第30話 集団女子の、意趣返し!
「さて、我に対して当て付けるには、その手首の装飾は下品過ぎるな……」
ロリ天使は掴んでいたニセ勇者の髪の毛を離し、ゆっくりと立ち上がった。
そして、ニセ勇者が身に着けているブレスレットのほうへ向き、『キッ!』と目を見開いた。
――『ズガンッ!!』
なんと、ブレスレットの宝石が粉々に砕け散った。
ブレスレット自体も半壊して手首から弾き飛ばされ、転がっていく。
「えっ……? ブレスレットが、壊れたッ!? ……ありえないッ! 超魔装具は鉄よりも硬いんだぞッ!! いまのは魔法なのか!?」
「いまのは魔法ではない。『覇気』だ。我の纏う勇者の気は、当て付けるだけで武器にもなる」
「……う……、ひっ! お前は……ほ、本物の……勇者……?」
「おや? 先ほどからそう言っているはずだが」
絶望したような表情で見上げるニセ勇者を、ロリ天使はしたり顔で見下ろしていた。
――そんなやり取りをしていると、観客は徐々にボリュームを大きくし、どよめき始めた。
ただ、いままでの驚嘆や応援とは違い、今回のは少々性質が異なっている。
どうやら彼ら自身に、何かが起こっているようだ。
「なんか、頭が……! 記憶に少し違和感が……!」
「あれ……? 俺、なんで片方を熱心に応援してたんだっけ?」
「本物の勇者がどうとか、なぜ私はここまで気になっていたのかしら」
「――あっ! 思い出した! おれ、あの長身のほうの男に『催眠』をかけられていたんだ! さっきのピンク色の光がそうだ!」
その男の『催眠』という言葉に端を発し、次々と同調する声が広がる。
「俺もだ!」
「私も!」
「そうだ、完全に思い出したッ! 聖堂エリアであの男のブレスレットの光を見て、勇者があの男だと信じ込まされていたんだ!」
観客のその声を聞いて、ニセ勇者は驚き、怯え始めた。
「――しまった! ブレスレットの宝石が破壊されると、催眠の暗示が解けてしまうのか……!?」
そして、混乱する観客とニセ勇者の他に、また別の集団も同様に混乱していた。
ロリ天使はちらりと横を見ると、どよめいている女の子の集団がいた。
「思い出した! わたし、わたし……! あのニセ勇者に『催眠』をかけられていたんだ……!!」
「ニセ勇者め、許せない!」
「いままで操られていたなんて……記憶がハッキリしている分、寒気がする……!」
39人いる女の子の集団から、十数人ほどがこちらへ向かって走り出した。
体育会系っぽい女の子たちだ。
「はぅあッ!! ま、まずい……!」
ニセ勇者はすぐに立ち上がり、逃げようとする。
しかし、走り始めて5mも進まないうちに、戦士タイプの女の子に服を鷲掴みにされた。
「どこへ行く気だッ!!」
「ひ、ひいぃ!!」
戦士タイプの女の子は恫喝すると、ニセ勇者の片足を大きく払い、地面へと思いっきり叩きつけた。
『バタンッ!!』
「痛ッ! せ、背中が痛いッ!!」
背中を強打して痛がっているニセ勇者を羽交い締めにすると、残りの十数人の女の子が到着した。
「よくも私を操ってくれたわね!」
「アタシの数ヶ月間を返せッ!!」
「学校まで辞めさせるなんて……!」
「死で償えーッ!!」
「いままで好き放題に操りやがってッ!!」
「田舎へ帰して!!」
そう言いながら女の子たちはニセ勇者を足で蹴り始めた。
『ガシッ! バキッ! グシャッ!』
ニセ勇者に暴行を加えまくっている女の子は十数人。いずれも気性の荒そうな子だ。
そして、少し遠くにいる残りの女の子たちの反応といえば様々で、唖然としてる子もいれば、抱き合って泣いている子もいる。
「痛っ! ごめ……、ゆる……!」
ニセ勇者はそんな悲鳴に似た声をあげながら、ただ無抵抗に女の子に蹴られていた。
『バギッ! グチャッ! ドゴッ!』
「痛っ! いった……。いた、痛ぁい! いっひ! あはは、うひひ……!」
あれ……?
「痛ぁい! あはは! 痛あいッ! フヒ、フヒ! 痛い痛いッ! あっひゃっひゃ……!」
なんだ、アイツ。
気持ち悪いな。
「――待って! 様子がおかしい!」
メンバーの内、1人がそう叫ぶと女の子集団は暴行を加えるのを止め始めた。
「いったい、どうしたのよ……? コイツには恨みがまだたくさんあるのに」
「いや、なにかおかしいの……アタシ、殺すつもりで、コイツの頭を何度も踏みつけていたんだけど……!」
恨みヤベーな。
「……なのに、コイツ、一切怪我をしていないの!」
あ、確かに。
そういえば、アイツ全然怪我をしていないな……。
ロリ天使がニセ勇者の頭を地面に打ち付けた時も、身体には擦り傷の一つも付かなかった。
メガネくらいしかダメージを負っていない気がする。
「……えっへっへ、なぁんだ、止めちゃうのかぁ……ふひひ」
ニセ勇者はそんな気持ち悪い喋り方をすると、ゆっくりと立ち上がった。
半壊し、歪んだメガネをそのままに、ニヤァと笑う。
「やっぱり怪我をしていない……」
「なにコイツ。気色悪い……」
女の子たちは少しドン引きしている。
「ふひひ……さすがはオレの親衛隊だ……! さっきまで食らったダメージ量だと、少なくとも、オレ、20回は死んでたね……普通なら。いひひ……!」
ニセ勇者は両手を広げて、ニタニタ笑った。