第25話 観客数万人、大噴水広場の決闘!
大噴水広場は、聖堂エリアのステージと同じく、中心に向かって緩やかに窪んでいた。
このような形状ならば、より多くの人が決闘を見ることができるだろう。
そして、神輿に担がれた俺は、最下段である決闘会場へ辿り着いた。
最下段のエリアだけ、兵士が入場規制をしていたようで、中に入れるのは俺とニセ勇者と、それぞれの関係者のみであるようだ。
真ん中には非常に高さのある噴水が立っている。
といっても、最下段のエリアは一辺50mもあるので、噴水は特には邪魔にならない。
「止まれ」
エリアに入って少し進んだ辺り、ニセ勇者まであと20mといったところで、ロリ天使は神輿を止めさせた。
「階段を出せ」
ロリ天使に命令された兵士たちは「はっ!」と返事をし、細長い四角柱のブロック板を、神輿の傍で階段状に重ね、その上にロール状に巻かれた綺麗な赤い絨毯を丁寧に広げていった。
すると、ロリ天使は座っていた玉座から重々しく立ち上がり、高貴なマントをふわりとなびかせ、ゆっくりと階段を降りていく。
最下段まで降りると、マントを勢いよくはためかせ、ニセ勇者の方向へ向いた。
ニセ勇者の目をまっすぐ見つめ、少し笑みをこぼしながら、その口を開く。
「クックック……! ようこそ、決闘会場へ。ここが真の勇者を決める戦いの場だ。気に入ってもらえたかな?」
ロリ天使がそう言うと、ニセ勇者は安堵が混じったような表情を向けた。
「ああ、君か……! サングラスを取っていたので、若い王族か、君かが分からなかったよ……」
ニセ勇者は周りをキョロキョロと見て、言葉を続ける。
「ここまで、町民を集めるほどの力があるとは、ちょっと、まぁ、意外ではあったが……。しかし、本当にやる気か? いますぐ降伏しろ……! オレと君とでは、勝負の結果は既に見えている。さもなければ、君は無様な姿を町民の前に晒すことになるだろう」
「はっはっは! 何を言うか、『逆』だ……! 貴様が我に降伏し、助命を嘆願するべきなのだ。いますぐ視座を下げ、イノビーの石化を解けば、貴様の命は助けてやろう……!」
「あはは……、それこそ『何を言うか』ってやつだぜ……! オレは勇者だ! 少なくとも、君よりはね。そう、オレは君よりも実力があることはもちろんだが、何より町民からの支持を得ているんだ。証拠を見せよう……!」
ニセ勇者はそう言うと、剣を抜いて頭上に掲げた。
「リスティーゼ城下町の者たちよ! オレは真の勇者だ! そう、この町で噂になっている勇者とはオレのことだ! このオレこそが、勇者に相応しいと思う者たちよ! 声を張り上げ、喝采せよッ!」
ニセ勇者がそう言うと、集まった町民たちは腕をブンブン振り回し、大いに沸いた。
「「「――うぉおおおおおお!!」」」
集まってきた町民たちの大半がニセ勇者に賛同しているようだ。
なるほど、もう、町民におけるかなりの人数を、ブレスレットの力で操っていたのか……。
もちろん、何割かは周囲の反応に合わせているだけだろうが、結果的に大半が賛同している。
これは脅威になるだろうな。
俺の平和にとっての。
「はっはっは! 手回しの良いことだ……! しかし、本物の勇者たる我とは、やはり次元が違いすぎる。我も証拠を見せよう……!」
ロリ天使は両手を天に掲げた。
「ここに存在する全てのものどもよ! 我のほうへ向き、視座を下げよッ!」
ロリ天使がそう叫ぶと、すぐに後ろで『バタバタッ』と、次々に片膝を付くような動作をする音が聞こえた。
こちらからは見えないが、グインと兵士全員が頭を下げたようだ。
見える場所にいた、町民を集客していたほうの兵士たちも同様に、バタバタと片膝を付いて頭を下げ始めた。
「――お、おい……! グイン様が頭を下げているぞッ!」
誰かがそう叫ぶと、次第に町民たちが沸き始めた。
「本当だ……グイン様だ!」
「あの体格は、間違いない……」
「なぜグイン様が城下町に?」
「国防級の戦力が頭を下げるなんて……!」
町民はグインが頭を下げたことに、かなり驚いていた。
なるほど、町では有名人なのか。
そういえばニセ勇者も以前、引き合いにグインの名前を言っていたな。
「なにッ!? まさか……! 似ているとは思っていたが、本物のグイン様か!? グイン様が頭を下げるとは……! 君はいったい、何者なんだ……?」
ニセ勇者は驚愕したような表情をする。
今日一日の中で一番驚いているようだ。
……町民たちは、グインが頭を下げたことでザワザワと沸いてはいるが、グインと兵士たち以外は誰も頭を下げてはいなかった。
「クックック……! それこそ、勇者たる我の人徳というものだ……! ……ところで……」
ロリ天使は振り返ってグインを見る。
「グインよ、下界には、我の名声が届いていないようだが……?」
「はっ、申し訳ございません。なにぶん、勇者様が御出座になられました事実は、王国随一の極秘事項にございますれば……!」
もう、この騒ぎにまでなると公然の秘密では……?
「ならば、我が許可しよう。事が終わり次第、直ちに下界の者どもへ 、勇者が降臨した事実を周知せよ」
お前、いったいどこから目線なんだよ。
「はっ、承知しました……!」
承知しちゃった。
ロリ天使は話を終えると、再度ニセ勇者の方向へ顔を向けた。
「クックック……! では、ニセ勇者よ、余興はここまでだ。決闘の結果など、とうに見えてはいるが……貴様が降伏せぬなら、さっさと始めてしまおう……! 光栄に思うがいい! 貴様の人生の終焉を、真の勇者たる我が手づから演出してやろうと言うのだ……!」
「まったく……君は、絶対に引かないんだね。……オレもだよ。どういうトリックを使って、グイン様まで仲間に引き入れたかは分からんが、この真の勇者を決める決闘で、君の化けの皮は全て剥がれるだろう! 人心が離れた時の君の顔は、さぞ見ものだろうな……!」
「ほぉ……! 貴様のその自信が、どこから来るのかは知らんが……クックック。どうやら勝つ気でいるらしい……! なにか、策があるならばご教示願いたいところだ……!」
「ああ、それならばとっておきを見せてやろう……! シルフィ! あれを持ってこい!」
ニセ勇者が女の子の集団に向かってそう叫ぶと、中から一人の女の子が「はっ!」と返事をし、なにやら剣のようなものを抱えてやってきた。
「エル様、ご所望の『剣の超魔装具』をお持ちいたしました……」
「ふふ、まさかこれを抜くに相応しい日が来るとはな……!」
ニセ勇者は女の子が持ってきた鞘から剣を抜いて、頭上に掲げた。
「これは『縁切り』の呪いが施された超魔装具だ……! 剣を抜いて持っているだけで、術者の体力が徐々に吸われ続けるが、そのデメリットに対して、余りある強力な力がある……!」
「はっはっは! これはまた、珍妙な道具が出てきたな! それで……その道具で我にどう勝つ気でいるのだ?」
「ああ……これは何でも斬れる魔法剣なんだ。どんな硬いものでもね。そして、『縁切り』の呪いにより、斬られた物体は二度とくっつくことがない。つまり……身体のどこかを斬られれば、永遠に血が止まらず、失血死することを意味する……!」
頭上に掲げた剣をロリ天使に向け、言葉を続ける。
「オレにそんな悲しいことはさせないでほしい! これは脅しの道具だ。いますぐ泣いて、謝って、額を地面につければ、オレは君を見逃してやっても良い!」
あーあ、お前さぁ、そんなことを言っちゃうと……。
「クックック……! ならば貴様には30秒間、我を自由に攻撃できるハンデをやろう……!」
ほら、イキり始めた。




