第3話 俺は勇者、召喚に応じ参上した!
バシュン! という音が鳴り響いた。
気付くと、俺は石床の上にうずくまっていた。
「転生が……完了したのか?」
俺は顔を上げて、周りをよく見てみた。
ここは城の中、結構広い部屋だ。ロウソクも焚かれていて、怪しげな儀式にはもってこいの場所だ。
床には赤紫色の塗料で魔法陣が描かれており、俺はその真ん中にポツンと存在していた。
魔法陣のすぐそばに王族のような連中が数人、そして、さらにその周りには兵士のような連中が何十人もいた。
みんな、唖然とした表情で、声らしい声を発していない。かなり驚いているようだ。
俺はそんな空気を無視して、その場でゆっくりとマイペースに立ち上がってみた。
――おお。身体が軽い! 確かに俺は15歳に戻ったようだ。
さて、周りの奴らが押し黙ったままだから、なんか喋っておこう。
「俺は勇者、召喚に応じ参上した! 俺を呼び寄せたのはお前たちか?」
とりあえず、なんかそれっぽいことを言ってみた。
「お、おい! 召喚の儀式が成功したぞ!」
「勇者の召喚なんて、絶対におとぎ話だと思ったのに!」
「100回やっても駄目だったのに、まさか101回目で成功するとは……」
よしよし、思惑通りに事が運んだな。俺が召喚された勇者だと、彼らに思い込ませることに成功したようだ。
召喚の儀式とか言っておきながら、どうやら俺が初の成功例らしい。
「ゆ、勇者どの! そのお姿はまさに全裸! フルチン状態では『公然わいせつ罪』! いくら勇者どのとはいえ、法律には勝てません! 早くお召し物を!」
おお、全裸になっているのか。
転生したからだろうか。
早く服を着よう。法律違反でしょっぴかれてしまう。
あれ、どうやってポイント交換をした装備品を出すんだっけ?
ロリ天使は謎の空間から自由に出し入れできると言っていたが。
いや、そもそも、その謎の空間ってどうやって出すんだっけ?
「いでよ! 謎の空間!」
こうか!?
…………。
はずれか。いや、言い方が違っただけかもしれない。
「来てください! 謎の空間さん!」
…………。
はずれか。いや、イントネーションが違っただけかもしれない。
「なぞ~の~く↑ぅ↓か~ん↑~!」
…………。
はずれか。いや、リズム感が違っただけかもしれない。
「な、ぞの! くぅ、かん!」
…………。
どないせぇっちゅうねん。
いや、待てよ?
そういえば「念じるだけ」とかなんとか言っていた気がするな。
「(いでよ! 謎の空間!)」
すると、視界の大部分に、ぶわっと半透明な色の付いたメニューウインドウのようなものが出てきた。
「おお、なんだこれ! パソコンみたいだな!」
俺が世紀の大発見をして思わず叫ぶと、周囲からひそひそ話が聞こえてきた。
「(ひそひそ……)おい、大丈夫か、アレ。召喚されたショックで脳にダメージがあるんじゃないか?」
「(ひそひそ……)俺は昔、ばあちゃんから、ひとり言を繰り返す奴は後でヤバい犯罪をする可能性が高いから、村から追い出せって教育されたわ……」
「(ひそひそ……)僕も昔、おじいさまから、フルチンで町を練り歩く異常者は後でもっとヤバい犯罪をする可能性があるから、すぐに牢屋にぶち込めって教育されました……」
兵士っぽい奴らに、なんか勘違いされている!
さっさと服を着て名誉を回復しよう……!
えーと、メニューには『アイテム』『スキル』『ステータス』という項目があるな。
装備品は『アイテム』かな。
俺は頭の中で『アイテム』という項目をクリックするようなイメージをした。
すると、『アイテム』という項目が展開されて、『消費アイテム』『装備』『上記以外』の小項目が表れた。
なるほど、なんとなくノリは分かった。
それじゃあ『装備』をクリック。
――次に『身体』をクリック。
お、やっとアイテムの一覧が出てきた。3つだ。
『勇者の鎧』『勇者のアンダースーツ』『勇者の下着』か。
よし、全部選択して『装備する』をクリックだ。
――クリックした直後、俺の身体の周りにうっすら輝く霧のようなものが現れ、バシュン! と音を立てて『下着』『アンダースーツ』『鎧』に変化した。
しかも、既に着用状態!
てっきり、床にテキトーにばら撒かれると思っていた。
「ぶ、物理魔法!?」
「無から物質を作り出すとは!」
おお、魔法という扱いなのか。
確かに俺から見ても魔法だな。
でも、魔法使いか……。そんなものに憧れる歳でもないんだけどな。
「装備を無から調達した貴殿の物理魔法は、まさに、お見事千万でございますが……。さっきまでの怪しい振る舞いを鑑みるに、我々は貴殿を勇者どのと断定して良いものか考えあぐねております。何か勇者の証拠をお持ちではありませんか?」
魔法使いのような見た目の爺さんがそう尋ねてきた。無駄にガタイが良くて謎の威圧感がある。どうやらあれが本職の魔法使いのようだ。
それにしても、うーん。勇者の証拠だぁ?
なーんも、持っていないわ。
とりあえず、さっき善行ポイントと引き換えたスキルのどれかでも使っておけば大丈夫か。
メニューを開いて『スキル』、と……。
ん? 『勇者の威光』か。
名前からしてなんかピッタリだな。
えーと、この魔法の説明文は――。
『勇者の威光』
<説明>
光属性。究極の便利魔法! その時その時により、術者にとってベストなソリューションを提供します!
説明これだけかよ。
まぁいいや、これを使ってみるか。
「『勇者の威光』!」
――俺がそう唱えた瞬間、身体から眩しい光が溢れていく。
すると、なぜか俺の身体は勝手に動き出し、右手を上げ、天井に向かって手のひらを広げた。
「――え、身体が勝手に!」
そして手のひらから『バンッバンッ』と音を立てて光の玉のようなものが次々と射出された。
その光の玉は空中に留まり、光る蛇のような形に変わっていく。
なんだこれは、勝手に身体が動いた……あれ? なんか、喋られない。今度は口も……口が勝手に開く……。
「クックック……勇者の証拠、だと? 我を愚弄するな!!」
――なんか、俺、勝手に喋ってる!?
しかも、恫喝するような口調だ。完全に悪役じゃねえか。
「勇者どの、その、空中に浮いている光る蛇のようなものはいったい――!」
兵士たちが動揺している。
「――雑魚に用はない。おい、魔法使いのクソジジイ! 無礼極まりない物言いだけでなく、我を見下ろすその態度も気に食わぬ! 即刻、その視座を下げよ!」
俺の身体は、なおも勝手に喋り続けて、魔法使いの爺さんにビシッと指を向けた。
「ほお……無礼千万な勇者どのだ……! 貴殿の力で果たして拙僧に敵うものかな。頭を下げるべきは貴殿のほうやもしれんぞ?」
爺さんのクセに喧嘩買っちゃったよ。
15歳vsイキり爺さんか。
「ならば死ね! 『拘束する蛇の邪法』!!」
――すると、俺の頭上でウジャウジャ群がっていた光る蛇が、一斉に爺さんに襲い掛かった。
「――なにっ! くっ!」
あまりにも速かったからか、爺さんがあっけなく光る蛇に上半身をぐるぐる巻きにされていた。
「グイン様!」
「ぐっ……! なんだこの異常な魔力を帯びた蛇は……! 身体が、押しつぶされそうだ……!」
兵士にグインと呼ばれた爺さんは、光る蛇に身体をギチギチと締め上げられている。相当苦しそうだ。
しかし、なんだこの現象。これが『勇者の威光』の効果か?
「死にたくなければ、視座を下げよ! そして懺悔の言葉を口にするのだ!」
俺の身体は腕を組んでドヤ顔をしている。
完全に悪役のそれだ。
ひー。
爺さんは観念したのか、ゆっくりと膝を地面につけていく。
「貴殿のお力、まことの勇者のものでございました……! 陋劣極まる無礼な発言をここに取り消します。どうか、拙僧にお慈悲を頂けないでしょうか」
「よかろう、許す。駄犬といえど、腹を向けた雌犬を処してしまえば我の品位に関わろう。以後、我と相まみえる際は、その度に視座を下げよ」
「はい……」
なんだこれ、俺が絶対使わない言葉を使いまくってる。
これが噂の厨二病ってやつかな。
俺の身体が『パチン』と指を鳴らすと、爺さんを拘束していた蛇たちが跡形もなく消え去った。
「まさか、王国屈指の魔法使いであるグイン様でさえ、抗えない魔法だとは……!」
「グイン様の防御スキルである自動魔法破壊が、通用しないなんて!」
「我々は夢でも見ているのか?」
兵士と王族たちが縮こまっている。
なるほど、よく分からんがこの反応を見るに、おそらくさっきの爺さんがこの中で一番強い人間だったのだろう。
「おい、貴様ら! 我を呼びつけた国王はどこにいる!?」
おいおい、こいつはまだ俺の身体を操ってるのか。いつまで続くんだ?
それにしても、さっきPCモニタで見た時に王様の姿があったはずだが、どこにいるんだろう。
「はぅあ! はわわわ……」
「王様! 腰を抜かさないでください!」
いた! 兵士の後ろに隠れていた!
王様が一番ビビってる!?
「おい、国王! 貴様に言いたいことはたった一つだ! 賓客として我の身元を保証しろ!」
「ひぃぃ! 分かりました! ほ、保証いたします!!」
「扱いは『国賓』にしろ!」
「ひぃぃ!! 分かりました!! こ、国賓として対応しますぅぅ!!」
「そうだ、それで良い!」
俺の身体は王様にニヤっとした表情を向けると、少し壁のほうまで移動し、みんなに背中を向けた。
「やりましたね! 誠司さん! これで王様に身元を保証してもらえて、結果オーライです! 以上、ロリ天使でした~!」
俺の身体が、俺にしか聞こえない小さな言葉でそう囁いた。
え……! いままでのは、全部ロリ天使の仕業だったのか。
『プシュー』
身体から空気が抜けるような音がする。
「あ、身体が動くぞ! 言葉もちゃんと喋れる!」
俺は自分の身体が動くのを確認すると、振り返ってみんなのほうを見た。
――すると。
兵士も王族も、そして王様までも、全員が頭を地面に擦り付けて平伏していた。
……あの、ロリ天使さん。誰がここまでしろって言いましたっけ?