第19話 幼い魔術師と、採用試験!
――だが、その選択肢を、俺はあまり選びたくない。
それはラキとの戦いで、身に染みている。
俺のハーレムを作るために、ロリ天使は、よく分からないハッスルをするからだ。
きっと、イノビーには迷惑をかけてしまうだろう。
と、言っても……彼女の命に関わる場面では、そんな悠長なことは言っていられない。
「――よくも、勇者様を足蹴に……ッ! 絶対に許さない、覚悟しろッ!!」
イノビーは咆哮をあげ、服に仕込んでいたと思われる短剣を抜いた。
「もう一人いたのか……! だが、オレ好みのいい女だ。サングラス越しでも分かる……上玉だな。これで、戦闘能力さえ高ければ、オレの仲間に加えてやってもいい」
ニセ勇者は、メガネを指でクイっと上げながらイノビーを挑発する。
「黙れ! 勇者様に対する千万の無礼……! 決して許されるものではないッ!! いますぐ、土に還してやるッ!!」
「あはは、怖いねぇ……。それとさ、本物の勇者はオレだよ? そんな子供を勇者扱いしたって、何の得もないじゃないか――」
――『バッ!』
ニセ勇者が言葉を紡ぎ終わるよりも前に、イノビーは地面を勢いよく蹴り、全力疾走で相手に向かっていった。
「血気盛んな女だな。オレはそういう子、嫌いじゃないよ。――カチュア! 前に出ろ!」
――すると、女の子の集団にいた一人が、『タタタッ』と駆けてきて、ニセ勇者の前に立った。
その女の子の姿は、可愛らしい魔法使いのようであった。
両手は素手。一見すると無害に見える。
「どきなさい! 私は後ろの男に用がある!」
イノビーが急きょ立ち止まって、そう叫んだ。
すると、魔法使いの女の子はゆっくりと口を開く。
「無理……。エル・シャカラビット様には……指一本、触れさせない……」
「あなたは、後ろの男に騙されている! いいからどきなさい! 女の子とは戦えない!」
「だから無理……。それと、わたしは魔術師……。戦うのに、遠慮をする必要はない……。証拠は、これ……。『氷撃刺突魔法』――」
――女の子が、右手の中指をイノビーに向けた。
すると、なんと、その指が急に伸び始めた――。
「えっ!? ……くっ――!」
『バッ!』と、イノビーの服がなびいた。
その謎の中指の刺突攻撃を、彼女は寸前でかわしていた。
「危なかった……! いまの魔法の速さ、魔術強度……。普通の魔術師とはレベルが違う! こんな小さな女の子なのに!」
中指が伸びたように見えたそれは、つららのような氷だった。
一瞬で1mくらいまで伸びていたので、あのまま当たれば大怪我をしていた。
これが魔法……!
ロリ天使が使ったのを見た以外では、これが初めてだ。
「おしい……。目を狙ったのが、逆にいけなかった……攻撃が分かりやすすぎた……反省、反省……」
女の子がそう言うと、ニセ勇者が「おい!」と声を荒げる。
「――カチュア! その女には傷を付けるな! 商品価値が下がるからな……。攻撃方法は、殴打に限定するッ!」
「……命令を承りました……。エル・シャカラビット様……」
――こんな光景を見せられてしまっては、いても立ってもいられない!
「ニセ勇者! イノビーに手を出すなッ!! 俺とお前の決闘は、まだ終わっていない!!」
俺がそう言うと、ニセ勇者は俺を見下ろすような目をして口を開いた。
「ああ、でも、その女が来た時点で、もう決闘ではなくなってしまったようだからな。こちらも戦闘メンバーを1人追加したんだ。それと、自称勇者くんには、もうあまり興味がない。さて……」
ニセ勇者はイノビーのほうに振り向いて、言葉を続ける。
「――採用試験、と言ったところかな。オレの仲間である39人の女は全員、容姿に恵まれているだけでなく、卓越した戦闘能力を持っている。ここで君には、39人の中で一番弱い女、カチュアと戦ってもらう。勝てたらオレの仲間として迎え入れてあげよう」
「ふざけるな……! 私はお前の言うことなど聞かないッ!」
「……ところが、ちゃんと聞くさ。君はいまサングラスをしているが、それを取る手段はいくらでもある。それとね、この39人の中には君よりも戦闘能力が高く、君よりも意思の強い女がたくさんいたんだ。だが、全員オレの仲間になった。やがて、君もそうなる。この試験に合格すればね……。あと、あらかじめ言っておくが、負けた場合には、勝った場合よりも、もうちょっと不幸な目に遭ってもらう。上玉な女なら、稼ぐ手段はいくらでもあるからな……!」
「このゲス野郎が……ッ!」
「ゲス? あはは、ありがとう。ところで、後ろを気にしたほうが良いよ――」
「――えっ!」
――『ガンッ』
咄嗟の反応で、イノビーは振り向きざまに、短剣を使って攻撃を受け止めた。
その攻撃は、女の子の右肩から生えた、腕のような形の氷で殴ってきたものだった。
「これが『氷撃殴打魔法』……。よく受け止めた……。やっぱり、良い反射神経をしている……」
殴りかかってきた氷の拳を、イノビーは短剣でいまもなお、ギリギリと鍔迫り合いをしている。
「はぁ……はぁ……な、なんて魔力なの……? この力、並みの魔術強度じゃない!」
くそッ!
やはり、このままなら、最悪の事態じゃなかったとしても、イノビーには怪我をさせてしまうだろう……!
「いけー! やっちゃえ! カチュア〜!」
「ほらほら、相手のボディがガラ空きだよ! もう一発打っちゃえ!」
「もっと押し込んで! 相手もそろそろ限界みたいだよ!」
女の子の集団による、黄色い声援が飛び交う。
ニセ勇者の言う通りだとすると、彼女たちは、魔法使いの女の子よりさらに強いのか……。
迷っている場合ではないかもしれない……やはりロリ天使の力を借りるしかないだろう。
……その前に、あの女の子の情報だけ見ておこう。
「『なんでも鑑定魔法』」
――――――――――――
カチュア・ピンクシュガー
称号:【才媛の魔術師】【固める魔法が得意】【魔法少女コンテスト1位】【いつも飴玉を持ってる(パイン味)】
特記:【状態異常発生中(後催眠暗示:C級)】
HP 35%
MP 98%
体力 【ナメクジ】
魔力 【ヤベーやつ】
攻撃力 【ナメクジ】
防御力 【ナメクジ】
敏捷力 【ナメクジ】
※『~力』というステータスは9段階評価となります。評価の高い順から『神』『ヤベーやつ』『非常に強い』『強い』『普通』『弱い』『非常に弱い』『ナメクジ』『犬の餌』と表記されます。
――――――――――――
『状態異常発生中』……『後催眠暗示』?
おそらく、これが『催眠』による影響なのだろう。
これで、あの女の子も間違いなく被害者であることが分かった。
イノビーと同じように、傷を付けるわけにはいかない。
しかし、事態解決の糸口は見つからなかった……。
やはり、ロリ天使の力を借りるしかないか。
「誠司さ~ん! ずっと黙って見てたんですけど、いま、なんか普通にヤバそうですね~! わたしなら速攻、あのニセ勇者をボコボコにできますよ! 誠司さん、どうしますか?」
いつの間にか、道具袋から出てきたロリ天使が、俺に話しかけてきた。
ちょうどいいタイミングだ。
「ああ、ちょうどロリ天使の力を借りたいと思っていたところだ……。イノビーには、絶対に傷を付けたくない」
「あらあら~! そうですよね、誠司さん! ハーレムメンバーに対する慈愛の精神! まさに、ハーレムの主にふさわしいです~!」
ロリ天使は満面の笑みでバンザイをして、その場で宙返りをした。
「イノビーはハーレムの一員じゃない」
……戦況は緊迫してきている。
ここは、ロリ天使になんとかしてもらおう。




