第18話 観客0人、裏通りの決闘!
「そんなことより……おい! ニセ勇者、俺と決闘しろ! 俺が勝ったら女の子を全員解放するんだ!」
俺はニセ勇者に対して指をさし、啖呵を切ってみた。
「……はは。決闘とはずいぶん威勢がいい子供だね。でも、解放ねぇ……」
ニセ勇者は女の子の集団に振り向いた。
「お前たちは、好きでオレに付いてきている。そうだろう?」
すると、女の子たちは一斉に沸き始めた。
「はい、その通りです! エル様」
「すべては……エル・シャカラビット様のお心のままに……」
「エル様の腹筋が大好きです!」
「エル様のメガネが大好きです!」
「ふふ……そうか! お前たちは、これからもオレに付いてくるかーッ!?」
ニセ勇者はそう叫びながら、拳を突き上げた。
「「「付いていきまーすッ!」」」
それに呼応するように、女の子たちは一斉に叫んだ。
「お前たちは、オレが大好きかーッ!?」
「「「大好きでーすッ!」」」
「その愛は、永遠かーッ!?」
「「「永遠でーすッ!」」」
「いえーい!」
「「「いえーい!」」」
なんだコイツ。
「おいおい、まさか俺と決闘をしたくない、って言うんじゃないだろうな? 逃げる気か?」
俺は少し挑発気味に言った。
――すると、ニセ勇者は思いのほか、優しい笑みを浮かべて俺に振り向いた。
「あはは。決闘という話なら受けてみよう。けど、どうせ君はオレに勝てないよ? それは見ただけで分かる。魔法使いとも剣士とも言えない身なりじゃないか」
「まぁな。それじゃあ『決闘しろ』に対する回答はOKで良いな?」
「ああ、もちろん。軽くいなしてあげよう。少し怪我でもしないと、納得してくれないみたいだからね」
「ふふ、その言葉、待ってたぜ……」
俺は、心の中で『メニュー』と叫び、『アイテム』の中の剣と鎧を選択して『装備』をクリックした。
――クリックした直後、俺の身体の周りにうっすら輝く霧のようなものが現れ、バシュン! と音を立てて『剣』『鎧』に変化した。
ラキと戦った時と同じ格好だ。
それを見て、ニセ勇者は、いままでで一番驚いたような表情をした。
「なに! 物理魔法だとッ!! その歳で……いったい何者なんだ! お前は!」
そういえば、これを見せると、なぜか全員驚いてるな。
おそらく、習得が難しい種類の魔法に似ているのだろう。
「最初から言っているだろう。ただの『本物の勇者』だよ。もしかして怖気づいちゃった?」
「……はは。それはまさかだろ? 物理魔法には驚いたが、勝負というものは持ち前のフィジカルがものを言う。依然、オレの有利は変わらない。ただ単に、少しはオレをやる気にさせてくれただけだ」
そろそろ、だいぶ時間を稼げたはずだ……。
イノビーはちゃんと逃げてくれただろうか。
「じゃあ、決闘開始だな……!」
「ああ。だが、子供相手にオレは本気を出せない。君からかかってくるといい」
ニセ勇者はまだ剣を抜いていない。
よほど自信があるのだろう。
「じゃあ、お言葉に甘えて――」
俺は『バッ』と地面を蹴り付け、ニセ勇者へと駆けていった。
――目の前まで迫って、俺は大きく剣を振りかぶった。
すると、ニセ勇者は、ここで初めて抜刀し、俺の剣筋から身を守った。
――『ガシッ!』
俺とニセ勇者の剣が衝突した。
ギリギリと、鍔迫り合いよろしく、震える手で剣を押し込みあう。
「……やっぱり、オレと戦うには、君のフィジカルは弱すぎる。予想通り、子供の力だ」
相手はラキよりステータスが弱そうだったから、なんとかなると思ったが、どうやらまだ俺の強さは全然下らしい。
こうなると、選択肢は2つだ。
このまま負けてやり過ごすか、ロリ天使の力を使うかだ。
前者は現実的な選択肢だ。
どうやら、相手は俺をまだ子供扱いしているようで、殺す気まではないだろうし。
いったんやり過ごして、王国に通報すれば、事件は勝手に解決するだろう。
後者は理想的な選択肢だ。
相手を倒して、あのヤバそうな道具も破壊できる。
しかし……ロリ天使の性格を考えると、あまり選びたくないのが現状だ。
「ぐぐぐ……くそっ……」
「どうした? 魔術師なら、魔法でも使ってみろよ、オラァッ!」
――『ガキンッ!』
――『バンッ!』
ニセ勇者は大人の力で、俺の剣を横へ一気に弾き飛ばすと、無防備になった俺のみぞおちに、全体重を乗せた前蹴りを放った。
「――ぐぁああ!」
俺は、体重が軽いからだろうか、後方へ大きく蹴り飛ばされた。
「やはり、子供の枠を出ないな。この程度のレベルなら、剣の超魔装具を使うまでもない……」
剣を飛ばされ、両手が空いてしまった。
かと言って、他の武器を装備しても結果は同じだろう。
やはり、ロリ天使の力を使うか……?
イノビーも、もう逃げ切った頃合いだろうしな。
「君は世の中でもかなり珍しい、物理魔法を使える魔術師だ。だからこそ惜しいな。もし、君が可愛い女の子なら、仲間に加えているところだったよ」
「それはどうも……。俺も、アンタに頭をいじくられたくないからな」
「あはは。仲間にはしないが、ブレスレットの力は使わせてもらうよ。命令は2つ、今日一日の記憶を消すことと、物理魔法の習得方法をオレに教えることだ。……さあ、サングラスを取れ。じゃないと、無用な怪我をすることになる」
なるほど、これはチャンスだな。
ニセ勇者は、俺にブレスレットの力が効かないことを知らない。
かかった振りをして、口から出まかせを言えば、とりあえずは急場をしのげそうだ。
……そんな思案をしていると、『タタタッ』と、こちらに誰かが駆けてくるような音が聞こえた――。
「――勇者様!!」
急に俺の前に立った、女の影。
――イノビーだ!
「イノビー! なぜここに! 逃げろと言っただろうッ!」
「勇者様を放ってはおけません! ご命令を破ってしまい、誠に申し訳ございませんッ!! あとで罰は受けますッ!!」
これは、まいった……。
俺の取れる選択肢である「あえて負ける」がこれで消えてしまった。
負ければ、まず間違いなく、イノビーの身に危険が及ぶからだ。
もう、残された選択肢としては『勇者の威光』を唱えて、ロリ天使に身体を預けるしかない……。




