第26話 理路整然、イキりロリ理論!
「はぁ? あべこべだろ。オレがこの『縁切り』の剣で斬りつければ、君は死ぬんだぞ……!」
「この世のゴミ溜めのような男が、一丁前に他人の身を気遣うか……? ハッ、遠慮はしなくても良いぞ。貴様に与えたハンデは、実力差から来る当然の権利だ」
「馬鹿が! 本当に死ぬぞ! さすがの勇者であっても、子供を無為に殺せば名誉を汚す! ああ、実力差はあるだろう……圧倒的にオレが上だッ! ひ弱な君が、なぜそんな驕ったことを言える!」
「『なぜ』、か。クックック……! 貴様の道具に頼りきるその精神を見れば、勇者の器ではないのは明白だ。持たざる者である貴様が、卑しくも人以上のものになろうとしているのが、そもそもおかしな話なのだ……!」
なんか語り出した。
「持たざる者は、真に『持つ者』によって支配されなければならない! そして貴様はいま、真に『持つ者』の前にいるのだ! 我に敵わぬ貴様に、我は寛大なる慈悲で以って、30秒だけ夢を与えてやろうというのだ……!」
「……どうやら、君は、本当に何を言っても聞かないようだな…………」
ニセ勇者は天を仰ぎ、メガネをクイッとした。
ロリ天使は、そんなニセ勇者の言葉を尻目に、女の子の集団のほうへ振り向いた。
「そこにいる39匹の雌犬どもよ! 先に聞いておくぞ、この男はどれくらい強い?」
そんな質問をされた女の子の集団は、次々と口早に沸き始める。
「エル様はアンタなんかよりも強い! アンタなんて絶対に敵うわけないんだから!」
「――クックック……我よりも強い、か」
「あなたは、いますぐ棄権をしたほうが良い。エル様が寛大なうちに……」
「――はっはっは! そうかそうか」
「エル様は類い稀なる戦闘の才能と、狂気の一面を持つ。そんなエル様を怒らせると、残酷な未来が待っている……!」
「――それは怖いなあ!」
「エル様は最強だッ! いままでの私の人生の中で一番の戦士だッ!」
「――ほお? いままでで最強か、おお、怖い怖い……」
ロリ天使は、話を終えるとニヤリと笑みを浮かべ、首だけを傾け、ニセ勇者のほうを見た。
「さて、いま我に対し、矢継ぎ早に出た意見たち……その全てが、あと1分以内に覆ると予告しよう」
「……まったく、君は。……オレを挑発するのは、その辺にしておいたほうがいいだろう。手心を忘れてしまう、ということも、あるかもしれない……」
ニセ勇者のメガネが小刻みに震えている。
そろそろ限界かな。
「さて、もう良いだろう。ニセ勇者よ! 貴様には30秒間、我を自由に攻撃できるハンデを与えよう! さぁ、遠慮はいらん。いつでもかかってこい!」
「それはこちらの台詞だッ! 圧倒的にオレのほうが強いことに変わりはない! それに、ガキを相手して先に攻撃を仕掛けることほど不名誉なことはないんだ! まず、お前から攻撃してこいッ!」
「ほぉ。では、お言葉に甘えて……」
ロリ天使は片方の腕をすっと前に伸ばし、指を『パチン』と鳴らした。
すると――。
『ボオオッ!』
!?
なんと、ニセ勇者の髪の毛に突然、火が付いた。
一瞬のうちに、頭頂部がゴオゴオと燃え上がり、ニセ勇者は苦悶の表情を浮かべる。
「ぐぁあああああ!! あ、熱い……! 頭が熱いッ!!」
ロリ天使が開いた手のひらを振り、握り拳へと変えると、火は一瞬のうちに消えた。
「あっ……火が消えた……。……あっ? ……ああ! オレの……オレの髪がッ!!」
ニセ勇者の髪の毛は、頭頂部周辺が丸ごとチリチリになっていた。
ニセ勇者は両手で頭をワシャワシャと触り、変わり果てた髪の形を確認しながら、次第に蒼白した表情を顔に貼り付けていく。
「はっはっは! 伊達男になったな! 言っておくが、いまのは魔法ですらないぞ。痛覚の無い部位が、他に思いつかなかったのでな……髪の毛を攻撃させてもらった」
「許さない……ッ! お前ッ!! ガキだからといっても、オレはもう容赦はしないぞッ!! 覚悟しろッ!!」
そう言い放つと、ニセ勇者は『縁切り』と呼ばれた剣を両手に構え、全力でこちらに向かってきた。
「グイン! 兵士どもよ! 面を上げて良いぞ! 我を勇者たらしめる、その資質のありようを刮目するがいい!」
ロリ天使は構えを解き、両手を少し広げた。
兵士たちは命令された通りに立ち上がり、2人の決闘を見守り始めた。
「30秒くれてやる! いまからだ! 全力で来い!」
「舐めるなッ!! クソガキがッ!!」
――ニセ勇者は凄いスピードで距離を詰めてくる。
ヤバそうな剣だが、本当に大丈夫だろうな……。
「……『堅牢なる犀の邪法』……」
ロリ天使は小声で魔法のような言葉を呟いた。
すると、俺の身体がボワァっと黄色く光り、そしてすぐに収まった。
……名前からして防御魔法か何かだろうか。
「腕を斬り落としてやるッ!! これでお前は死んだッ!!」
ニセ勇者はそう叫びながら、例の剣で大振りにして斬りかかる。
相手が避けない前提ならば、最大のダメージを与えられる攻撃だろう。
しかし、どうやらロリ天使は、宣言通り無防備に相手の攻撃を受けるようだ……。
本当に大丈夫か!?
――あ。もう目の前だ! 斬られるッ!
『ガキンッ!』
剣は、固い衝撃音とともに、俺の左腕を斬りつけた。
だが、俺の身体には一切ダメージは通らなかった。
「……なっ……!?」
ニセ勇者は怪訝な表情をした。
何が起こったか分からない、といった表情だ。
「馬鹿な……! なぜ、斬れない……!」
「クックック……! さっきまでの威勢はどうした? カウントダウンは始まっている。さぁ、早く本気を出せ……! あと27秒……!」
「くっ、何かの間違いだ……オラァッ!!」
『ガキンッ!』
『ガキンッ!』
『ガキンッ!』
ニセ勇者は何度も何度も、剣の大振りで俺の身体を斬りつける。
しかし、同じような固い金属音が鳴り響くだけで、俺に対するダメージは一切なかった。
「……あ……ああ!? なぜだ……? この『縁切り』の超魔装具は魔術強度に換算すればA級に匹敵するんだぞッ! 効かないはずはないんだ……!」
ニセ勇者は徐々に表情を曇らせる。
剣をひとしきり振っていたが、ダメージがないことに気付き、やがて剣を振るのを止めてしまった。
「あと25秒……!」
「……! そうか、分かったぞッ! お前の着ている、その王族のような衣装! それは超魔装具だな!? まさか、『縁切り』の魔法剣が効かないほど、高位の超魔装具が存在するとは……。は、はは……! お前は先ほど、オレに『道具に頼りきるその精神』と小馬鹿にしておいて、その実、お前自身も道具に頼り切っているではないかッ! なにが勇者の器だ……! 笑わせてくれるぜッ!」
「……ほぉ?」
ロリ天使は不敵な笑みを浮かべ、両手のひらを上に向け、首をかしげてみせた。
「なるほど、貴様にはそのように見えるのか……? そうだな、貴様は卑怯な道具を頼った先に、いまのアイデンティティを確立していたのだ。だから、自分を超える力を持つ者は『もっと卑怯な手を使っているはず』なのだと、そう自分自身に信じ込ませないと、そもそもの自己認識が崩れてしまう、と……。クックック……! 貴様がどれほど惰弱な存在か、先ほどの発言一つを取ってもよく分かる……!」
「黙れッ!! 弱っちいガキが! 道具に頼り切ってようやく一人前を自称するか!? オレは違うぞ! 同じ条件なら、オレが圧倒的に勝っているのは確実だッ!!」
「やれやれ、貴様はどうしても、我のこの服がお気に召さないようだな。良いだろう……」
えっ、ロリ天使さん……?
すると、ロリ天使は両腕をクロスし、両わき腹付近の上着を掴んだ。
そして――。
『ビリビリィイイイッッ!!』
なんと、ロリ天使は来ていた高価な服をビリビリと破り捨てた。
上半身は裸となり、着ているものは何もなくなった。
――ロリ天使さん!?
なにしてんだ、お前!!
「さて、これで『同じ条件』とやらになったかな……? まぁ、もとよりこの服は、ただの服だがな……!」
「なっ! 馬鹿な! 超魔装具をあっさりと捨てるとは……! いや、まさか、本当にただの服なのか!?」
ああ……高価な服が……!
町の一角の土地を買えるほどの高価な服が……!
次にグインと会った時、どんな顔をすればいいんだろ……。
「あと21秒……!」