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第34話 押して、押されて!

「いひひ……。ところでさ」


 ニセ勇者は繋がった手に指をさす。


「――勇者くん、この手はなんだい? 手錠のつもり? 早く離してくれないかな」


 ロリ天使の左手は、いまもなおニセ勇者の右手のこぶしをガッチリと掴んでいる。

 ニセ勇者からの右ストレートを受け止めてからずっとだ。


「……ふふ、断る」


 特に理由を言わず、ロリ天使は口角を上げながら拒否をした。


「いいから、離せッ!!」


 突然、ニセ勇者は怒ったような口調になる。

 感情の起伏が激しくなっているようだ。


「だから断ると言っているだろう。どうしてもと言うなら力づくで解いてみせろ」


「……分かった、後悔するなよ?」


 ニセ勇者はそう言うと、左手でこぶしを作り、そのままノーモーションで俺の顔を殴った――。


 『バギンッ!!』


「――う!」


 あまりのスピーディなパンチに、身体が遅れて反応した。


 ――い、痛いッ!?


 なんだこの威力……!

 ほんの少し前までの攻撃は衝撃だけで、痛さはほとんどなかった。

 なのに、今回は……初めて痛い。


 打たれた俺の首はグルリと回っていた。

 さっきの時とは違って、一瞬で首が曲がり切ったため、捻挫のような痛みも首を刺している。


「――この威力は……」


 ロリ天使がそう呟くと、ニセ勇者は満面の笑みを浮かべた。


「えへへ、気づいた? オレの攻撃、さらにパワーアップしてるだろ? 事前に説明はしたが、実際に攻撃されてみないと実感が湧かないよね。あはは……!」


 ――その瞬間、喋っている途中のニセ勇者の顔面に、ロリ天使の右ストレートが刺さる。


 『ガンッ!!』


「――〜〜〜〜ッッ!!」


 ニセ勇者は声にならない声を上げた。

 ロリ天使のこぶしがニセ勇者の顔面へ、漫画みたいにめり込んだ。


 打たれた身体はだらんと脱力し、ロリ天使の右手にはポタポタ血が伝っている。

 しかし、数秒も経たないうちに――。


 『ガシッ』


 突然、ニセ勇者に右手を掴まれた。


「いてえ、いてえよ……ふひひ……」


 気づけば、ニセ勇者の怪我は治り始めていた。


「ごめんねぇ。オレの血で汚れちゃったね……」


 すると、ニセ勇者は殴られた体勢をそのままに、舌でペロペロと俺の右手を丁寧に舐め回した。


 気持ち悪ッ!!


「――おっと」


 さすがのロリ天使にとっても気持ちが悪かったらしく、ニセ勇者の手を振り払い、早々に右手を離した。


「ふひひ……! どうせ離すなら、左手のほうも離してくれよ」


「駄目だ。貴様は逃がさん」


「あはは、逃げないって。君も、オレから逃げられると思うなよ」


 ニセ勇者は左肩を下げた――。


 『ガンッ!!』


 !!


 ――速い!

 顔が痛いッ!!


 ニセ勇者は、ロリ天使と左右対称のフォームで左ストレートを繰り出したようだ。

 俺の視界は真っ暗になっている。


「――ぐっ!」


 ロリ天使は遅れて反応し、のけぞった。


 ――ニセ勇者の攻撃は、さっきよりもさらに重く、そして速くなっている……!


「オレは、どんどん強くなる……! 君はオレに、絶対勝てないッ!」


 ニセ勇者のそんな挑発台詞に呼応したのか、ロリ天使は堰を切ったように、距離を詰め、相手の腹に目がけて右ブローを放つ。


 『ボゴォッ!!』


 俺の右手はニセ勇者の腹にめり込み、破り、背骨まで達していた。


「あっ……ぅ……」


「……ふふ、そう結論を急ぐな。我と貴様の戦いは、始まってまだ数分と経っていない……!」


 一瞬で苦痛の海に溺れ蒼白したニセ勇者の顔は、数秒経たないうちに健康的な血色の良い表情へ変わった。


「……痛ぇ」


 ニセ勇者は不意に目を合わせる。

 ――すると。


 『バギッ! ドゴッ!』


 !!


 いってええッ!!

 ――俺の視界が揺れる。


 ニセ勇者は左手1本のみで、俺の顔面を両方向で攻撃していた。


 それにしても、なんて重く、速い攻撃なんだ……!

 本当に、さっきよりもどんどん強くなっている……!


「――くっ!」


 俺はロリ天使と感覚を共有しているので、分かってはいたことだが――やはりロリ天使も相当痛そうだ。

 ここで、ロリ天使は右腕を引いて防御の姿勢を取り始めた。


「痛ぇ、痛えッ! ほら! 手を離すまでどんどんいくぜッ!!」


 『バキッ! ガンッ! ボゴッ! バンッ!』


 ――ニセ勇者の猛攻が続く。

 それら全てが俺の顔面狙いなのは、『勇者の鎧』を装備しているときに露出している身体の部分が頭部しかないからだ。


「くっ、うおおおッ!!」


 片腕で防御を続けていたロリ天使は、しびれを切らしたのか攻勢へと転ずる。

 ニセ勇者の不意を突き、一気に距離を詰めた。


 ――まず、ニセ勇者の足を踏んだ。


 『ピシィッ!!』


「いっ――」


 ニセ勇者の足は靴ごとひしゃげ、地面にめり込んだ。

 軸足なので、体重を逃がせない。

 これでロリ天使の攻撃を受け流せない体勢になった。


「はぁッ!!」


 ロリ天使は次に右フックでニセ勇者の左腕を狙った。

 『グチャッ!!』という音とともに、ニセ勇者の腕の関節が2つに増えた。


 ――これで相手の攻撃の手は止まる。


「痛――っ! 幸――」


 そして、その口を塞ぐように、裏拳でニセ勇者の歯を砕く。


 『バギャッ!!』


「――ッッ!!」


 ロリ天使は上下含め、10本から12本ほどの前歯をぶち割った。

 まだまだ攻撃は終わらない――。


 その右手を手刀の形として、ニセ勇者の胸に突き入れる。


 『グジュッ!!』


 ロリ天使の手刀は、そのままニセ勇者の胸部を貫通した。


「心の臓を貫いた!」

「勇者くんの勝ちねッ!」

「うわぁ、グロ……!」


 まるで試合が決まった直後のような観客の歓声とは裏腹に、ロリ天使の攻撃はまだ終わる様子がない。

 突き入れた手を胴体に少し戻し入れると、そのままニセ勇者の『心臓』を掴み、抜き取って、捨てた。


 『ベチョ……』


「きゃあああ!」

「グロ過ぎだろ……!」

「おれは割とこの展開好き」

「すげえもん、見ちまった……!」


 様々な反応を見せる観客をよそに、ロリ天使は、その場で静かに崩れ落ちるニセ勇者をただ眺めているだけだった。


 ……やはり、まだ警戒している。

 ロリ天使の考え自体は分からないが、身体の感覚は俺と共有している。

 だから、分かる。


 まさか、これで生き返ったりはしないだろうな……。


「はぁ……はぁ……」


 息を切らしているロリ天使。

 その左手には、いまもなお、ずっとニセ勇者の右手を掴んでいる。


 ――『ピクッ』


 その、突然鳴った左手の脈拍に鳥肌が立った。

 まだ、生きていた――。


「……あはは、痛い、痛いよ……! とっても痛い……! 人生史上、最高の痛みだ……! 『痛み』ジャンルのランキング1位が、この数分間だけで何度も更新されるなんて。……オレは()()()()なぁ……」


「――なっ! まだ――」


 ロリ天使は驚く。

 そして。


 『シュン……』


 ――ニセ勇者の姿が消えた!


 しかし、左手は、まだニセ勇者の右手と繋がっている……?

 だが、その先は左へ、左へと延びている。


 ロリ天使はその先を目で追った。

 しかし、追っても、追っても、いつもそこから左側。


 身体をくるくる回しても左側。

 いつまでたっても左側。


「これは――!?」


 そんなロリ天使の混乱の声のすぐ後に、落ち着いてゆっくり喋る声が聞こえる。

 それも大ボリュームで。


「――ずっと後ろにいるよ」


 ――ニセ勇者だ。

 耳元で喋っている。


「貴様……!」


「オレは、君よりも強くなった。それも、一気に数倍はね……。オレのスピードについてこれないでしょ? 君の一挙手一投足がオレには全てよく分かる。君とピッタリ足音をくっつけて歩けるようにね。

 振り向いてごらん? もう、動かないでいてあげるから……」


 言われるがまま、ロリ天使は振り向く。

 すると――。


 ニセ勇者が満面の笑みで、大口を開けていた。

 ――折れたはずの歯は全て生えそろっている。


 それを見て、ギョッとする。

 次の瞬間、


 『ガブッッ!!』


 ――突然、首筋を噛み付かれた。


 『グリグリ……グリグリ……』


 いってえええええええええッ!!


 ニセ勇者は俺の首筋に噛み付いた状態のまま、歯ぎしりをするように首の肉を刻んでいく。


「こ、これは……! うぅぉおおおお!!」


 ついに、ロリ天使が苦痛の叫びをあげる。

 もちろん、俺も痛い。

 凄く、痛い。


「ぐっ、……うぉおおお!!」


 『バチンッ!!』


 ロリ天使はニセ勇者から離れることに成功した。

 そして、一気に5mほど身体を離した。

 しかし、首筋の肉を食いちぎられ、俺は首からだらだらと出血している。


 ――異世界に来て、初めて怪我をした……。


 ニセ勇者は俺を見ながら、ペロリと口の周りを舐める。


「あはは……やっと左手を離してくれたね。もう、意外としつこいんだから……」


 先ほどと同じく、身体の傷も全て癒え、服も元通りになったニセ勇者が笑う。

 ロリ天使は首を押さえ、汗を流しながら、少し口角を上げる。


「ふ、ふふ……。貴様……。よもや、そこまで……!」


 事前に予想をしていなかったことが、いま起きている。

 ロリ天使は、押されている――。


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