第24話 イキり勇者の、御出座!
そんなやり取りをしていると、外から見慣れた物体がピコピコとやってくるのが見えた。
「ロリ天使、帰還しました~!」
お、ロリ天使だ。
やっと来たか。
「お帰り、ロリ天使。町の下見はどうだった?」
「はい! 町の中心地『大噴水広場』は予想より遥かに大きな広場でした! 数万人くらいは余裕で入るんじゃないですかね?」
でかすぎだろ!
日本武道館がすっぽり収まりそうだな。
「ありがとう。それくらい多くの人が見られる場所なら、十分にニセ勇者の噂を塗り替えられるだろうな」
「えへへ~! 町民全体の1%でも目撃すれば、新しい噂の広がりなんて超マッハです~!」
本来の目的はロリ天使の行動を制限するためだったが、俺はもうロリ天使を信頼することにしたので、建前だった目的が本当の目的と化している。
それに、ニセ勇者の噂を消さないと、俺の目指す安寧とした平和な日々に影響しそうだしな。
「なんだ? セージのやつ、ブツブツとひとり言を……」
「静かにしろ、ラキ……! 勇者様は高位魔術の詠唱中であらせられる……!」
そんなに静かにしなくていいからね。
もう少し声のボリュームを落とすか。
「あぁ、城から町へ行くには距離が少しある。そろそろ移動しようかな」
「了解です、誠司さん! あ、もし良かったら、もう魔法唱えちゃってください!」
うーん、そうだな……。
まぁ、いいか。
どうせすぐに唱えることになるしな。
「分かった。じゃあいくぞ、ロリ天使。『勇者の威光』!」
――俺がそう唱えた瞬間、身体から眩しい光が溢れていく。
俺は心の中で、身体の指揮系統を一つずつ、ロリ天使に移譲していく。
そして、唱えてからほんの2~3秒ほどで、ロリ天使が俺の身体の全てを掌握した。
「――クックック……! あーはっはっはっは!!」
ロリ天使は俺の身体を使って、声高らかに笑う。
「滾るなぁ! 我の名を騙る偽者だと……? ハッ、何するものぞ! 身の程をわきまえぬ駄犬が……。餌を下す天なる存在に対し、どれ程の畏敬を差し出さねばならぬか……その身体に刻み、調教してやろう……!」
相変わらず、よく分からん演技だ。
いったい誰向けなんだよそれ。
「う……! なんか、怖い時のセージだ……!」
ラキがちょっぴりドン引きしている。
ほら、これが普通の反応だぞ。
「そろそろ頃合いだ、我は下界へ降りる!」
ロリ天使はそう言うと、グインのほうを見て、言葉を続ける。
「グイン! 我に相応しい衣装を支度せよ! どちらが真の勇者であるべきか、どちらがより高尚な存在か……! 見た瞬間に、民衆からは分かりやすいものが望ましい!」
「なるほど、承知しました……! 拙僧にお任せください……!」
「はっはっは! 任せたぞ、グイン!」
衣装ねぇ……。
*
どうして、こうなった……。
いま、俺たちは町に入り、『大噴水広場』に向けて移動している。
しかし、俺ことロリ天使が提案した移動手段は、徒歩でもなければ、馬車でもなかった。
――『神輿』だ。
神輿といっても、小さな神殿のような建物は付いておらず、雨避けの豪華な屋根と玉座があるだけだ。
ただ、やや装飾は過剰で、玉座は真っ赤で派手だし、金の装飾もあり、全体的にギラギラしている。
なんでこんなものが用意してあるんだよ。
ロリ天使は玉座に深々と座り、足を組み、頬杖をつき、まるで王様かのようにふんぞり返っている。
兵士たちは文句も言わず、従順に神輿を担いでいる。
町の大通りを堂々と進んでいるため、町民たちは足を止め、こちらを見て次々に怪訝の声を上げた。
「なんだ……アレ……。あの服装からして、王族関係者、だよな……?」
「もしかして、いま大噴水広場で待っている勇者様の決闘相手かしら?」
「王族にしても、勇者候補だとしても……若過ぎじゃないか?」
「わー! あのお兄ちゃんの服、凄くキラキラしてる〜!」
いま、ロリ天使が着ている服は、王族が祝事の時に着用する晴れ着だ。
非常に高そうな質感であり、金の装飾もされている、とても威厳のある服だ。
グインによると、この服1着だけで町の一角の土地が丸ごと買えるほど高価らしい。
やり過ぎだろ。
ロリ天使、お前も普通に遠慮なく着るな。
「クックック……! 愛すべき我が民たちよ。真に仕えるべき勇者が誰なのかを、この太陽が沈む前に、おのが心に刻むが良い……!」
どこから目線だよ。
「グイン、いまは何時だ?」
ロリ天使がグインに向かって時間を聞く。
神輿を担がずに、横を併歩していたグインは「しばし、お待ちを……」と呟き、左手を上げ、手の甲を上に向けた。
「『いま何時』!」
すると、手の甲からアナログ時計のような光る輪っかが出現し、3針表示で現在の時刻を示した。
おお、便利な魔法だ。
「現在の時刻は、15時55分にございます……!」
「ふふ、ちょうど良い時間だ。少し待たせてから到着したかったが、人質を取られているからな……」
――そうこうしている間に、大噴水広場の入り口に到着した。
想像している以上に、兵士による集客は完璧だったようで、非常に多くの町民が集まっている。
本当に冗談抜きで数万人が来ていた。
今更ながら、少し恥ずかしい。
神輿の上は少し高いため、大噴水広場の中央がよく見える。
――そこには、ニセ勇者がいた。
石化したイノビーも、女の子たちも一緒だ。
ニセ勇者は、俺の姿を確認すると、少し困惑したような表情をしていた。
確かに、異常な数の町民を集めて、神輿に担がれてやってきたんだ。
完全にヤベーやつを見る目で俺を見てる。
「勇者様の御成だ! 道を開けてくれ!」
神輿を担いでいた先頭の兵士がそう叫ぶ。
大噴水広場を取り囲む町民の厚さは半端じゃないため、掘り進むように人をどかさないと、ニセ勇者のところまで辿り着けそうになかった。
「あれも勇者様……?」
「なんと、神々しい服装だ!」
「なぜ、王国の兵士が帯同しているんだ? まさか、こっちが本物の勇者様なのか?」
「これは想像以上に、面白い決闘になりそうだな!」
神輿で目立っていたこともあり、進行方向上の奥にいる町民たちも、こぞって道を開け始めた。
その光景は、まるでモーゼの滝のようだ。
俺を乗せた神輿は、人の空いたその道を、ゆっくりと進み始めた。