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第10話 エルフ少女は、肴にならない!

 ラキは俯いていた顔を、再び上げた。

 ゆっくりと。


 そして、俺にまっすぐ正対した。

 そのまま、ラキはぼーっと、俺の顔を見つめている。

 目線を合わすと、ラキの目がトロンとしているのが分かる。


 ……いったい、いつまで見ているつもりなのか。


「で、事情って?」


「――え? あ、うん……。そういえば話の途中だったな……」


 雰囲気がぶち壊しになるのを分かってて、あえて話を戻した。

 もしかしたら、いまの対応はちょっとした分岐点だったのかもしれない。


 でも正直、いまの俺にはどうでもよかった。

 情婦とか言われても、俺はいま、ラキには全く欲情していないからだ。


 そもそも俺のド直球のストライクゾーンは限られている。

 俺の好きなタイプの女性は、年齢で言うと20代半ばだ。雰囲気は丸の内OLっぽい感じであれば尚良い。


 ラキは――実際の年齢はどうか知らんが――女子中学生くらいの見た目にしか見えない。

 だからだろうか、俺の下腹部に鎮座している『ジョンソン』は全く反応してくれないのだ。

 顔はどちらかといえば好みなので、多少は反応してくれるかと思ったのだが、それでも、どうもジョンソンはお気に召さないらしい。


「――私には、プライドが、あるんだ」


 ラキは、静かにそう言った。

 喋るまで少し間があったので、俺は考え事に没頭してしまっていた。

 いかんいかん。


 だが、ラキの『矛盾したことを言ってしまう事情』が、『プライド』ってどういうことだ?

 つながりがよく分からないな。


「……『プライド』? 誰にだってあるだろう、そりゃ」


 俺がそう言うと、ラキは目をつむって俯いた。

 そして、少し間を開けてからゆっくり顔を上げた。


「ああ、そうかもな。だが、私の持つプライドは普通じゃない。『呪い』と言ってもいい」


「呪い?」


「そう、呪いだ。ところで、セージは一般的なエルフの性格は知っているか? ……私は城のメイドからセージの話を聞いたんだ。異世界から召喚された勇者なんだって。セージのいた世界にはエルフはいないのかもしれないし、念のため」


 いいね、召喚されたって設定で転生してよかった。

 知らない前提で建設的な会話ができる。

 それに、俺はそもそも、本当にエルフとか知らないしな。


「いや、俺のいた世界にはエルフはいない」


「そうか……。エルフはな、一般的な性格として『プライドが高い』んだ。たぶん、人間の常識では考えられないほどプライドが高い」


「へぇ、どんな感じでプライドが高いんだ?」


 俺は素朴な疑問をぶつけてみた。


「うーん、そうだな。……たとえば好きな異性がいるとするだろ?」


「うん」


「その人のことが凄く好きなのに、自分から告白するのはプライドが許さない。だから相手から告白してくるのを待つ」


「おお?」


「でも、たちが悪いことに相手の異性も同じことを思っている。そうやって両想いとかいう謎の状態のまま、お互いの700年の寿命を無駄に消耗し、それが積み重なって、ついには全滅したエルフの里を私はいくつも知っている」


「プライド高いな!」


「……いまの話は他言無用で頼む。この話の存在自体が、エルフ全体のプライドを揺るがしかねないからな」


 ちょっぴり笑えるエピソードだが、民族の存亡に関わる話なので、当の本人たちにとっては大きな恥だろうな。


「分かった。誰にも言わないよ。それで、話の流れとしては、ラキがそのエルフたちよりも、さらにプライドが高いという内容だよな?」


 俺がそう言うと、ラキはまた俯いた。


「ああ……。私のプライドの高さはエルフのそれより、輪をかけて異常だ。自分でもどうしようもないんだ……。他者に対して虚勢を張り、威圧し、誰よりも自分が尊敬されていなければ我慢ができない」


 まるでどこかのロリ天使のようだな。


「でも、私のそんな凝り固まったプライドの鎧を、ベリベリと剥がして風穴を開けてくれた存在……それがセージだ。私は呪われた鎧を破壊された。もちろん、生まれて初めてのことだ。私はずっと待っていたのかもしれない。こんな日を……!」


 そう言いながらラキは、俺の目をまっすぐ見つめてきた。


 ……2つ、疑問が出てきた。

 順番に聞いてみるか。


「そうか。それで、俺の情婦になりたいというのは本心なのか?」


「ああ。私は、私の鎧に風穴を開けてくれたセージに支配されてみたい。完膚なきまでにこの呪われた鎧を打ち砕いて欲しいんだ。私のプライドに、トドメを刺してほしい」


 あまり理解できない感情だが、なるほど、動機は分かった。

 あと1つだ。


「話してくれてありがとう、ラキ。ところで、気絶する直前まで頑なに拒絶していたことを、なぜいまになって受け入れる気になったんだ? 寝て、起きて、頭が冷えたからか?」


 俺は最後の疑問をぶつけてみた。

 なんてことはない質問だ。だが、性格の一貫性の観点でいうと、そこだけがどうも腑に落ちなかった。


「いや、頭を冷やしたことがキッカケじゃない。頑なに拒絶していたのは……そうだな、場所が悪かったんだ」


「え? 場所?」


「ああ。セージに腹を打たれた時には、私は既に屈服していた。あの状態になった瞬間になんでも言うことを聞く気にはなっていた。だが、あの場所には私たち以外の第三者がいただろう?」


「第三者って、グインのことか?」


「そうだ。別にグインだからというわけでもなく、他の人間、たとえば兵士でも、メイドでも、町民でも一緒だ。セージ以外の誰かがいる場所だと、私は素直になれないんだ」


 なにそれ、可愛い。


「なんだよ、まだ周囲に対するプライドがありそうだな。さっき鎧が壊れたと言っていたじゃないか」


「いや、確かにプライドの鎧が壊れたと表現はしたが、それはセージに対してだけの話だ。他の者に対してはまだ鎧がある。これはどうしようもない」


 へえ。

 じゃあ他の人間に対しても素直になれるような手伝いができればいいな。

 思春期を迎えた娘を見る父親の気分だわ、いま。


「じゃあ、明日さ、俺とラキで一緒に手をつないで城中を散歩しようか?」


 俺がニコッと笑ってそう言うと、ラキはビックリしたような表情をして顔を紅潮させた。


「えっ……!」


 ラキが下を向いてもじもじしている。

 情婦としてここに来たとか言っておきながら、その反応か。

 思春期かな。


「……少し、びっくりした。セージはよく分からないやつだな。でも、昼の時より、いまのセージのほうが、なんか良いな」


「じゃあ、決まりだな! 明日、手をつないで城中を探検しよう!」


「いや、待ってくれ……! その誘いは非常に嬉しいんだが……。言っただろう? 私にはプライドがあるんだ。そんなことをすれば、私がセージに屈服していることを喧伝して回るようなものだ……!」


 ラキが半泣きのような表情でそう言った。

 ちょっと可愛い。


「なんだ? グインとかに見られるとやっぱり恥ずかしいか?」


「いや、恥ずかしいというより、グインの目の前でセージに服従していることがバレたならば、奴の一生涯の話のネタになるに決まっているのだ……! 私はそんな酒の肴にはなりたくない。私の名が語られる時は、誇り高い武勇伝でなければならない。それは私の命よりも優先される……!」


 半泣きでよく分からない論理を主張する。

 この女もブッ飛んでるな。ロリ天使とは別のベクトルで。


 騎士道精神みたいなやつだろうか?

 昼間に命を投げ打つ発言をしていたのも、それが要因だな。


「おいおい、それじゃあ俺に服従していることにならないんじゃないか? 主人の言うことを聞かないんじゃあなぁ」


 少し、柄にもないことを言ってみた。

 本来の俺のキャラではないが、ロリ天使が俺の身体を操っている時の性格と乖離が激しいと、二重人格みたいなマジモンのヤベーやつだと思われるからな。少しはキャラを近づける必要がある。


「いや、私はセージに服従している。それはもう間違いない。ただ、命令をするなら2人きりの時にしてくれ……! いまみたいな2人きりの時ならなんでも言うことを聞くから」


 ん?


「いま、なんでも言うことを聞くって言ったよね?」


「言った」


「うん、じゃあ早く部屋に戻って寝なよ。子供には遅い時間だよ」


 俺は窓の夜空を見ながら、ラキにしっしっと手を振った。

 悪意は全くないが、俺は性的に興奮していないし夜遅いので、もう素直に寝たい。


 ラキは俺の台詞を聞くとバッとソファーから立ち上がり、プルプルの口を開いた。


「私は子供ではない! こう見えてもグインより歳は1つ上なのだぞ!!」


 ラキが声高らかに叫んだ。

 今度はちょっぴり怒っているな。可愛い。


 しかし、事前にグインから話を聞いていたとはいえ、俺より年上と聞くとやはり意外だ。

 エルフっていうのは見た目では分からんもんだな。


「そうだな、大人だな。情婦としてここに来たんだもんな。じゃあ、そろそろやるか?」


「えっ……!」


 このままじゃ引き下がってくれなさそうなので、情婦としての役割を全うしてもらうことにしよう。

 済ませるものはさっさと済ませて、寝てしまいたい。


 俺は安寧とした平和な日々を過ごすことを第一にしているが、ラキの性格上、周りにバレることもなさそうだしな。

 それに、目をつむって抱きついていれば、ちょっとは『ジョンソン』もその気になってくれるかもしれん。


「えーと、うん……そうだな……。でもぉ……」


 ラキは両手の指をツンツンとして恥ずかしそうにしている。


 おいおい、さっきまでの勢いはどうした。

 言動と行動が一致していないぞ。

 矛盾の上に咲く花かお前は。


「ほら、いいから、またソファーに座れよ」


「う、うん……」


 ラキは再びゆっくりとソファーに座った。

 それと同時に俺はラキの肩に腕を回した。


「ひゃっ……!」


「ほら、キスするぞ。身体をこわばらせていないで、俺にもうちょっと持たれてきて」


「キ、キス……ッ! う、ん……」


 ラキは俺に持たれかかり、徐々にその顔を近づけてきた。

 あまりにもゆっくりとしたスピードで。


 ところが、顔と顔の距離が2~3cm辺りになったところで、ラキは顔をパッと離していった。


「ちょ、待っ……顔が、顔が近い……!」


「はぁ? 顔を近づけなきゃキスできないだろ。なに言ってんだ」


 人間の口はピノキオの鼻みたいに伸びたりはしない。


「私、ここまで異性に近づいたのは初めてなんだ……! 初めてで分からないことだらけで、少し怖い……」


 おいおい、人がせっかくやる気になっているのに。

 いっとくが、俺はここで立ち止まったりしないぞ。

 火がついた花火の導火線は消すほうがキケンだからな。


「大丈夫だ、落ち着いて……。目をつむって、ゆっくり俺に顔を近づけてくれ……」


「う、うん……」


 俺の指示通りに目をつむって、徐々に顔を近づけてくる。

 相変わらずゆっくりだ。


「じれったいな」


 俺は受け身のポジションを解消して、ラキに自分から顔を近づけた。

 そして、ラキのプルプルの口に俺の口をゆっくりと付けて、そのまま押し込んだ。


「ん!? んん~!!」


 そうだ、舌でラキの唇をなぞっておくか。

 俺は口から舌を出そうとした。すると――。


「あっ……ぅ……」


 ラキはそんなか細い声を出したあと、身体全体の力をストンと抜き、顔を離し後ろへ倒れ込んだ。


「あ、あれ、どうした? ラキ」


 ラキの身体はソファーにうつ伏せになり、倒れたままピクリとも動かない。


 俺は怪訝に思い、ラキの肩を起こして顔をのぞき込んでみた。

 あ、これは――。


「気絶してる……」


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