第22話 飛んで、王国!
「――くそッ!」
俺は掛けてあったサングラスを外し、地面に投げ捨てた。
『カラッ、カラララ……ポチャ』
サングラスは無様にも半壊し、そのまま埃にまみれて、転がって、最後には排水溝へ落ちた。
まるで俺みたいだ。
「こうなったのは……全部、俺の責任だ……!」
俺は、もっとロリ天使を信用するべきだった。
そうすれば、かなり早い段階でニセ勇者の企みを阻止し、事件はすぐに解決できただろう。
ニセ勇者に決闘の場を移させるという計画自体は、想定通りに成功できた。
だが、イノビーを相手に攫われる失態は、一番起こってはいけないことだった。
身近な仲間を守ることもできないなんて……勇者失格だな……。
「誠司さ~ん! イノビーちゃん、攫われちゃいましたね……! でも、起こったことは仕方がないです! いまできる最善を尽くしましょう!」
ロリ天使は俺の顔の前で羽をピコピコさせながら、俺を励ましてきた。
「ロリ天使……。今回の失態は、俺がお前を信用できなかったことが一番の原因だ……悔やんでも悔やみきれないよ……」
「信用できなかったって、何がです?」
「……ああ……。いまとなっちゃ、すっげぇつまらない理由だけど、ロリ天使がイノビーに対して何か悪さをするんじゃないかと思ってさ……」
「え~!? もう、本当につまらない理由ですね! プンスコ! わたしが誠司さんの不利益になるような行動をするわけないじゃないですか! そんな手当たり次第にハッスルしたりしませんよ~!」
ロリ天使が両手を振り回して、プリプリ怒っている。
そうだよな……もっと信用するべきだった。
「ああ、だから反省している……頭の中では後悔の念がグルグル回って、他に何も考えられないよ……」
「――ロリパンチッ!」
――『バギンッ!!』
「うぉおッッ!」
突然、ロリ天使が俺の頬を思いっきり殴った。
普通の少女の力じゃなくて、筋肉ダルマの本気殴りのような一撃だ。
見た目とサイズに全く似合わない強烈なエネルギーの一撃で、俺は裏通り内面の壁の手前まで吹っ飛ばされた。
「――いてて……! おい、ロリ天使! 何してんだお前!」
俺がそう叫ぶと、ロリ天使は俺の真上にぷかぷか浮かびながら腕を組み、太陽の光を背にし、ムッとした表情で俺を見下ろした。
「誠司さん! そんな内向きに閉じた考えで悩んでる場合じゃないですよ! イノビーちゃんが攫われちゃってるじゃないですか! 時間の猶予もない……あと3時間ですよ!? しかも、この時間を決めたのは誠司さんです! この時間内で決闘の場のセッティングと、参加の準備を進めないとイノビーちゃんが危険です!! ウジウジ悩んでる暇なんて、これっぽっちもないんですよ!!」
――言われて、ハッとする。
確かにその通りだ……。
しかも、これは自分で蒔いた種だ。
これで決闘すら失敗しようものなら、恥の上塗りになってしまう。
「確かにその通りだ……! ありがとう、ロリ天使。俺は、いま自分ができる最善を尽くすべきだ」
「いえーい! 分かればいいんですよ~!」
ロリ天使は表情を満面の笑みに変え、バンザイをしながらその場で宙返りをした。
しばらくして、俺はその場でゆっくり立ち上がり、ぷかぷか浮かんでいるロリ天使と正対した。
「ロリ天使、改めてお願いだ。力を貸してくれないか。俺にはロリ天使の力が必要だ」
情けないのは百も承知だ。
俺一人の力では何もできない。
だからこそ、誰かの力が必要なんだ。
「もちろん! わたしは誠司さんの天使ですから!」
ロリ天使はニィっとはにかみ、歯を見せて笑った。
そして、右手の拳を突き出した。
「ああ……よろしく頼んだ、ロリ天使」
「頼まれました!」
俺たちはお互いの拳をコツンとぶつけた。
「……さっそくなんだが、いま困っていることが一つある」
「なんです?」
「城へ戻る方法だ。俺の身元を証明する便箋は、イノビーが持ったままなんだ。だから簡単には町を出られないかもしれない」
町民を中心地に集めるためには、多数の兵士たちの先導が必要不可欠だ。
だが、城へ戻らなければ、それは実現できない。
「ご安心あそばせ~! そんなことなら全然大丈夫ですよ! 横に物置がありますよね? 急いでそこに登ってください~!」
「ん? あ、ああ」
言葉も足早に、俺はなぜか物置の上へと登らされた。
「誠司さん! それじゃあいきますね! うおおおおお! 『天界ぶっとび魔法』ッ!!」
――その瞬間。ギュイインという、エレキギターのような音が聞こえたかと思えば、俺の身体はジェットコースターのような浮遊感とともに、広大な空へと投げ出されていった。
「――うぉおおおおおお!!」
なんの説明もなく、俺はいきなり空へ飛ばされた。
風の空気抵抗で前髪はすべて逆立ち、目もほとんど開けられない。
そして、徐々にと放物線を描きながら、下降――。
いつもの城が見えてきた。
この進路から推測するに、俺の着地場所は庭のようだ。
ちょうど、ラキと戦った場所だ。
花壇の彩る花は、空から見ると一段と美しい。
大気は空飛ぶ俺に身を切られ、ゴオゴオと悲鳴をあげている。
凄まじいスピードだ。
……このスピードで突っ込むと、俺、死ぬのでは?
天界へ行くポイントは溜まってるから、死んだら死んだで安寧の天界暮らしだが……。
――しかし、俺はまだこの世界で暮らしたい!
「うぉ! ぶつかる――!」
俺は覚悟を決めた。
――『ドォオオオオン……!』
俺は豪快な地響きとともに、庭に着地した。
クレーターができた。
等価交換で吹き飛ばされた土は、クレーターのすぐ周りでこんもり積もっている。
「あ、生きてる……」
全然痛くない。なるほど、俺の身体はやっぱり不死身のようだ。
「――ゆ、勇者様……!」
俺に話しかける爺さんが一人。
グインだ。
「あ、ああ、グインか。庭を汚してすまない――」
「いけません! 勇者様! 正門を使わずに敷地内に入ると、魔法障壁による攻撃が始まります! いますぐ近くの木にお登りを……!」
「――えっ?」
するとすぐに、俺が尻もちを付いた地面からはバチバチと電撃のようなエフェクトが走った。
『ジパパパパパ……!』
俺の身体を、電気的な何かが刺しまくっている。
だが、全然痛くない。
見た目はあからさまに電気だ。
ニコラ・テスラの空中放電実験よろしく、綺麗で青い電流が俺の身体の周りで踊っている。
そして、数秒間経つと、電撃のようなエフェクトはすぐ収まった。
「なんだ、これ?」
そんな俺を見てグインは目を丸くする。
「これは……! なんと……! さすがは勇者様であらせられます……! ラキの超魔装具もなしに、王国の魔法障壁を無効化されますとは……! いやはや、勇者様は屈強千万、頑強千万でありますれば……!」
話、長ぇ!
いまはそれどころではない。
「――そんなことより、グイン! 大変だ! イノビーが攫われた!!」
「い、イノビーとおっしゃいますと……?」
「俺を警護していた女兵士だ! あ、いまは無職だが……とにかく! 事情を説明する!」
――俺は簡易的に事情を伝えた後、グインに兵士を数人集めさせ、すぐに会議の場を設けるように指示した。