第1話 ロリ天使、大降臨!
俺は上原誠司、35歳。日本に住む社畜サラリーマン、だった。
さっき知ったんだが、なんか俺、死んだらしい。
「あの世へようこそ! 誠司さん。そして、おめでとうございます!!」
身長140cmくらいのロリ天使は、俺に向かってはち切れんばかりの笑顔を振りまいている。
辺り一面、地面はふわふわの白い雲。その上に存在しているのは机と俺とロリ天使のみ。
うーん、死人に言う言葉だろうか? 『おめでとう』って。
「えーと、入り口にいた受付の幽霊に説明を受けたから、俺が死んだということは理解できた。でも、おめでとうってどういうこと?」
「はい、なんとあなたは400年に一人の魂に選ばれました! 400年分の人間の魂なので、数百億人の中からたった一人です! すごーいミラクルですね!」
なに! 生まれてから、一度も宝クジに当たったことのないこの俺が!?
俺は死んでから幸運の女神に微笑まれるタイプだったのか……。
「へぇ。よく分からんが、それって凄いことなのか?」
ロリ天使はフフンと鼻を鳴らして口を開いた。
「ええ、そりゃもう! 4000年前からこのキャンペーンをやっていて、そこからピッタリ400年ごと、それぞれその瞬間に死んだ魂だけを選出しています! その瞬間ですよ!? もし、睡眠時無呼吸症候群で死ぬのがあと0.01秒遅ければ、別の人が選ばれちゃってましたよ!」
俺、そんな死因だったのか。
どおりで死んだ瞬間の記憶がないわけだ。
「なるほど。それで、400年に一人の人間に選出されたら、何か良いことあるの?」
「ええ、それはもう、めっちゃハッピーな特典がもらえます!!」
仮にもあの世の番人のような存在が満面の笑みでバンザイをして、声も大きくアピールする。
そんなに良いのか。
「どんな特典?」
「ふふふ、それはですね……」
ロリ天使はそばにあった机の下からフリップボードを取り出し、紙をめくった。
「ジャッジャーン! なんと! 死後にもらえる『善行ポイント』に、スーパーボーナスポイントが付与されます!!」
めくられたフリップボードには『10,000,000,000 ポイント追加!!』と書かれていた。
「一、十、百、千……。えーと、100億ポイント?」
「そうです! 100億ポイントです! 普通の人の人生だと、死後にもらえる善行ポイントはせいぜい20〜50ポイントほどなので、どれくらい凄いことか分かりますよね!!」
おお、なんかよく分からんが凄そうだ!
「それで、善行ポイントとやらが100億もあると何ができるんだ?」
「ちょっと待っててくださいね! ……あった、これがカタログです!」
ロリ天使はまた机の下から何かを取り出して、その手で掲げた。
――本だ。表紙には『★善人専用★ポイントプログラム ~プレミアムエディション~』と書いてある。
「プレミアムエディションですよ! この日のための高額ポイント版です! 100億ポイント分までなら、この中の商品をいくらでも引き換えられます!」
「かなり分厚いな。選び切るまでに日が暮れそうだ」
「ご心配なく! 時間制限はありません! あ、電卓ならあるんで計算は大丈夫です! 誠司さんの現在の所持ポイントは100億飛んで7ポイントです!」
「『7』!? えらく少ないな! 俺の元の善行!」
俺はとりあえずカタログを手に取りパラパラとめくってみた。
「えーと、なになに」
『天界に移住できる権利』
――20ポイント。
『天界の1丁目にある分譲マンションのワンルーム引換券』
――1000万ポイント。
『天界での労働と税金が免除になる権利』
――5億ポイント。
『天界で一番人気の遊園地の永久フリーパスチケット』
――30億ポイント。
『天界ライフを満喫できるギフト券500万天界ドル分』
――50億ポイント。
うん、それぞれの商品価値が全然分からんな。
「この一番安い『天界に移住できる権利』ってのがないと、そもそも天国には行けないのか?」
「その通りです! マストバイです! 天界=天国ですね。もし、これを選ばなかったら、ずーっとここで立ち往生です!」
「他に道はないの?」
「あとは『地獄』だけですね。これです!」
ロリ天使が雲でふわふわの地面に指をさすと、その場所にポッカリとした丸い穴が空いた。
直径1mくらい。とても深そうだ。底が見えない。
「これが地獄への入り口?」
「はい!」
「落ちたらどうなるの?」
「あまり詳しくは言えませんが、割とヤバいです!」
ヤバいのか。
「えーと、もし善行ポイントが20未満の人だったら、どうなるの?」
「はい、もし20ポイントに満たなかった場合は、もうどこへも行けないので、その方には非常に申し訳ないですが、この地獄へ続く穴に落ちていってもらってます」
俺、あと0.01秒死ぬのが遅れていたら地獄行きだったのか……。
「カタログさぁ、サラッと読んでみたけど、どれもいまいちピンとこない。他にないの?」
「……あります! 実は、引き換えられるのはそのカタログの商品だけじゃないんです! この天界に存在するものなら、なんでもいいんですよ~!」
ん?
「いま、なんでもいいって言ったよね?」
「言いました!」
「じゃあロリ天使、君に決めた!」
俺はビシッと目の前のロリを指名した。
俺にロリ趣味はないが、顔は非常に好みだ。ぜひ成長を見守りたい。
「ああ、残念ながらポイントが足りないですね。わたしの身元を引き受けるには、あと49兆9900億ポイントが必要です」
「天使、高いな!」
そんなコントを繰り広げながら、俺は善行ポイントとやらの使いどころを考えていた。
この天界に存在するものならなんでも、か。うーん……。
俺はぐるりと周りを見渡した。
周囲360度は全て水平線が見えるほど何もなく、ずーっと白い雲の地面があるだけだった。
受付の幽霊がいた場所に繋がっているドアも、なぜか消えている。
あるのはポツンと置いてある机とロリ天使だけ。
「え、入り口なくない? ここにどうやって出入りしているんだ?」
「天界への移住権を持っていれば、自動的に住宅エリアへ続く扉が見えるようになりますし、開けられますよ〜!」
「なるほど、じゃあまずは20ポイントを支払って天界とやらへ行き、それから腰を据えてじっくりと選んだほうがよさそうだな」
「……ふふふ、そうですね。でも、人間だとこの場所には一度しか来られないので、いまの内にこの素晴らしい景色を堪能してくださいね」
お、なんか含みがある言い方だな。
ピンときた。なにかあるな、ここ。
「そうだな。机の引き出しとか開けて見てもいいか?」
「はい、もちろん!」
天使の許しを得たので、さっそく引き出しを開けて物色を開始する。
――ガサゴソと全ての引き出しを開けて中身を見たが、そこにあったのはペンや白紙メモ等の事務用品、あとはポットとコーヒーカップにお茶出しのティーバッグくらいだった。
なにもない、か。
ちらりとロリ天使のほうを見る。
「ふふふ……」
ロリ天使はなんかめっちゃニヤニヤしていた。
――絶対に、なにかある。
「分かった! 引き出しの裏だな!?」
俺は四つん這いになった。
そして、引き出しの裏や机の裏などを一つずつ丹念にチェックしていく。
「――なにも、ない?」
俺は四つん這いのまま、ちらりとロリ天使を見上げた。
「うぷぷ……」
笑いを堪えるのに必死という感じのロリの顔が存在していた。
別にいやらしさは感じない。いたずら好きの女の子のそれだ。
「誠司さーん、その机にしますか? その机なら300ポイントですよ! ただ、重くて大きいのでカタログにある宅配サービスを利用してくださいね。2万ポイントです!」
もらえる善行ポイントは普通なら20~50ポイントと言っていたはずなのに、ずいぶんと強気な価格設定だな。
しかし、いまの態度で確信した。
やはりここには、なにかがある!
あの表情は『こんなにシンプルな問題なのに、どうして分からないのかな?』という、まるでいたずら少女がいじわるな謎かけをしているようだった。
あと、調べていないところは……。
――『地獄への入り口』、か。
「あの丸い穴って、近づいても大丈夫だよな?」
「はい、大丈夫ですよ! でも、足を踏み外して落ちないようにしてくださいね! 自己責任、セルフディフェンスですよ!」
ロリ天使は笑顔でウインクをしながら、親指を立ててそう言った。
よし、見てみよう。
俺は地獄への入り口に近づき、目を細めてのぞき込んでみた。
「真っ暗でなにも見えないな」
はずれか?
しかし、もう調べるところはないぞ……。
――いや、俺はまだこの穴を調べ切っていない。
見るだけじゃなくて、手を入れてみよう。
俺はその直径1mの穴に手を少し突っ込んでみた。
「地獄という割には、ずいぶんとヒンヤリしているな」
今度は、肩まで腕を入れて、穴の周囲を隅から隅までまさぐった。
――『コツン』。
うん? まさぐっていた手に何かがぶつかる感触があった。
俺はその物体をもっと触り、形を確かめていく。
どうやら、穴のふちのすぐ裏――地獄の天井には、ビニールに入った本のようなものが引っ付いているようだ。
それは数枚ほどのガムテープでデタラメに天井にくっついていた。
「いったい、これは?」
俺は奥に突っ込んだ手で、見えないながらも丁寧にそのガムテープを一枚ずつ剥がしていく。
そして全部を剥がし終わると、俺はビニールに入った本を手に取り、穴の外へと救出した。
――本の表紙を見るとそこには『裏・ポイントプログラム ~アンリミテッドエディション~』とある。
ロリ天使はおおいに沸いた。
「おお! ついに! ついに見つけてしまいましたか! それを発見できたのは、この4000年であなたが初めてですよ! 誠司さん!」
当たりか。
どうやら、これがいじわる問題の答えらしい。
「お、おう。これもカタログだよな? 封を開けて見てみても良いか?」
「あ、すみません。そのカタログ自体もポイント交換対象です。しめて10億ポイントになります」
ポイントの感覚として高いのか低いのかよく分からんな。
まぁ、100億もあるんだ。冒険してみるか。
「分かった。10億ポイント支払うよ」
「まいど~!」
ロリ天使は笑顔でカタカタと電卓を叩く。
残りは90億飛んで7ポイントかな。
俺はビニールの封を開けて、ゆっくりと本を取り出した。
「さっきのプレミアムエディションよりも薄手だが……」
手に取った本のページをパラパラとめくってみる。
そこには、さっきのカタログとまた趣向の違う文字が並んでいた。
「うん? 『異世界転生』……?」
俺は怪訝に思い、ちらりとロリ天使のほうを見る。
「ふふふ……」
ロリ天使はなんかめっちゃニヤニヤしていた。