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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
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目的の街へ

「お日様が心地いいですね」

「そうだな」

「後、風も気持ちいいです」

「それに、ケツが痛くならないのも良いな」

「そうですね」


 オレたちは今、馬車の幌の上に乗っている。骨組みが結構しっかりしていて、大人2人くらいなら乗れるとの事だったので乗ってみると、エリーゼ姫も乗って来たのだ。スカートで乗るのはどうかと思うが、エルさんもなにも言わないし、本人も気にしてなさそうだから、まぁいいか。


 さて、オレがここに乗ったのは、この先に盗賊らしき者達が居る可能性が高いからだ。昨日の夜ーー正確には今日の日の出前だがーーオレが見張りをしている時に、複数の人の気配が現れ、こちらに向かってきたのだ。


 速度的に日の出前に野営地に到着するくらいだったので、ストーンバレットの超遠距離射撃の練習台にしてたのだが、気配を察知出来ない範囲に逃げてしまった為、警戒している。馬車の中より、外の方が気配を察知しやすいからな。


「ん、やっぱり居たか」

「どうしたんですか、ヨシキ様?」

「エリーゼ姫、馬車の中に入るぞ」

「え? わかりました」


 エリーゼ姫を抱き抱えながら、後ろから馬車の中に入る。


「どうしました?」

「この先、1km程に人の気配がある。数は15人」

「!」

「どうする? エルさん」


 エルさんは暫く考えた後、


「迂回しましょう。盗賊の可能性もありますし、もしそうならエリーゼ様を危険な目に遭わせるわけにはいきません。それで素通り出来るならそれで良し。もし本当に盗賊で、追いかけてくる様でしたら、魔法で追い払いましょう」

「わかった。ザイン、迂回出来るか?」

「黒猫、相手の詳しい場所を教えてくれて」


 オレは馬車の前から顔を出す。


「あそこの右に見える森を回り込んだ先だな」

「それなら左の道へ進み、街道へ出て大きく回り込めば行けるか」


 右に曲がる予定だったのを左へ変更し、そのまま街道まで向かう。通り過ぎる際、右の森の切れ目から、複数の男と馬車が見えた。しかし、こちらから見えるということは、向こうからも見えるという事で、男たちは慌てて追いかけてきた。


 しかも馬車だけでなく、馬に乗って追いかけてくる輩も居る。そして、向こうの馬車の方が速い。どんどんと距離を詰めてくる。男たちは小汚い格好で、いかにも盗賊って感じだ。やはり、盗賊で間違い無いか。


「そこの馬車、止まれ! じゃないと命はねぇぞ!」


 このセリフで他の商人とか、傭兵たちって可能性は完全に消えたな。


「ウォーターボール」


 リザの放った魔法が馬車の御者に直撃し、馬車が道を外れていく。が、馬に乗っている奴らは、器用に魔法を躱して近づいてくる。


「ウォーターバレット」


 エルさんの放つ無数の魔法も、難なく躱して近づいて来る。コイツら、普通の盗賊じゃないのか? なら仕方ない。


「ストーンランス」


 盗賊は狙わず、地面に次々と石の槍を突き刺して行く。流石に石の槍が乱立した中を進むことはできなかった様で、盗賊達は馬を止める。そこに、


「ストーンバレット」


 足を止めた馬の目の前に、直径1mものストーンバレットをいくつも飛ばす。目の前に飛んできた大きな石に、馬達がパニックを起こし、完全に足が止まる。


「これで大丈夫だな」

「あの、ヨシキ様……凄いんですね」

「本当ですね。話には聞いてましたが、ここまでとは……」

「その話ってのは何だ、エルさん?」

「王宮内で少し話題になってたんですが、地属性が得意で、ストーンバレットだけだゴブリンの軍団を殲滅した冒険者がいるっていう噂話です。あとは、冒険者ギルドの試合で、1mサイズのストーンバレットで相手を瞬殺したって言う話もありました。流石に噂話ですから、尾鰭や背鰭が付いていると思っていたのですが……」


 するとエゾが乗ってくる。


「イヤイヤ、そいつは事実だぜ。なんせ俺達はその現場に居たからな」


 そこから、エゾが面白おかしく脚色して、ゴブリンの群れ討伐や、冒険者ギルドでの試合、さらにその後の『ラッシュ』との試合にザインが乱入した事も話してしまい、ザインからヒンシュクを買っていた。だが、エリーゼ姫もエルさんも、かなり楽しんで聞いていた様だ。


 その間オレは、後ろから賊が追いかけてこないか注意していたが、追手が来る事もなく昼前に無事に町へとたどり着いた。






「では、よろしくお願いします」


 エルさんはそう言って、警備隊の詰所を後にする。盗賊に襲われたら、報告をしなければいけない事になっているそうだ。確かにそのまま放置していたら、他に犠牲者が出る可能性があるわけだからな。


 襲われた場所と、オレが見た事を記録石で記録していた為、すんなりと報告は済み、明日には討伐隊が出発するそうだ。


 今日はこの町に留まるため、本当なら自由行動だったのだが、一応警戒して2人の警護をする事になった。たがそれは、女性がいる『ゼット』が受け持った方が良いと言う話になり、オレだけが自由行動だ。まぁ次の町ではオレが警護にあたり、『ゼット』が自由行動をとる予定だが……。


 と言う訳でオレは、冒険者ギルドで依頼を受ける事にした。この街の南東の草原に、グラスウルフが増えすぎて馬車を襲っていると言う理由での討伐だ。討伐証明は魔石で、5匹以上。この数は、他にも受ける冒険者が居るからと言う理由で少なめな様だ。


 そして報酬は金貨2枚。日帰り出来る距離の依頼だから、安めなのかもしれない。4人パーティーなら1人 大銀貨1枚だ。まぁ数が増えれば要相談で増額できるみたいだから、もっと稼げる様だが。


 直ぐに草原に移動し、15匹倒した所で更に移動する。この依頼は、実はアリバイ作りのためで、本当は盗賊連中に一泡吹かせてやりたいと言うのが本音だ。


 草原から森へ移動し、辺りに人の気配が無いのを確認してから、ゴーレム馬を出して移動する。夜だったら、ストーンピラーで跳んで行っても良いのだが、明るい内だと跳んでいたら遠くから見られてしまう可能性もある。


 1時間程移動して、やっとあの盗賊どもの気配を見つける。どうやら近くの湖で、夕食の準備を始めている様だ。


 さてどうするか……。エリーゼ姫を危険な目に合わせた報復をしようと思っていたのだが、明日には討伐隊が動く。流石にコイツらを捕まえて、町まで連れて行くのは、距離的に無理だしな。


 ーーーー


 暫く考えてから、オレは行動を開始する。


 ビネスの大迷宮で手に入れた《毒壺》から睡眠薬を作り出し、それを水と風属性の魔法で霧状にして、盗賊たちに吸わせる。ただ、そこまで強い睡眠薬にはしていない。


 全員が軽く眠りこけた所で、馬車にある荷物や食料、盗賊達が持っている武器や所持金を全て奪い、ついでに《毒壺》から下剤を作って夕食用のスープに混ぜて、その場を後にした。


 後は盗賊達の本拠地を探して叩こうと思ったのだが……。


「見あたらねぇな……。時間がないから仕方ねぇか……」


 夕暮れ前には戻ると言ってあるので、仕方なく諦めて町へと戻る。依頼の報酬は、3倍の数を倒していたが、金貨5枚だった。まぁ要相談って書いてあったから、3倍貰えるとは思ってなかったが、割と良い値段になった。


 しかも、ここから肉や牙、皮の買取価格がプラスされるのだ。肉は一体当たり金貨2枚だが、10匹分しか持ってきていないと言っておいたので、金貨20枚。アイテムバックにしまっていると偽っているので、あまり大量にありすぎても、面倒くさい事になりそうだからだ。


 牙も1匹当たり銀貨2枚で金貨2枚、皮は1匹当たり金貨1枚で金貨10枚。この皮は、グラスボアと同じで、草原の香りがするので、人気があるそうだ。


 と言う訳で、しめて金貨37枚。なかなか稼げたな。しかし冒険者ギルドの職員はかなり驚いていた。理由は、アイテムバックを持っている冒険者自体がこの町では珍しいからで、グラスウルフも2〜3体持って帰ってくれば良い方らしい。


 大迷宮を擁する街と普通の町では、冒険者の格差がある様だ。そんな事を考えながら、宿へと戻る。


 夕食の時に、エリーゼ姫にお願いされて、今回のグラスウルフの話をする。そして、興味を持ったエリーゼ姫に、グラスウルフの毛皮をプレゼントした。余程気に入ったらしく、その後も馬車の中でずっと使っていた。


 なんかミリィを思い出すな。あの子も凄く気に入っていたっけ。



 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎


「隊長! 発見しました」


 部下の示す方へと目を向ける。そこには、湖の辺りでうずくまっている、男達がいる。先日、記憶石で見せてもらった男達で間違いない様だ。


 だがどうも様子がおかしい。全員、動かずにプルプル震えている。しかし、盗賊を見逃す訳にはいかない。私は馬を降り、盗賊達に近づく。


「お前達は完全に包囲されている。無駄な抵抗はするな!」

「うっ、討伐隊か……クソッ!」


 男達は身構えようとするが、体に力が入らないのか、プルプル震えているだけだ。部下は盗賊の倍、30人連れてきたが、どうやら必要なかった様だ。しかし、何故こんな状態に……。


 その後の調べて、盗賊達は全員お腹を壊しており、まともに動けないことが発覚した。そして、何故か武器も持っておらず、丸腰だったのだ。


「隊長、捕まえた奴らによりますと、昨日の夕食後から腹を下し、そのまま身動きが取れなかった模様です。また、武器も持っていたと言っていましたが、何処にもありませんでした」

「それはまた奇妙な……まさか武器が一人で歩いて行ったわけでもあるまいし」

「可能性としては、何か変な食材の所為で腹を壊し、動けないところを他の盗賊やコソ泥に持ち物を盗まれたーーと言う感じだと思うのですが……」

「憶測で物を言ってもしょうがない。幸い盗賊達の馬車と馬は無事だ。町へ連れて帰ってから、しっかり尋問しよう」



 結局、真相は分からなかった。盗賊であることは間違い無いが、『夕食後に腹を下して、気がついたら全ての持ち物が無くなっていた』と言うだけだ。


 まあ盗賊である以上、犯罪奴隷になるのは間違いない訳だし、何より町の周辺の治安の改善に貢献できたことが、1番の成果だ。


 しかし、この前討伐隊がこの辺りを掃除した筈なのに、盗賊というのは直ぐに湧いてくるのだな。これからも油断せずに、気を引き締めねば……。



 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎



 遠くに大きな街が見えてくる。ビネスより大きく、王都に匹敵するんじゃないかと言うくらいだ。


 長かった……。最初にこの街に行こうと思ってから、かなり月日が経った気がする。でも、やっとこの街にたどり着いた。


 エリーゼ姫達と王都を経ってから1週間程、オレはようやく


 《食の街 フォード》


 へと辿り着いたのだった。








お読みいただきありがとうございます。

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