自分の能力
俺は、お城の中のとある一室に案内された。
「これは……」
俺はその魔道具に見入ってしまった。
目の前にはとても美しい水晶のようなものが台座の上に浮かんでいた。透明で、よく宝石のエメラルドに使われてるような長方形の形だ。大きさは、赤ちゃんぐらいあるだろうか。結構大きい。それがキラキラと胸のあたりに浮かんでいる。
下の台座は円柱で、白く淡い光を放っている。円柱の上面には魔法陣だろうか?知らない文字が綺麗に円形に並んでいる。
「どうです?美しいでしょう?」
背後から突然声をかけられる。振り返ると昨日会った小太り大臣がいた。
「おはようございます」
内心「ゲッ」と思いながらも、一応挨拶をする。
「おはようございます、天落者様。よく眠れましたか?」
「はい、ゆっくり休ませていただきました。」
「そうですか、それは良かった。何かありましたら遠慮なく言って下さいね。」
と、下心がありそうな笑顔で言ってくる。
この人とはあまり話したくないな、と思ってると、大臣も俺の能力が気になるのか、
「では早速始めましょう。」
と言って、魔道具を操作し始めた。
大臣が台座に手をつくと、台座の光が強くなり、その光が浮かんでいる水晶みたいなものを包み込む。
「では、この浮かんでいる魔石に触れてください。」
あの水晶みたいなのが魔石なのか。
「わ、わかりました。」
俺はゆっくりと浮かんでいる魔石に手を近づける。何か体の中に流れ込んでくる感覚がする。そして、指が魔石に触れた瞬間、一瞬で体の中を何かが駆け巡った。
「クッ!!」
うめき声がでる。とっさに指を引っ込めてしまった。
「今のは……」
「お疲れ様です。無事終了です。」
今ので終わりなのか?調べるだけだから、大変なことにはならないと思ってたが、思った以上にあっけなかった。
魔石を見てみると、光が段々と落ち着いていってる。そして、その魔石に文字が浮かび上がった。
そう、俺の全く知らない文字で、でも何故か読める不思議な文字で
『 適 応 能 力 』
と。
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「あの、適応能力ってのはなんなのでしょう?言葉そのままの意味で捉えてもいいのでしょうか?」
俺たちは今、サロンに移動してきた。ここに居るのは俺と大臣とエルさん、そして合流してきた国王様の四人だ。国王様と大臣が居るのに護衛は要らないのか?と思うが、平和みたいだし、地球とはやり方が違うんだろう。
俺の疑問に対して、大臣が興奮したように体を乗り出してくる。
「ええ!言葉の通り凄い能力なんですよ!」
ヤバい、帰りたい。脂ギッシュなオッサンが迫ってくるってのは、悪夢だ。年齢的には俺より少し上なんだろうが、落ち着きが無さすぎる。
「過去には、似たような能力で、魔法適応能力や、武具適応能力なんてのもありましたし!ええ!」
とりあえず大臣は置いといて、国王様にきいてみる。
「そんなに凄い能力なんですか?」
「うむ、ワシも聞いたことがあるだけなんじゃが、魔法適応能力は、全ての属性、全ての魔法が使え、魔法の合成、新魔法の開発と、魔法に関してはなんでも出来る素晴らしい能力だったそうじゃ。」
なるほど、全ての属性に適応するだけじゃなく、魔法を使うこと全てに適応するわけか。
「武具適応能力は、全ての武器、防具、魔道具を使いこなせ、更にどんなに重い武器や防具でも装備することができたそうです!素晴らしいです!」
うん、この大臣はやっぱり鬱陶しい。しかし、俺のはただの『適応能力』なんだよな。ここから、何かに変化するのか、それともこのままなのか…。
もしかして、この世界で生きて行くために、この世界に適応するように与えられた能力なのかも…。だとしたら、魔法や武具みたいに戦う能力ではなく、生き抜く能力の可能性もあるか。
少なくとも、この世界の言葉と文字は解るみたいだ。あとは、魔法や仕事に適応できるなら、この世界でもやっていけるかもしれない。
俺は、そんな希望を胸に抱いたのだった。