表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/48

第14話 ゆるふわ恫喝、元・女兵士(無職)!

 町に着いた。

 ただ、俺が想像していたよりもずっと厳重な町で、かなり高い壁に囲まれていた。


 この壁にはどんな意味があるんだ?

 恐竜でも出るんだろうか。


「勇者様! こちらですよ~! ここが町の入り口です!」


 イノビーがぴょんぴょん飛び跳ねながら、手を振って俺を呼んでいる。

 大きな胸も揺れている。


 あれから馬車内では彼女と世間話をしていたが、早くも結構打ち解けてきた気がする。

 たぶん、兵士じゃなくなった解放感も少しあるのかもしれない。


 ちなみに、王族御用達の出入口ではなく、一般向けの通用口で町へ入ることになった。

 そもそも、王族関係者でもお忍びで来る際には、後者を使うのが当たり前であるようだ。

 今回のケースもそれに該当する。


 ――というわけで、その通用口の受付にやってきたのだ。


「リスティーゼ城下町に入りたいんだが」


 俺がそう言うと、通用口の受付の男は怪訝な顔をした。


「あぁ? その臭ぇクチ開く前に身分証出せやコラ、オラ」


 いきなり喧嘩を売られちゃった。

 なんだこの町。


 ――すると。

 『ガンッ!!』

 イノビーが拳を、受付の机に勢いよく打ち付けた。


「お、おい……! なんだよネエちゃん、そんな怖い顔してさ」


「いま、お前が我が国の要人に対して言い放った千万の無礼……! 取り返しがつかないかもしれんぞ……ッ!」


 イノビーが、いままでの印象とは真逆の怖い態度で詰め寄る。

 声にドスが利いていた。

 まるでヤクザである。


 彼女は銀色に光るカード大の便箋を受付の男に手渡した。

 男は怪訝な顔をしながら、便箋を開けて中身を見た。

 ――すると、男の顔が段々と蒼白していく。


「こ、これは……! 王国最上級の封蝋(ふうろう)……ッ!! しかも、この要人の方は……ッ!!」


「他言無用だ……! 言えば牢獄生活が待っているぞ……!」


 イノビーは綺麗な顔に怖い表情を貼り付けて、重くドスの利いた声で脅していく。

 なんか、頼もしいな……!


「これは……何たるご無礼をッ!! 申し訳ございません……!! 私には家族がいるものでして……!! この生活だけは、勘弁してください……ッ!!」


 受付の男が机に何度も(ひたい)を打ち付けながらそう叫ぶ。

 おいおい……! いちいちオーバーだな、この世界の人間は。


「お前の沙汰(さた)は、ここにあらせられる御方が下される……!」イノビーはそう言いながら俺のほうを向いた。「勇者様、この男の処遇、いかがいたしましょうか……!」


 えー、俺ぇ?

 俺が判決を決めるのかよ……。

 なんで俺をここまで崇めるんだこいつらは。


「えーと……。俺は先ほどの態度を気にしていない。町を守るための関所の検問官としては当然の対応だ。罪は不問とする。これからも町の平和をよろしく頼む」


「は、はいぃ!! 勇者様のご厚情、大変痛み入ります! 恐悦(きょうえつ)至極(しごく)……! 恐悦至極……!」


 受付の男は机に突っ伏したまま動かなくなってしまった。

 呪文のように何度も「恐悦至極……!」と繰り返している。


「検問官よ……! いま、偉大なる勇者様より温情極まる沙汰が賜られた……! 明日も生きながらえるという大幸運を噛みしめ、出精に励め……!」


 俺、普通に暮らしたいのになぁ……。



 *



「あ、勇者様~! あちらの屋台の串焼き、美味しそうですね!」


 通用口の時とは打って変わって、イノビーは朗らかな女性の性格に戻った。

 というより、町に入ってからはさらに態度が柔らかくなっている気がする。

 可愛い。


 ――リスティーゼ城下町。

 そしてここは、その町の中にある商業エリア。


 思っていたよりも非常に人が多い。

 カップル、親子連れ、10代の集団、昼間から飲み歩いてるオッサンたち……。

 服装が少し中世っぽいところを除けば、顔ぶれや活気は現実世界とそう変わらないだろう。


 商業エリアなので、建物の中にはたくさんのショップがある。

 また、馬車通行禁止で歩行者天国と化した道路には、たくさんの屋台が並んでいて、まるで日本の縁日のようだ。


 ちなみに『ニセ勇者』の件は、特に急ぐ理由がないことと、俺が町の遊覧を希望したため、一旦保留としている。


「やはり……町並みは現実世界のヨーロッパに似てる。バルト三国あたりが近いかな。建物も綺麗だ。お金かかってるなぁ……!」


「勇者様、なんです? よーろっぱ……?」


 イノビーが首をかしげて聞いてきた。


「ああ、俺が元いた世界の国に少し似ていてね……。それより、ここはとても良い町だね。活気があって、平和で……。食事も、どれも美味しそうだ」


「美味しそうですよね! さっそくなにか食べましょう!」


「それなんだけど、俺、今日、お金持ってきてないんだよなぁ……」


 最初から持ってないけどね。


「大丈夫ですよ! 私が出します! お金もカードもありますよ~!」


 カード?

 もしかしてクレジットカードかな。

 異世界にもあるのか。


「本当に頼って大丈夫? だって、イノビーはもう無職なんでしょ?」


 煽ってるわけじゃなく、ガチで心配して聞いてみた。


「それが大丈夫なんですよ~! 確かに厳密には私はもう無職ですが、いまは勇者様の警護をしているため、一日きっかりの嘱託(しょくたく)兵士契約を王国と結んでいます! なので、今日一日はれっきとした兵士ですよ!」


「おお、頼もしいな!」


「はい! それに、先ほども言いましたが、要人警護のために、私は限度額無制限のマジッククレジットカードを持たされていますッ! なんでも買えちゃう魔法のカードですよ~! いまのうちに王国にツケまくって、ガンガン買いものしましょう!!」


 ――これが、この子の素の性格か!

 イイね! こういうのを待っていたんだよ。

 少しロリ天使に近い性格をしているが、変態的な欲望は持っていなさそうだ。


「へっへっへ……! 誠司さん、いつ彼女とホテルに行くんですか~? お二方を見ているだけで、わたしのライブ感が止まりませんよ~!」


 ロリ天使!?

 心の中で噂をすれば……!


 ロリ天使は道具袋から、下卑た笑いを浮かべながら出てきた。

 すっかり変態担当になったな。


「ロリ天使め。言っとくが俺には、イノビーをハーレムに加える気はないからな」


「またまた~! わたしの魔法で、イノビーさんの身体を見る誠司さんの視線を計測していましたが、顔が2割、胸とかお尻が8割でしたよ~!」


「なッ! ……お前なに勝手に人のことをッ!!」


 図星だったので普通に大声を出してしまった。

 実は、結構タイプだったのである。


「勇者様……!? どうかなされましたか? ひとり言……あ、いえ、高位魔術の詠唱をしていたようですが……!」


 イノビーだ。

 無理やり気を使わなくていいからね。


「ただのひとり言だよ。それより屋台でなにか美味しい食事でも取ろうか」


「はい! あ、できたらマジッククレジットカードが使えるお店にしましょう! 現金だと経費精算が少し面倒くさくて……」


 イイね。最高。

 イノビーの性格はだんだん兵士っぽくなくなっている。


 この適度な遠慮のなさが、普通の後輩の女の子って感じだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ