第2話 涙の理由と、解決法!
「この『転生』って文字を見る限り、俺はもう一度生き返って人生をやり直せるってことか?」
「はい! まさにその通りです!」
ロリ天使は笑顔で親指をぐっと上げた。
「おお、本当なら凄いな!」
俺はもう一度、その文字列をまじまじと見た。
★店長オススメ品★
『異世界転生(未知の世界で人生をもう一度!)』
――50億ポイント。
「――『店長オススメ品』? どこに店長がいるんだ?」
「わたしです! まぁ、一人店長ですけどね! ちなみに、その本を開いてくれたのは誠司さんが初めてなので、実は、まだ誰も利用してくれていないんです。せっかくカタログを作ったのに。ぐすん」
「利用してほしかったのなら、なんでわざわざ隠していたんだよ」
「だってぇ……一番認めてほしい部分って、自分から言うんじゃなくて、誰かから見つけてもらいたいじゃないですかぁ……」
ロリ天使は頬を赤らめて両手で人差し指をツンツンしている。
子供特有の少し面倒くさい性格がまんべんなく出ているな。
ロリ天使が早く一人前のレディーになることを期待するとして、とりあえずは別のことを聞こうか。
「はいはい。ところで、転生できるのは分かったが、この『異世界』ってなんのことだ? 未知の世界とも書いてあるが、地球とは違うのか?」
「はい! 地球とはビミョーに違います! 正確に言うと、並行世界の地球ですね!」
なるほど、ということは。
「じゃあもう、俺が住んでいた場所には戻れないのか?」
「そうですよ〜! もしかして、ショックですか?」
――いや、どうだろう……?
俺が住んでいた地球。
つい生前まで俺は社畜をやっていた。そうだ、いつも何かに追われていたような――。
ドクン、と胸が脈打った。
すると、死んだショックで一時的に忘れていた俺の記憶が、まるでヤカンの蓋を揺らして沸騰するように溢れ出てきた。
それは辛かった記憶のフラッシュバック――。
旧態然としたパワハラ上司や、契約以上の要求をする顧客、押し負けてフォローをしない営業、徐々に追い詰められていく俺。
人生を思い返せば仕事の記憶ばかりだ。
仕事か……。
仕事って、俺の人生にとっての、なんだっけ。
ふと気が付くと、俺は膝をついて、目から涙を流していた。
「う……うぅ……あああ! あ、あうう……うああ……!」
――涙が、勝手に溢れ出てくる。
「……! 誠司さん、大丈夫ですか……?」
「うう、すまん。ちょっと、色々と思い出しちゃって……」
俺がそう言うとロリ天使は、申し訳ありませんと言わんばかりの表情で、俺のすぐそばへと駆け寄ってきた。
「誠司さん、ごめんなさい。でも、もう、どんな手段を使っても、魂は元いた地球にだけは絶対に戻ることができないんです。これは天界の掟で決められて――」
「違う! 違うんだ、ロリ天使! 『逆』なんだ! 俺は、もう地球には戻りたくないんだ! いままでとても、とても辛い思いを、俺はしてきたんだ」
俺のその言葉を意外に思ったのか、ロリ天使は少し驚いたような表情をする。
そして、すぐに温和な笑顔を俺に向けて、膝をついて泣いている俺を顔をゆっくり抱きしめた。
「そうなんですね……。いままで、よく頑張ってきましたね! ヨシヨシ~! ヨシヨシ~!」
ロリ天使が、笑顔で明るく、俺の頭を撫でている。
とてもやすらぐ。
こんな気持ちは何年ぶりだろうか。
俺はしばらくしてから、涙を拭いて立ち上がった。
「……なあ。ロリ天使、俺は安寧とした平和な世界に生きたい! おだやかな日々を過ごしたいんだ! その願いさえ叶うならば、地球じゃなくったって良い! だから――」
俺はこぶしをグッと握って、天に掲げた。
「俺は決めた! 異世界に行く! 新しい場所で、安寧とした平和な世界で、俺は人生をもう一度やり直してみたい!」
「ほ、本当ですか!?」
ロリ天使は目をキラキラさせている。
「ああ、本当だ! いまの俺に迷いはない!」
「承知しました! いえーい! 歴史上、誠司さんが異世界転生をする最初の人間ですよ! やったぁ! 嬉しい~!!」
えらい喜びようだな。
「俺が初めて転生する人間なのか。そもそも、カタログすら最初に開いたのも俺が初めてなんだっけ。まぁいいや、ポイントを引いておいてくれ」
「はい! ありがとうございます! それじゃあ50億ポイント分を引いておきますね~!」
ロリ天使はカタカタと電卓を叩いた。
50億ポイントもの出費ではあるが、そもそもあぶく銭みたいなものなので、あまり気にならない。
それにしても、未知の世界で新しい人生、か。少しテンションが上がってきたかも。
「よし、あと約40億だな。残りのポイント消化で迷っているんだが、何かオススメはあるか?」
「はい! オススメありますよ! そのカタログの7ページ目からがスキル特集ページになります! 最初のほうで『店長オススメ品』ってポップがあるので、それがオススメです!」
「スキル? へぇ、それを選んでポイントを支払うと、そのスキルが勝手に身に付くのか?」
「はい! 天界の不思議パワー的なアレで、なんか勝手に身に付きます! 勉強とか修行とかは不要ですよ!」
「それは凄いな。えーと、7ページ目だよな。どれどれ……」
★店長オススメ品★
『安心異世界パック【7】、オススメ3点盛り!(防御力・体力強化/ST異常無敵/自動翻訳機能)』
――25億ポイント。
(通常40億のところ、37.5%オフ!)
★店長オススメ品★
『安心異世界パック【12】、これであなたもクレリック!(魔力超強化/神聖魔法習得適性)』
――10億ポイント。
(通常20億のところ、50%オフ!)
うお? なんだこりゃ!
「えーと、何これ? 『防御力・体力強化』が身体能力の素養で、『自動翻訳機能』が語学スキルってことはなんとなく分かったが、他の言葉の意味がまるで分からんぞ」
「え! 誠司さんって、あんまりロールプレイングゲームをしないんですか!?」
「しない」
「キャー! 誠司さん、人生の7割は損してますよ!」
俺は3割しか生きていなかったのか。
「そうなのか。まぁ、それは後で勉強するとして、とりあえずこのオススメ品ってのを選んでおけば間違いはないんだよな?」
「はい! 間違いありません! 少なくとも簡単にまた死んだりしませんよ! どうします? ポイントを支払いますか?」
右も左も分からないので、ここは素直にロリ天使に従っておこう。
「ああ、支払う」
「まいど~!」
ロリ天使はカタカタと電卓を叩いた。
「なぁ、残りの善行ポイントはいくらだ?」
「えーと残り5億ちょっとですね! 正確に言うと5億飛んで7ポイントです!」
結構使ったな。
さて、残りの使い道だが……。いまになって少し気になることができたので質問しておくか。
「なぁ、余った善行ポイントってどうなるんだっけ? 転生した途端に全部消えちゃったりとか?」
「いえ、消えませんよ! また次に死んだ時のために持ち越せます! とりあえず20ポイントあれば天界に行けるので、それは残すことをオススメします!」
いいね。20ポイントさえ残せば、さらに次の死後に対する保証付きか。
地獄は、なんとなく嫌だからな。
「ありがとう。天界行きに必要な20ポイントは死守するとして、残りのポイントで買えそうなオススメ品はあるか?」
「残り5億ちょっとだと、えーと、この2つですね!」
★転生者専用・単品魔法★
『なんでも鑑定魔法』
――2億ポイント。
★転生者専用・単品魔法★
『勇者の威光』(光属性の便利魔法)
――2億5000万ポイント
相変わらず、わけの分からん文言が並んでいるな。
「『なんでも鑑定魔法』は字面でなんとなく意味が分かるけど、『勇者の威光』ってどういう意味だ? 便利魔法と書いてあるが」
「はい! 『勇者の威光』はカタログの中でも一番便利な魔法です! 困った時に使うと、不思議な力でとにかく解決するっていう凄い魔法です! 実はわたしの一番のオススメ魔法なんですよ!」
えらく抽象的な説明だな。
ナチュラルに魔法だとか勇者だとか言ってて、メルヘン感も半端ない。
だが、有識者のオススメ品なら仕方がないな。
「じゃあ、それで」
「まいど~!」
「残りは、約5000万ポイントだよな? 20は残すから、あとのポイントでオススメ品も頼めるか?」
「もちろん! じゃあ残りは装備品とアイテムにしましょう! スキルよりも安いです! 20を除いたジャスト4999万9987ポイントになるように選んでおきますね~!」
「頼んだ! ありがとう!」
俺はカタログをロリ天使に手渡した。
ロリ天使は装備品が載っているっぽいページをめくって、さっそく選定を始めている。
「探しながらで良いんだが、ちょっと質問していいか?」
「どうぞ~!」
「転生ってまた赤ん坊からやり直すんだよな? 装備品とかってどうやって受け取るんだ?」
「その点は大丈夫ですよ! 天界が用意する物品は全て、なんか謎の空間に格納されます! ちょっと念じるだけで自由に出し入れ可能ですから!」
謎なのか。
「そうなんだ。ところで、転生って必ず赤ん坊からやり直さなきゃいけないんだっけ? この姿のままじゃ無理?」
「どっちも可能ですよ! ただ、わたしのオススメは赤ん坊からやり直すことですね。それだけで異世界における社会性をゼロから学べて、身元も保証されますから!」
「うーん、赤ん坊からかぁ。気持ち的には俺はただの観光者気分だから、すぐに自分の足で歩けるほうが良いんだが。それに赤ん坊から始めるとDNAレベルで異世界人だろ? なんか不安だ」
「なるほど! それじゃあその姿、そのDNAのままで転生しましょうか! ただ、これから行く異世界で35歳の無職は人間扱いをされないので、15歳くらいまでには若返っておきましょう!」
なんて世知辛い世界だ。
まぁ、でも15歳か。俺の身体能力が一番高かった時期だ。
昔の自分の身体に再会できるというなら、また別の楽しみが生まれてくるな。
「あ、お話しの途中ですが、装備品とアイテムを選び終わりましたよ~! ピッタリ4999万9987ポイントです!」
「ありがとう! じゃあポイント支払いお願い」
俺は見てもどうせ分からないので、確認もせずにOKを出した。
「まいど~! これで残り20ポイントですね! もう一回死んだとしても天界行きは大丈夫です! ちなみに引き換えた物品の一覧はちょっと念じればすぐに見られるので、あとで確認してみてくださいね!」
「はーい」
「あと、誠司さんがご希望されている、その身体のままでの転生ですが、赤ん坊の転生とは違って最初はよそ者です! 地球で培ったコミュ力を駆使してなんとか取り入っちゃってくださいね!」
「お、おう。頑張るよ」
改めて考えると、その部分は少し不安だな。
まるで飛び込み営業をやらされる新卒の気分だ。
「――はっ! 誠司さん、聞こえますか!?」
「え?」
「電波キャーッチ! これから行く異世界のどこかで、勇者を呼ぶ声です! これはチャンスです!」
「勇者? えーと、俺には何も聞こえないけど」
すると、ロリ天使は謎の空間からPCモニタのようなものを取り出していく。
そして地面に置いて電源ボタンを押し、俺にその画面を向けた。
「なう! ナウ! NOW! いまです! 干ばつ地帯で農民の方が雨乞いをするかのごとく、いま、お城で王族っぽい人たちが『勇者乞い』をしています!」
モニタの画面を見ると、どこかのお城で王族っぽい人たちが、魔方陣の描かれた床の周りでなんか怪しげな儀式をしている。
「勇者乞い? それがどうチャンスに繋がるんだ?」
「はい! たとえ、誠司さんが15歳の少年に戻ったとして、いくらコミュ力MAXであったとしても、現地住民に取り入るのは至難の業! しかし! いま、地位高めなお城の王様っぽい人が『勇者召喚の儀式』をしています! ここに飛び込んで召喚された勇者を装えば、その身元は王様が保証してくれます!」
「おお! なんか抱えていた課題が一気に解決しそうな流れだな!」
「さあ! なう、ナウ、NOW! いまです! さっそくあの場所に転生しましょう!」
「いまって、そもそも遠い星みたいなイメージだったんだが、そんなにすぐに行けるものなのか?」
「天界の不思議パワー的なアレで一瞬ですよ! だいたい5秒くらいです!」
「速いな!」
「はい! さあ! いまから異世界に送り届けますので、急いでここに乗ってください!」
言葉も足早に、俺はなぜか机の上へと登らされた。
「誠司さん! それじゃあいきますね! うおおおおお! 『天界ぶっとび魔法』ッ!!」
――その瞬間。ギュイインという、エレキギターのような音が聞こえたかと思えば、俺の身体はジェットコースターのような浮遊感とともに、宇宙空間へと投げ出されていった――。