『ナメクジ』『犬の餌』と表記されます。

――――――――――――



「――なんだこれ」


「あ、見えました? いま見えているのが、わたしのステータスですよ~!」


「なんか、神とか、ヤベーやつとか、わけの分からん文字が躍っているけど」


「それは、各種『力』の9段階評価です! ステータス画面の下のほうに※印で注釈もつけてますよ〜! 単純に数字だと味気ないので、言葉で装飾してみました! 分かりやすいでしょ!?」


 いや、すっげえ分かりづらい。

 でもまぁロリ相手に喧嘩を売っても仕方ないな。


「うん、すっげえ分かりやすい。びっくりした」


「いえーい! それじゃあ今度は、誠司さん自身の身体を見ながら唱えましょう!」


 俺は自分の身体の、引き締まったシックスパックを見ながら「『なんでも鑑定魔法(アルテマビジョン)』」と唱えた。



――――――――――――

上原誠司

称号:【召喚された伝説の勇者】


HP  100%

MP  100%

体力  【ヤベーやつ】

魔力  【神】

攻撃力 【弱い】

防御力 【ヤベーやつ】

敏捷力 【弱い】


※『~力』というステータスは9段階評価となります。評価の高い順から『神』『ヤベーやつ』『非常に強い』『強い』『普通』『弱い』『非常に弱い』『ナメクジ』『犬の餌』と表記されます。

――――――――――――



「――おお、見えた見えた。たぶんこれ、ロリ天使より弱いのかな」


「えへへ、そのようですね! 年の功ってやつです~! ちなみに、わたしが誠司さんに乗り移った時は、わたしのステータスで上書きされますよ~!」


「ふーん」


 正直、いまいち、話についていけていない。言葉の意味とか。

 HPとか、生前、よく雑談で出てきた単語のような気がするが、実際の意味はよく知らない。

 たしか、体力って意味で使っていたような……。いや、既に体力ってパラメータがあるしなぁ。謎だ。


 たぶん、これはゲームの知識が求められている場面なんだろうが、俺がやったことのあるゲームは『マリオ』と『テトリス』と『桃鉄』くらいだ。

 それ以外はよく知らない。


「OK、ロリ天使。ありがとう。とりあえず、じっとしているのも暇すぎるから、部屋から出てみるわ。ロリ天使はここにいるか?」


「いえ、わたしも誠司さんに着いてきます~!」


 ロリ天使はそう言って、俺のパジャマの胸ポケットにダイブした。


「分かった。一緒に冒険しようか」


 ――俺は部屋のドアを開け、冒険への第一歩を踏み出した。


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