第31話 防げ、崩壊!
「気味が悪い……。怪我をしていないのも、どうせまた超魔装具の力なんでしょ?」
「道具に頼らないと、何もできないのね」
それらの発言を聞いたニセ勇者は、舌で上唇を舐めながら歯を見せて笑った。
「ニヒッ。その2つの発言……両方とも全くその通りさ。いひひ……。なぁんだ、君たちもオレのことを、ちゃんと理解してくれてるじゃあないか。まだ、オレのこと好きなんだよね? 気になっちゃうんだ? 分かるよぉ」
「「んなわけないでしょッ!!」」
「ここにいる全員が表す憎悪の感情くらい、理解できないの!?」
「好きも、嫌いも、同じ感情さ……! 表現方法と自己認識が違うだけでね、根源の感情は全く一緒なんだ……。ところで、オレがいま使ってる超魔装具も、だいたいそんな感じの能力だよ。えへへ……」
ニセ勇者は両手の指で、自身の着ている服をこれ見よがしにつまみ上げた。
「オレが着ているこの服、これは『反撃』の超魔装具っていうんだ。愛を受け、愛で応える、慈愛に満ちた道具だよ。受けるダメージはすべて『愛』に変換されるんだ……」
なんだそれ、気持ち悪。
「へへ……! 親衛隊のみんな、数ヶ月もの間、どうもありがとう! 反撃の超魔装具よ、力を開放しろ! 『仕返し』!」
ニセ勇者は両手を広げた。
すると、着ている服は緑色に輝き、くっきりとした斑点模様が浮かび上がった。
そして、その斑点から突然、レーザーのようなものが射出され、女の子たちの身体を貫いた――。
『ババゥンッ!』
「「「あっ……!」」」
取り囲んでいた十数人の女の子は全員その場で倒れた。
よく見ると、腹や背中から血が滲んでいる……。
ニセ勇者め……なんてことをするんだ。
女の子たちは無事か!?
「いひひ……、13人全員の腹を貫いてやった……! 安心しろ、すぐには死なないさ。むしろ、生き残る可能性すらある。だいたい半分くらいは助かるんじゃないか? オレって、優しいだろ? フヒヒ……」
「あぁ、……痛い、痛い……!」
「お腹が……熱い……」
女の子は全員生きてはいるようだ。
だが、口からは吐血も始まっている。
早く手当てをしないとマズい。
「はっはっは! 精が出るな。だが、身内の痴話喧嘩は他所でやれ」
ロリ天使はニセ勇者に向かって嘲笑する。
――おいおい、ロリ天使。女の子は助けてくれないのか?
今回の作戦ではイノビーの救出がメインだが、俺はあの女の子たちも助けたい。
決闘さえ終われば、王国の手当ては受けられそうではあるが……。
「くひひ……! 『本物の勇者』くん。オレの即興のショーを楽しんでくれたかい? オレは何もない人間だ。だが、超魔装具が俺の人生を華やかにした。環境を作るのも壊すのも自由自在さ」
「おや、我の話は聞いていなかったのかな? 『飾る』人間は勇者にはなれない。どうやら、貴様には高尚過ぎて理解が及ばなかったらしい……」
「あはは! 『勇者』になるのは、もう、どうだっていいのさ。君がブレスレットの宝石を壊したせいでね……もはや、この決闘も意味をなさなくなった」
ニセ勇者は壊れたメガネを外すと、そのまま地面へ投げ捨てた。
「そうだ、君にはこの『反撃』の超魔装具の効果を説明しておこう。この服はね、魔法も物理攻撃も何もかもダメージを無効化するんだ。痛みはあるけどね……。そして、無効化したダメージは全て服の中にエネルギーとして溜まり、いつでも大砲のように発射ができるんだ。さっきみたいに……」
「クックック……! まさか、そんな飾りで我に敵うとでも思っているのか……?」
「敵うかどうかは分からないけど……さっきも言ったろ? この決闘はもう意味をなさない。だから、オレはもう君とは戦わない。このまま帰らせてもらうよ……ただ――」
ニセ勇者はイノビーの石像のほうへ向いた。
「――土産に、君の悲愴や後悔の表情を見てからでも遅くはない! これから石像になったお前の大事な女を、二度と人間に戻れないように破壊する! あっひゃっひゃ! さぁ、オレへの土産になれ! 『仕返し』ッ!!」
直後、ニセ勇者の服の袖に斑点が浮かび上がり、レーザーのようなものがイノビーに向けて発射された――!
『バゥンッ!!』
――マズいッ!!
石像と化したイノビーは、衝撃で壊れてしまうかもしれない!!
石像になった人間が壊れたらどうなるんだ……?
死んでしまうのか!?
「そうはさせん――『風を切る狩猟豹の邪法』!」
ロリ天使がそう叫んだ瞬間、俺の両脚から『バキッバキッ!』という軋むような音が聞こえてきた。
同時に、下半身の筋肉が引き締まっていくような感覚を覚えた。
そして、姿勢を低くしていたロリ天使が「はぁああッ!!」と叫ぶと、両脚は常軌を逸脱した初速度で弾ける――。
俺の身体は信じられないスピードで、イノビーのところまで駆けていく。
風を切る音がゴオゴオと聞こえる。
――イノビーは目の前だ。
『ピッ!』
異様に甲高いブレーキ音を発し、ロリ天使はイノビーの石像の横で急停止した。
慣性の法則を完全に無視している。
遅れて、風の音が『ゴオオッ!』と響き渡り始めると、ロリ天使はイノビーの石像を横に倒し、両手で優しく抱えた。
そのままロリ天使は上体を低くして顔を見上げ、ニセ勇者を見やる。
――すると。
『ズガァンッ!!』
俺の額に、まるで銃か何かで撃たれたような激しい衝撃が響いた。
首を支点に頭が後方へ倒れ、俺は空を見上げる恰好になっている。
……どうやら俺は生きているらしい。
「クックック……! まさか、この攻撃が貴様のとっておきか? だとすれば、とんだ期待外れだ……!」
ロリ天使はそう言いながら、顔をゆっくり元の位置へと戻し、ニセ勇者を見て、笑う。
「なに……!? ま、まさか……オレの砲撃よりも、速く……! しかも、ダメージを受けていないッ!?」
遠くにいるニセ勇者が、本日何度目かの驚愕の表情をする
「ニセ勇者よ、貴様に土産は渡さん。だが土産代だけは頂こう……!」




