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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
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事実の告白

「オレはーーこの世界の人間じゃない」


 オレの言葉に、皆が静まり返る。領主だけが笑顔で納得した表情だ。


「ど、どういう事?」

「どういう事って、そのままですよ。アーリアさん」


 領主がそう言うと、ギルドマスターはしばらく考えてから、


「そう。そう言う事だったのね……」


 なんとか納得したようだ。


 念のためオレは、この世界に来てからの経緯を簡単に説明しておく。

 王都で目を覚ました事、盗賊に襲われた事、魔霧の渓谷に落ちた事、エリーゼ姫との約束のために王都へ戻った事……。


「成る程、よく分かったわ。あなたが悪者じゃないって事も、強い魔力を持っている理由も」

「魔力の理由ーーですか?」

「ええ。領主はあまり魔法を使わないから知らないでしょうけど、魔力の強さには量と濃度が関係しているの。魔力とは簡単に言うと、魔素の溶け込んだ精神エネルギー。魔力の量が増えても魔素の量は増えるけど、濃度が上がっても魔素の量は増える。そして、その魔素の量が多ければ魔法を使うのに有利なのよ。けど、魔力の量は普通の訓練で増やせるけど、濃度は魔素の濃い場所で訓練しなければ増やせないわ」


 やはりオレの魔力が強くなったのは魔霧の渓谷で過ごしたからだったんだな。山田さんの本には書いてあったが、オレ以外の事例を知らないから確信が持てなかった。


「成る程、だから黒猫さんは大規模魔法を一人で使えたんですね」

「大規模魔法?」


 ギルドマスターはこちらへ目を向けてくる。まぁ、ここまで来たら、隠す必要は無いか。オレは簡単に説明する。


「その魔道具を見せて貰えないかしら?」

「あぁ、いいぜ」

「あっ……」


 オレが了承すると、リザが小さい声を上げた。以前から見せろって言ってたからな。そういやコイツら全然喋らない。なんか緊張しっぱなしっていう感じだ。


 ギルドマスターは渡した短杖をいじり、観察し、魔力を込めてみる。そして、


「な、何よこれ! なんなの、この複雑で緻密な複合型の魔法陣は……」


 ギルドマスターは驚いている。魔力を込めるときにいろいろ設定できるよう、複数の魔法陣を組み込んでいるんだが、どうやらこの世界には無かったようだ。


「はぁ、もう良いわ。あなたと敵対しなかったのは幸運だってことがわかった。これからもこの子たちと、それと私とも仲良くして頂戴」


 そう言って、短杖を返してくる。まぁこっちとしても、《クリミナルハンター》なんで物騒な所と事を構えたい訳じゃないから了承しておく。


「それじゃ、用事も済んだし私は帰るわ。今度ゆっくりお話ししましょ、黒猫さん?」


 そう言ってギルドマスターは帰っていった。一緒に領主も、ドッキリが成功したかのような良い笑顔で見送りに行った。





「ぷはぁ。やれやれ、なんとか無事におわったかぁ」

「しかし、まさか黒猫が天落者だったとはな」

「かなり驚いたけど、犯罪者じゃなくてよかったわ」


 ギルドマスターが帰った途端、『ゼット』の連中が喋りだす。


「お前ら大人しかったな。つーか、一言も喋ってないんじゃないか?」

「まあ、なんて言うか、俺たちはあの人には頭が上がらないんだ」

「ええ、上司だし、冒険者としてもお世話になっているし、その……助けてもらった事もあるし」

「そうそう、それに実力でも敵わないしな」


 あぁ、かなり強そうだったからな。それと……


「助けてもらったって、それはその腕輪に関係あるのか?」

「ーーっ! 気付いてたのか?」

「まぁその腕輪が魔力を抑える為の物ってのは気付いてたし、その腕輪に込められた魔力がギルドマスターと同じってのも見てわかったからな」

「ーーそうか。あんたも明かしてくれたから俺たちも言うが、実は俺たちは過去に魔力が暴走したことがあってな。その時に魔力を封じてくれたのがあの人なんだ。もし暴走し続けてたら、俺たちは魔力を使い切って死んでただろう」

「それって4人ともか?」

「ああ、4人ともだ」


 魔力の暴走ーーたしか魔法の制御に失敗したり、過剰な魔力を注ぎ込まれたり、精神的なショックで魔力が溢れたりする時になるものだ。それが4人同時に……。


 そういや前に、雪山の町でジュリーが言ってたか。『ゼット』のメンバーは、遺跡の探索で能力を奪われたって。それが情報がどこかでズレていったのか、はたまた意図的に操作したのかは分からないが、大変な目に会ったのは間違いないようだ。


 改めて『ゼット』の連中を見ると、一人だけ膨れっ面をしてる奴がいる。


「なに膨れてんだ?」

「私には1度も見せてくれなかったのに〜」

「あぁ、そう言う事か。もう隠す必要も無くなったからな。好きなだけ見て良いぞ」


 そう言って短杖を渡すと、


「むう、これはストーンバレットのやつ〜?」

「いや、『茨の庭』(ソーン・ガーデン)のやつだ」

「あれ〜? 前は腕輪じゃなかったっけー?」

「ちょっと改良したかったんだが、腕輪のままじゃ難しかったから、短杖で作り直した」

「って黒猫! お前自分で魔道具を作れるのか?」

「普通は作れないのか?」

「普通は専門の魔技士に頼むもんだ。まあ、あんたは普通じゃないからしょうがないか」


 なんかディスられてんな。たがこれからは、隠さずに分からない事を聞けるから精神的には楽ではある。と、


「無ぅ理ぃ〜〜」


 突然奇声を上げて、リザが机に突っ伏した。


「オイオイどうしたんだ、リザ?」

「魔法陣が〜読めない〜。っていうか〜魔法陣が多すぎてわけわかんない〜」

「え? どういう事?」


 説明を求める視線が向けられたので、なるべく分かりやすく解説してみる。


 普通、魔法陣には魔法文字が使われており、それを使って魔法陣を作るのだが、そうすると1つの効果しか発揮しない魔法陣になってしまう。例えていうと、ストーンピラーの魔法陣だったらストーンピラーだけ、ストーンバレットの魔法陣だったらストーンバレットだけだ。

 そうなると変えられるのは、込める魔力の量と、それによる魔法の持続時間、速度くらいである。


 他の魔法も使えるようにしたければ、魔法自体は自分で組み上げて、魔力を集めやすくする魔法陣や発動速度を上げる魔法陣等を使う必要がある。

 そうすれば、後は自分で魔法の種類、範囲や大きさ、威力を決めて魔法を組み上げれば良い。


 殆どの魔道士がこの方法をとっているらしいが、それだと簡単な魔法はすぐ撃てるが、難しい魔法を使う際にはかなり時間がかかってしまう。


 ベテランになると、必殺の魔法はあらかじめ魔道具として持っているらしいが、それだと魔法の威力も範囲も変えられない。


 で、オレがとった方法は、魔法陣の中の威力や範囲を決める部分を入れ替えられるようにした。元々『茨の庭』(ソーン・ガーデン)の魔法自体が複数の魔法陣を組み合わせた複合魔法陣だったので、その魔法陣を入れ替えられるようにすれば威力や範囲を変えられる。


「で〜、具体的にはどうするの〜?」

「まずは、ベースの魔法陣を選ぶ。この魔道具だと《殺傷と非殺傷》だな。その後は範囲、《自分の周り360°を60°刻み》に変更できる。後は距離だ。この魔法は円型や扇型に発動する魔法だから《10m刻みで半径10m〜50m》。最後に威力、これは硬度が《高、低》。それぞれを選ぶと魔道具の中で1つの魔法陣に纏めてくれるから、後はそれを放つだけだ」


 まぁそれぞれに魔法陣が必要だから、合計で15個の魔法陣が入っている事になる。


「んー、でもよぉ。それだと咄嗟には使えないんじゃないのか?」

「魔力を込めながら選択してくだけだから、そんなにかからない。たが念のため前の腕輪型のも残してあるから、もしもの時はそっちを使うさ」

「成る程ねぇ。で、黒猫さんはその技術や知識をどこで手に入れたのかしら? もしかして、前の世界でそう言う仕事をしてたのかしら?」

「いや、オレは魔霧の渓谷に落ちた時に、山田太一……こっちではタイチ・ヤマダって言ったほうがいいか。その人の研究所を見つけてな。そこで色々と勉強させて貰ったんだ」

「タイチ・ヤマダって、あの伝説の大魔導師の?」

「オレはこっちの世界については詳しくないから、あの伝説のって言われても分からないが、残された物から全属性の魔法が使えたらしい人だっていうのはわかったぞ」

「やっぱりそうか……」

「むぅ〜。私もそこ行きたい〜」

「いや無理だろ? オレは運良く助かったが、一緒に落ちた盗賊たちは身体中から血を吹き出して倒れ、そのまま魔物の餌になったんだぞ?」

「じゃあ〜、なんか魔道具作って」

「なんでそうなる?」

「お、いいねいいね」

「あら、私も頼もうかしら?」


 リザの発言にエゾとイザベラが乗っかる。

 しかし……いや、そうだな。オレがいない間護衛を任せるんだし、まぁいいか。


「その前に確認なんだが、魔道具って勝手に作って他人に渡しても問題ないのか?」

「そうだな、ギルドを通さずに流通させれば問題だが、知り合いに作るくらいなら問題ない筈だ」

「そうか、なら一人1つなら良いぞ」


 そうしてリクエストを聞いていく。


 ザインは、戦闘中に剣を使いながらでも使えるもの。ある程度の威力があり発動の速い、そして周りを巻き込まない狭い範囲のものとリクエストが多かった。


 エゾは迷っていたが、結局攻撃用の魔道具にした。もともと戦闘スタイル的に手数は多いが、一撃の威力が乏しかったのを補えるものが良いそうだ。オレの使っているストーンピラーでの移動を可能にする魔道具と最後まで迷っていたのだが……。


 リザは自分の知らない魔法を使えるもの、との事なので、今使える魔法を聞いてそれ以外の魔法を使える魔道具を作ることに。


 イザベラは何か攻撃手段が欲しいという事なので、その魔道具だ。もともと光属性は攻撃手段が少なく、あったとしてもアンデット用の魔法なので、何か考えてみると言っておいた。



 さて、とりあえず今日の事は、エリィとエルさんにも報告しておいた方がいいな。オレのことを知っている人間が増えた訳だし。

 そうだ、2人にも念のため何か魔道具を作っておくか。報告するついでに聞いてみよう。



 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


「と言うわけで、領主と『ゼット』の連中、そしてこの街の冒険者ギルドのギルドマスターにはバレてるから覚えておいてくれ」

「はいっ!わかりました」

「でもよろしかったのですか? あまり知られたく無かったようでしたが」

「あぁ、領主は国王様からの手紙で察してたし、『ゼット』の連中は今まで一緒に仕事をしてたからある程度信用はできる。ギルドマスターもまぁ多分大丈夫だろう」

「わかりました、ヨシキ様がそのように判断したのでしたら構いません。しかし、魔道具ですか……」


 エルさんは何か迷っているようだ。


「何か問題があるのか?」

「いえ、問題というほどの事ではないのですが、何の対価も無しに貰っても良いものかと……」


 たしかにそれだと受け取りづらいか。


 それなら


「じゃあオレがいない間、あの奴隷の面倒を見てもらえないか? 流石に大迷宮に連れてくわけには行かないし、エルさんが色々教えてくれるとこっちも助かるんだが」

「そうですね、それならその対価として受け取っても……」

「あ、あの、私も頑張ります!」

「あぁ、頼むよエリィ」

「はい」


 エリーゼ姫も頑張ってくれるみたいだし、ここは任せておこう。実際、奴隷の扱いなんて分からないし、同じ女性同士の方が上手くいきそうだしな。


 その後2人から魔道具の希望を聞いて、オレは部屋に戻った。

 ちなみに奴隷の女は、この館の使用人用の空き部屋にいるそうだ。流石に客間には泊まらせられないよな。








お読み頂きありがとうございます。


かなり間が空いてしまいましたが、

自分の思い描いた事を文章にするのって、難しい。


結局、書いて実力を着けるしか無いのでしょうね。

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