第29話 照射、照射、照射!
ロリ天使は笑みをこぼしながら、目線をやや下に降ろして言葉を続けた。
「『メニュー』……」
すると、いつもの半透明なメニュー画面が出現した。
ロリ天使は慣れた手つきで『アイテム』⇒『装備』⇒『身体』という項目へ切り替えていく。
装備品の画面だ。
『勇者の鎧』もある。
ところが、ロリ天使が操るカーソルは、そのウインドウから外れて、どんどん右側へ移動していく。
その先をよく見ると『現在装備中』という、さらに別のウインドウがあった。
『王族の晴れ着・下』
なるほど、ここにいま装備しているアイテムが出てくるのか。
装備中のその晴れ着を選択し『交換』⇒『勇者の鎧』の順にクリックして、ロリ天使は画面を閉じた。
――直後、身体から、淡く輝く霧が現れ『バシュン!』という音が鳴り響いた。
気付くと、俺の身体には『勇者の鎧』が装備されていた。
代わりに先ほどまで固まっていた服は、綺麗さっぱり無くなっている。
下半身は自由に動かせるようになったようだ。
……こういう使い方もできるのか。
「あ、あの子の服装が一瞬で変わったわ!」
「……まさか、いまのは物理魔法か!?」
観客がザワザワと沸き始めた。
「おいおい、物理魔法を使える魔術師って、純金とか簡単に作り出せちゃうんだろ? 本当に実在したのか!」
「伝説では120歳を過ぎた魔術師じゃないと使えないとかいう魔法じゃないか! あんな子供が使えちゃうの!?」
「あわわ! 金の価値が下落する……! いまのうちに家にある純金のインゴットを全部売却しないと……ッ!」
やはり、一般の町民も俺の装備変更を『物理魔法』とかいう魔法と勘違いしている。
発言の内容から、金を作れる錬金術のようなものだと思われているようだ。
やっと納得した。だからみんな驚いていたんだ。
……残念ながら、たぶん金は作れないだろうけど。
「ふふ、この程度の魔法で我を御せるとは思わんことだな……!」
「え……。服を脱いだ……? どうやって……? 今度の装備は、金属……。固める魔法が効かない……」
女の子は、いったい何が起きたんだと言わんばかりの怪訝な表情のまま固まっていた。
「……さて、貴様らの魔法は少し、邪魔だな。また転移でもされると面倒だ。封じさせてもらおう。『沈黙する黒歌鳥の邪法』!」
すると、開かれたロリ天使の手のひらから、無数の紫色の毛糸のようなものが勢いよく射出され、女の子たちのそれぞれの首へ一瞬で到達し、絡まっていく。
「「「うぐっ……!」」」
女の子全員の首が締まったことを確認すると、ロリ天使は手のひらにある紫色の毛糸の束を強く握った。
直後、全ての毛糸は淡い光を吐き出しながら、静かに消えていった。
「……なに? いまの……」
「あれ、すぐに消えた。なんともない……?」
「いったい、なんなの? さっきの毛糸は」
そして、何人かの女の子が俺の前に立ちはだかった。
どうやら魔法を唱えようとしているようだ。
「……石化してやる、『……』……。あれ……。詠唱が、発音できない……。『……』……あれ、なんで……」
「「ス〜ペ〜シャ〜ル〜、合体魔法! 『……』!」」
「……? あ、あれ?」
「おかしいな……」
ロリ天使の言っていた通り、不思議な力で魔法を使えなくしたようだ。
魔法使いタイプの女の子たちは皆怪訝な顔をしていた。
「はっはっは! 貴様らの魔法はしばらく封じさせてもらった。案ずるな、10分ほどで元に戻る」
ちらりとニセ勇者を見やる。
「さて、取り立ての続きだ……!」
ニセ勇者は先ほどまで尻もちを付いていたはずだが、今度は土下座のようなポーズに変わっていた。
両腕を枕にして頭を伏せているので、ひざまずいて寝ているようにも見える。
なんにせよ、ロリ天使の力により屈服しているのは見れば明らかだ。
ロリ天使はそんな無抵抗なニセ勇者のところまで、ゆっくりと歩を進めた。
「無抵抗の意を示し、許しを乞うつもりか……? はっはっは! 残念ながら、我は貴様が期待するほど甘くはないぞ……!」
そして、足のつま先がニセ勇者の頭に触るまでロリ天使は近づいた。
そのまま踏み付けることも十分にできる距離だ。
「……どうやら、戦意喪失といったところか。どれ、敗者の表情というものを拝んでやろうか……!」
ロリ天使がしゃがみ込み、ニセ勇者の髪の毛を掴んだ。
と。
――ニセ勇者は急に『ガバッ!』と上体を上げた。
したり顔の表情で俺を見上げている。
ロリ天使は「……おや?」と呟き、ニセ勇者の起こした上体のすぐ下から、淡い光が滲んでいるのに気づいた。
ニセ勇者の手首には服の袖が捲られており、あのブレスレットが露出していた――!
「かかったなッ! お前がのこのこ近づいてくるのを、ずっと待ってたぜ!! さぁ、オレの命令を聞けッ!!」
ブレスレットからピンク色の閃光が走った。
――眩しいッ!!
なんだ、これ……! 昼間のより、さらに眩しいぞ……!
「ははッ! 照射範囲を絞ったブレスレットの最大出力だッ!! まぶたを閉じても、腕で目を隠しても無駄だ! この光量は肉や骨を貫通するッ!!」
怒涛のような光を放つブレスレットは2、3秒ほど経つと、エネルギーを出し切ったのだろうか、パタリと急に光るのを止めた。
「ちっ、ガス欠か……! 溜まるまで1週間ってところかな。しかし、これでお前も、オレの手のひらの上だッ! ひひ、ふひひ……!」
ニセ勇者は、しゃがみ込みボーっとしているロリ天使を見上げ、イキり顔で捲し立てていく。
「さぁ! 土下座だ! 頭を地面に付けて『参りました』と言え! ……ひひ、うひひ……! ざまぁみろ!! オレの勝ちだッ!! あっひゃっひゃ! ……さぁ、『催眠』を解く……。命令通りに動け!」
『パァンッ!!』
――ニセ勇者は地面に向かって勢いよく手のひらを叩きつけた。
ロリ天使は柔らかな笑みを浮かべて口を開いた。
「ご命令通りに……!」
それを聞くと、ニセ勇者は笑う。
「ひっひっひ……! そうだ、お前もオレの操り人形だ! ははは! やっぱりやめらんねえよ! オレより強い女やガキを操って、しもべにするのはな……! ひゃっひゃ……気持ちいいぜ……!」
ロリ天使はゆっくりとした動作で、ニセ勇者の頭頂部を手で押さえた。
「ふふふ……え? おい、何しているんだ……? ……はぐっ!?」
『バンッ!!』
ロリ天使はニセ勇者の髪の毛を掴み、思いっきり地面に叩きつけた――!
「ふぐぁッ!! お、おい! なにす……ッ!」
「クックック……! ご命令通りに、『頭を地面に付けて、参りました』だ……! 貴様が自分から言ってくれて非常に助かる。有望だな。そう、まず、貴様が覚えるべき随意運動はこれだ。しっかりと練習しておけ……!」
そう言うと、掴んだニセ勇者の頭をゆっくりと持ち上げ、さらにもう一回額を地面に叩きつけた。
『バンッ!!』
「あぐぁッ! えっ!? なんで? なん、なんで……!?」
ニセ勇者は、半壊したメガネを震わせながら、どうにも理解できない! といった表情で俺を見つめた。




