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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
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はじめての屋台

細かい計算が入ってます。

苦手な方は、そのシーンを飛ばして下さい。

 屋台出店当日、まずは掃除からだ。外観を洗浄の魔道具で綺麗にしてから、商業ギルドから借りた鍵で裏口から中に入る。


 中も洗浄の魔道具で綺麗にしてゴミや埃を一箇所にまとめ、乾いてからゴミ袋の中へ捨てる。あとは調理器具を出し、冷蔵庫にカットしたフルーツとジャム、カスタードクリームのストックを入れる。


 そして、小麦粉、卵、砂糖に、昨日作ったアーモンドミルクを入れて生地を作る。ちょっと多めに作っておくか。魔法庫に入れておけば明日も使えるから、問題ないしな。


「んー、これがご主人が今日売るものっすか?」

「あぁ。まぁ初めてだから、どのくらい売れるかはわからねぇが……」

「しかもカスタードクリームって結構レシピが高かったっすよね?」

「そうだな。でも、クリームが無いと美味しくないからな」


 オレがそう言うと、エリィが微妙な顔をする。オレが教えたレシピをオレ自身が買ったと言うのがなんとも不思議な感じなんだろうと思う。


「あの、それはなんですか?」

「これはサンプルだな。オレは注文が入ってから焼くから、完成したものがどんな感じかわかるようにしてあるんだ」

「へぇー、じゃあこれが今日売るモンなんっすね」


 そのサンプルは円錐を逆さまにして、ジャムや果実が乗っているモノーーつまりクレープだ。


 基本的に屋台は食事系が多く、スイーツ系はフルーツやジャムぐらいだ。そしてこの屋台がある場所は、近くに女性が好きそうなお店が多い。だから、クレープは売れると思うんだが、地球じゃないからどうなるかわかるない。


 そうこうしているうちに、開店時間だ。この街では、屋台は朝8時からしか開店できない。そう言う決まりになってるらしい。


 調理器具の周りに生地とカスタードクリーム、ジャム、フルーツを配置する。


 正面の雨戸のような物を外し、カウンターの上に値段とサンプルを置いて、カウンターの下のお客さんから見えないところに、コインカウンターを置く。これで準備完了だ。


 オレは調理器具の前に立ち、エリィがコインカウンターの前に立つ。お手伝い、と言うことで、今日はエリィが会計をやってくれることになっている。


 程なくして、2人の女の子が屋台に近づいてくる。


「いらっしゃい」

「あのー、ここはなんの屋台ですか?」

「うちはクレープって言う甘い食べ物を売ってるんだ。見た目はこんな感じだな」


 そう言ってオレはサンプルを指差す。


「あっ、可愛い」

「中はカスタードクリームと、ジャムにフルーツだ。ジャムとフルーツは苺、りんご、オレンジの三種類から好きなのを選べるようになってるぜ」

「んー、銅貨3枚か……。じゃあ苺で1つ」

「あっ、じゃあ私はりんごを1つお願いします」

「了解」


 円形のプレートに生地を垂らし、T字の道具で綺麗に均一に生地を伸ばしていく。ある程度火が通ったら金属の長いヘラで裏返し裏を焼く。


 焼けた丸い生地を調理用の石板の上に置き、上半分の真ん中にカスタードクリームとフルーツをのせてジャムをかける。


 あとは下半分の生地を上に被せてクルクルと巻いて、手のひらサイズの紙を持ち手用に巻いて完成だ。


 作っている様子をお客さんの女の子2人とエリィ、そしてルミィが覗き込んでいる。


「お待たせ」


 クレープを手渡し、エリィが銅貨3枚を受け取る。もう1人の女の子のクレープも作り手渡すと、笑顔でお礼を言って去っていった。


「はぁー、なんか手の動きが早かったっすね?」

「クレープは手早くやらないと、綺麗に薄く伸ばせないからな」


 昔何回かクレープを焼いたことがあるが、その時よりも体が思うように動く。スキルの影響か、もしくは身体能力が上がったからか、より早く、より正確に仕事が出来る様になっている。これなら百枚くらいは余裕かな? 


 ーーなんて、思っていたのだが……。





「苺1つ!」

「こっちはオレンジ!」

「あの、苺お願いします」

「私はリンゴを!」

「あの! 順番に作りますから、落ち着いてください!」


 何故かお客さんが殺到してきた。最初は十分に捌ける程度だったのだが、時間が経つにつれて客足が増えていき、捌ききれなくなった。


 急遽、ストーンピラーで柵を作りその柵に沿って列を作って、更にルミィに《最後尾》のプラカードを持たせて対応したが、列が無くなることは無い。エリィも疲れてきたみたいなのでエルさんに代わってもらったが、なんでこんなに売れているのかがわからない。


(因みに街中では攻撃系の魔法は禁止だが、ストーンピラーは防御系の魔法なので大丈夫だ)


 しばらく必死にクレープを作っていると、


「いよぉ黒猫。大繁盛だな」

「なんだザイン、冷やかしなら帰ってくれ」


『ゼット』の連中が来た。コイツらは、今は休暇中だ。今週はオレが護衛をするから『ゼット』が休みだっだが、まさかここに来るとは思わなかった。


「いや、ちゃんと客として来てるんだぞ? 苺2つにオレンジとリンゴ1つだ」

「ちっ、客なら仕方ねぇか」


 オレはクレープを作りながら、話をする。時間的には5〜6分くらいだが、それでこの現状がなんとなくわかった。


 そもそもカスタードクリーム自体が高級なイメージを持たれていて、それを使ったスイーツはレストランで注文しても大銅貨1枚位は軽くするらしい。それを屋台で、しかも銅貨3枚で出したから、カスタードクリームを食べたことのない人たちが殺到して来ているみたいだ。


「つーか、アンタらだって稼いでるだろ? カスタードクリームなんて店で食えばいいじゃねぇか?」

「イヤイヤ、ここのカスタードクリームの方が店で食うより旨いって噂が流れてんだよ」

「滑らかさが違うらしいわね?」

「安くて〜美味しいのが〜、人気になるのは〜仕方ないよ〜?」


 そうか。レシピだけじゃ、ちゃんとしたカスタードクリームは作れてないってことか。


「ほいっ、お待たせ。情報アリガトな。現状がよくわかった」

「ああ、黒猫も頑張れよ。週が明けたら俺達が護衛に入るからさ」


 そう言って『ゼット』は去っていった。その後は必死に作り、クレープ一個を1分ちょっとで作れるようになったが、結局300枚程で材料が尽き閉店となった。


 買えなかったお客さんも明日来ると言っていたから、ちゃんとこの屋台のシステムを把握してるんだろう。となると、すぐに明日の準備をしなくては……。


 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


「はぁー、疲れましたぁ」

「お疲れ様、エリィ。悪いな、こんなに売れるとは思わなかった。エルさんも助かった。ありがとう」

「いえ、いい勉強になりましたか」

「ええ、私も勉強になりました。こんなに売れるとは、屋台も奥が深い物なのですね」


 2人にとってプラスになったのなら良かった。ちゃんとお礼を言って、休んでもらう。


「ご主人〜、屋台ってこんなに大変なんっすか?」

「いや、普通は逆だろうな。最初は全然売れなくて、材料が余りまくる。お客さんが味と顔を覚えて常連になってくれるまでかなり時間がかかるからな。常連が出来ればある程度の利益が見込めるようになるから、そこからが本番だ。今回みたいに初っ端から材料が切れて売り切れになるなんて、まず無いぞ?」

「マジっすか? ウチ、屋台でやってく自信が無くなったっす」

「アンタはまず収入や支出の管理から覚えるべきだろ? とりあえず明日が終われば二日間の計算が出来るから、それまでは頑張れ」

「ういーっす」


 明日の材料を買い揃えるために商業ギルドへ向かう。幸い材料は十分に確保出来た。今日の2倍だ。直ぐに領主の館のキッチンを借りて、昨日と同じように仕込みを始める。ルミィにジャムを作らせて、オレはアーモンドミルクとカスタードクリームを作る。


 こういう時、魔法があって本当に助かる。アーモンドミルクを作るには、アーモンドを一晩水につけなきゃいけないが、魔法で強引に浸水させる事が出来た。これで作業が早くなる。


 そして準備が終わり、翌日になる。


 朝早めに屋台へ向かい、柵を事前に立てておく。生地は昨日のうちに作って魔法庫の中だ。材料や器具を配置してると、外から声が聞こえる。既にお客さんが並んでいるようだ。


 8時になり店を開けるとすぐに注文が入る。今日はオレはひたすらクレープを作り、エリィ、ルミィ、エルさんの3人で交代でお会計とプラカード持ちをやってもらう。


 そして、朝8時に始まった屋台は、夜8時前にまたもや材料切れで閉店となった。残った人達は一度食べた事がある人たちで、残念がりながらも納得して帰ってくれたので、事なきを得たのだが。


 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


「と言うわけで、昨日、そして今日と協力してくれてありがとう。なんとか無事に終わる事ができた」


 オレが言うと、3人とも多少の疲労はあるものの、満足そうな顔を見せてくれた。


「では、まず売り上げからだな。販売数は二日間で912個。一個銅貨3枚だから銅貨2736枚。つまり金貨27枚と、銀貨3枚、そして銅貨6枚だ」

「す、すごく売れましたね」

「屋台ではなかなか無い金額です。下手なお店より売れてます」

「数字を聞くと、頑張ったって感じがするっすね」


 確かに、オレもこれはかなり新たと思う。予想では良くて300枚くらいだと思ってたからな。予想の3倍だ。


「で、ここから材料費を引くわけだが、それは一個あたり銅貨1枚程、つまり全部で金貨9枚と銀貨1枚、銅貨2枚だ。それに屋台の利用料、二日で金貨1枚、道具のレンタル料で金貨1枚を引く」

「おおっ、そうっすね」

「さらに今回は3人に手伝って貰ったから、その人件費を引かなければならない」

「えっ? 私たちは勉強も兼ねてますからそれは……」

「いや、ルミィの勉強の為にもキチンと人を使った時の計算も覚えさせないといけないから、今回は受け取ってくれ」

「成る程、わかりました」

「一般的には1日あたり1人銀貨5〜8枚。今回は最大の8枚で計算すると、銀貨8枚×3人×2日で銀貨48枚、つまり金貨4枚と銀貨8枚。これら全てを売り上げから引くと、のこりは金貨11枚と銀貨4枚、銅貨4枚となる」


 日本円に換算すると、2日で114,400円か。なかなかの利益だな。


「そこから商業ギルドへの税金として1割納める訳だが、銅貨の端数を切り上げて計算すると、金貨1枚と銀貨1枚銅貨5枚だ。残ったのが金貨10枚と銀貨2枚、銅貨9枚。これがオレの利益になる。と言う訳だが、ルミィ分かったか?」

「んー、なんとなくわかったっす。ただ、人件費がすごく高いっすよね?」

「あぁ、だから売り上げが無いときは、人を使わずに一人でやれば人件費は掛からない。基本屋台は一人でやる場合が多いからな、今回が特別なだけだ。ただ、将来店を持った時には必要だから覚えていて損は無い筈だ」


 日本にいた時に、独立してやろうと勉強した事が、ここに来て役に立つとは思わなかった。そう思ってると、


 パチパチパチパチ


「さすが黒猫さん。わかりやすい説明ですね」

「覗き見は趣味が悪いぞ、領主」

「いえ、話の途中で入っては邪魔になると思って待ってたんですよ?」

「まぁだが、アンタのおかげでルミィに実際に経験をさせて説明する事ができた。そこは感謝している」

「そうっすね。領主さん、ありがとうっす」

「いえいえ、礼には及びませんよ。ですが、どうしてもお礼がしたいのでしたら、僕にもそのクレープを作ってもらえませんか? 材料はこちらで用意してありますから」


 用意してあるって、用意周到だな。最初から食べたいって言えばいいのに。でもお礼に作るのは吝かではない。じゃあキッチンを借りて作るかーーと思った矢先……。


「失礼します。領主様、至急面会をしたいと要望が来ております」

「こんな時間にですか? 一体誰が……」

「それが、その……、ローニー様と、そして冒険者ギルドのギルドマスターが……」


 ローニーって、この前会ったこの街で一番の貴族か。それに、冒険者ギルドのギルドマスター。この二人が至急会いたいって事は、なんかあったのだろうか?





お読みいただきありがとうございます。

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