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第13話 口コミの勇者、チャンネルはそのままで!

 城の城門を抜けた。

 やけに厳重な城門だった。人も設備も。


 あと、どうやら、魔法的なアレでさらにセキュリティレベルを高めているらしかった。

 グインがこの前ちらっと言っていた魔法障壁とかいうやつだろうか。


 この辺りの設備情報は中々興味深かったので、また機会があれば色々聞いておこう。


「城を出たらすぐ町かと思っていたが……意外と距離があるものなんだな」


 俺はいま、馬車の中でゆらりゆらりと揺られていた。

 城門から町までは馬車で20~30分の距離とのことだ。


「はい……! 王国所有の土地に町民は立ち入れませんから。この城が存在する山の、まるっと全てが王国所有の土地でございます!」


 ロングスカートが広がるようにして、女の子座りをしているイノビーは答えた。


 この山が全部王国所有……!?

 城も馬鹿でかかったが、この山はでかいってレベルじゃないぞ。


 町の方向の反対側ではさらに山が広がっている。

 どうやって管理をしているんだろう?


「ところで、これから行く町って平和? 治安とか」


 俺は引っ越しを検討している主婦みたいな質問をした。


「はい、もちろん平和でございます! ただ、なにぶん活気のある町ですので、気性の荒い者どもも少なからずいます……! しかし、町に駐在しております治安維持部隊は皆優秀ですので、平和は保たれています!」


「人が多く交流する場所にいざこざはつきものだ。それは気にしない。それより、町にはどんな文化が存在し、交流があり、噂があるのか、そういった町民の『元気さ』というものに触れ合ってみたいものだな」


 城の人たちは、職業柄みんな真面目というか、堅すぎるので、俺はもっと柔らかめな人柄の人間に飢えている。


「……勇者様! それならばピッタリの道具がいま、ございます!」


 堅い表情をしていたイノビーが、少し表情を緩め、笑顔でそう言った。

 お、イイね。

 そういう反応を求めてるんだ、俺。


「へぇ、その道具ってなんだい?」


「はい、こちらでございます!」


 イノビーは自身の道具袋をガサゴソ漁り、そしてゆっくりと拳を引き上げた。


 左手の拳は、何かを握っているように膨らんでいる。

 うん……? 手のひらにすっぽり収まるサイズなのか。かなり小さいな。


 イノビーはそのまま握られた左手を、自身の顔の横にまで持っていった。

 顔を見ると、「ふふふ……!」とでも言いたげな表情だ。

 そしてそのまま左手を開いた。すると――。


 『ボンッ』と音を立てて大きな耳みたいなものが出てきた。


「耳がでっかくなっちゃった!?」


 俺がそう言うと、イノビーは少女のように笑った。


「あはは……! これは『聞き耳』の超魔装具(ちょうまそうぐ)です! 大きな耳の形をしているので、顔の横で開くと急に耳がおっきくなったように見えますよね!」


 彼女はそういって、無邪気に笑ったかと思うと、途端に「あ……!」と声を漏らした。

 そして、すぐに頭を下げた。


「申し訳ございません! 勇者様! 気が緩み、失礼なことを言ってしまいました!」


 いや、別に失礼でもなんでもないけど……。

 いまみたいに普通に話してくれると本当は嬉しいんだけどね。


「イノビー、さっきの大きな耳、凄く面白かったよ! それに、イノビーは笑うともっと可愛いじゃないか。できればずっと笑ってくれていると助かる」


「えっ……!? あ、ありがとうございます……! 恐悦(きょうえつ)至極(しごく)でございます……!」


 オーバーな言葉遣いについても、将来的には直してもらおう。


「うん。それで、その大きな耳のような道具は何ができるんだい?」


「はい! この超魔装具(ちょうまそうぐ)は、簡単に言うと町民の間で話題の噂話が、リアルタイムで聞ける道具です! 主に町民の口コミ調査に使われます!」


「へえ? それは不思議な道具だな……。どうやって使うの?」


「はい、この中に起動スイッチがあります!」


 そう言うとイノビーは、大きな耳の穴に人差し指をグイグイ突っ込んだ。

 妙な場所にスイッチがあるんだな。


 ――『カチッ』とスイッチのようなものが入った音が聞こえた。


「起動しました! この道具は、音が小さいので耳にくっつけて聞く必要があります! 一旦、私のほうで動作確認しますね!」


 イノビーはその道具を耳につけた。

 一見、片耳だけ異常にでかく見える。

 凄い絵面だ。


「ふんふん……ほうほう……。おお……! な、なるほどー! なるほどー!」


 何が聞こえてるんだ!?

 めっちゃ気になるわ。


「イノビー、なんか楽しそうだな。何か良い噂話でもあったか?」


「はい! 最近、町にとても美味しいスイーツのお店ができたようです! 口コミを聞く限り、大変評判がよろしいようです!」


 いいな、楽しそう。


「どんな感じで聞こえるんだろ? 俺にも聞かせてくれ」


「はい! もちろん!」


 揺れる馬車内のため、イノビーは膝で擦り歩きしながら俺のほうまで来た。

 馬車も揺れているが、彼女の大きな胸も揺れている。

 ……はっ! いかんいかん。欲望の渦に飲み込まれるところだった。


 目の前まで来たイノビーは、俺に大きな耳を手渡した。


「見れば見るほど、本当にただの大きな耳だな」


「もう起動はしているので、そのまま耳に付ければ聞こえますよ!」


「どれどれ……」


 俺は耳に耳を付けた。


『えぇ、一番美味しいスイーツってもう売り切れてるの〜?』

『いまの時間だとね……。毎朝作ってはいるらしいんだけど、店が開店した直後に全部売り切れちゃうんだって〜!』

『じゃあ明日は早起きして買いに行きましょう! 何時に開店するの?』

『朝の5時らしいよ』

『『『超早〜い!!』』』


 おお、よく分からんが楽しそうだ。

 町に活気があって大変よろしい。


「これって、他の口コミは聞けるの? スイーツの話だけ?」


「他のお話ももちろん聞けますよ! 耳たぶを引っ張るとチャンネルが切り替わります!」


 チャンネル方式なのか。


 俺は『カチッ』と耳たぶを引っ張り、チャンネルを変えた。


『最近サーカス団に入団した彼、めっちゃイケメンだよね~!』

 はい、次。『カチッ』

『知ってる? いま話題の資産運用。利回り年10%でさぁ……』

 はい、次。『カチッ』

『吟遊詩人コンテストの結果発表聞いたかよ? 1位はすげえ若い女の子だったぜ』

 はい、次。『カチッ』

『もうすぐ猪追い祭りだ~! 祭りの後の猪肉の串焼きがうめぇんだよなぁ!』

 はい、次。『カチッ』

『勇者様がついに現れたらしいな。なんでも相当腕が立つらしい』

 ――んん!?


 町民の噂話で『勇者』という単語が出てきている。

 まぁ噂になっていてもおかしくないのかなぁ。


「もう町では俺のことが噂になっているのかな? 『勇者様がついに現れた』とか言っているね」


「――えっ!?」


 イノビーが驚いたような表情をしている。

 うん? なんだ?


「いえ、勇者様、そんなはずはありません! 勇者様が現れた情報というのは、最短でも次の王国議会の採決を経てから、初めて町民に周知されるはずです!」


「なるほど、大きいニュースになりそうだからかな? でも、もう噂になっているようだけど――」


「勇者様! 私もその噂をお聞きします! チャンネルはそのままで!」


 イノビーは膝の高速擦り歩きで俺に一気に駆け寄った。

 そして、大きな耳を付けている俺の顔の側頭部に、ピッタリと耳を付けた。


 ――まるで記念撮影をする時のカップルのような絵面だ。


「お、おう……。2人で使う時はそうやってするのか」


 俺たちは耳を澄ませて噂話を聞いていく。


『……勇者様のパーティメンバーも、かなり変わっているようなぁ……ああいうのが勇者の風格っていうのかな』

『ああ、あれだろ? 例の女集団。何十人いるんだ? あれ』

『20~30人だっけか。いや、もっとか? なんにせよ、あの人数で勇者様が一人だけ男で、あとは全員女っていうのは凄いな。やはり女を引き付ける人徳も兼ね備えているのだろうか』


 んん?

 噂の内容を聞くと、あまり俺に似ていない気がするな……。


「やはり……! これはおそらく『ニセ勇者』ですね! 御触書(おふれがき)を出してからは、たまにこういう人が現れるんですよね……!」


「ふーん、ニセ勇者ならほうっておいても良いかな」


「いえ、噂の根源は確認したほうが良いかもしれません……! この『聞き耳』の超魔装具(ちょうまそうぐ)は、広く町民に知れ渡っている情報のみに、チャンネルが合わさるようになっています。ここまで噂になるレベルのニセ勇者は今回が初めてです! 本物の勇者様の情報を出す際に、混乱を招くかもしれません……!」


「なるほど、それは確認したほうが良さそうだな。付いてきてくれるか? イノビー」


「はい!! もちろんお供させて頂きます!!」


 なんか、ワクワクしてきた。

 町は平和であることが分かったし、活気があることも分かった。

 そして、ちょっとしたスパイスとして、事件の匂い……!


 100%の安寧とした平和を望んでいた俺だが、案外、99%程度のほうが俺には合っているのかもしれない。


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